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VRの紺碧の海、紅のガレオン~女艦長スカーレットの冒険記~(改訂版)  作者: s_stein & sutasan


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決戦前

 周りはもちろんのこと、目を合わせるとすぐに反らす(みず)()先輩ですら、私の決断を待ってじっとこちらを見ている。衆目環視の的になった私は、ヨシツネとの一騎打ちの適任者が自分しかいないと認めざるを得ない。


「わかりました。私がヨシツネを倒します」


「情報提供はお任せください。他に何かあればなんなりと言ってください」


 汐留くんがみんなの言葉を代表してそう述べる。


「決して一騎打ちを挑まれても拒否してくださいね。レベル98でも瞬殺されますから」


「大丈夫です。身の程はわきまえていますから」


 すると、()()()先輩がマーカーを指で振りながら、


「問題は、みんながどこで監視しているかだ」


 これには、汐留くんが案を提示する。


「たとえばですね。奴は長崎にいる可能性が高いので、その周辺をグルグル回っていて、見つけたらスカーレットさんへ連絡を取るとかどうでしょうか?」


「長崎にいないかも知れないぞ。東南アジアやインド洋辺りにも監視の目を広げる必要はあるのではないか?」


 グルッと見渡した()()()先輩に、みんなが頷く。


「じゃあ、ここにいるみんなは、今言った海域でプレイ中にヨシツネを見かけた情報をスカーレットにチャットで送る。いいよな、スカーレット――いや、()(うな)(はら)?」


「はい、よろしくお願いします。みなさんの連絡を受けたら急行してヨシツネに一騎打ちを挑み、勝利を狙います。でも、それだけではありません。チートツールを使用しているか否かを本人の口から言わせます」


「それは無理だろう」


「無理ではありません。もしチートツールを使用していないでレベル99になったのなら、私と同じ手順を踏んだはずです。それをヨシツネが知っているかがポイントです。あのバルバロッサでさえ、手順を間違ったのでレベル98にしか行かないそうですから、絶対に同じ手順を踏んだはずです」


 すると、腕組みをしていた門前さんがニコッと笑った。


「なるほど。その手があった」


 ()()()先輩が(みず)()先輩の方を向いて、マーカで私の方を指す。


(みず)()。いいよな?」


「そこで何で私に話を振るの?」


「会長席で黙って座っているから、MCとして公平に割り振らないとだね」


「まだ発言を控えていらっしゃる方が――」


()(うな)(はら)の決意に花を添えてやれ」


 ちょっとふくれた(みず)()先輩が恥ずかしそうに私の方を見て、すぐに目を落とした。()()()先輩は、酷なことを押しつけたものだ。


「いいと思うわ」


「――と、会長の決済が降りたので」


「なんで決済ですの?」


「いいからいいから。()(うな)(はら)、よろしくな。ガツンと一発、ヨシツネをぶん殴ってくれ」


 以上で作戦会議は散会した。


 バルバロッサが私にノウハウを惜しげもなく伝授して託した思いに報いるときが来た。緊張する私は、手にかいた汗をハンカチで拭った。



   ◆◆◆



 その日の夜、20時にゲームへインすると、すぐにバルバロッサからチャットをつないできた。マカオで会いたいというので早速8隻で出港する。マカオの噴水の所へ行くと、巨漢のバルバロッサが噴水の縁に腰掛けて、表示していた画面を二度指差した。いつものように、対面でもチャットで話せと言うことだ。私は、彼の右横に座った。


『仲間はどうした?』


 すっかり忘れていた……。


『すみません。インしてすぐ呼ばれましたので、一人で来ました』


 バルバロッサの方を向くと、画面を見たままムウッと唇を歪めている様子だ。


『ヨシツネがいない隙に長崎へ入り、金印を手に入れたが覇者の宝具はもらえなかった。やはり、金閣寺発見が悔やまれる』


『レベルはどうなりました?』


『97止まりだ。98に行くと思ったのだが』


 どうやら金閣寺発見で1アップ、覇者の宝具獲得で1アップのようだ。


『ヨシツネが不正していなければ、お前がこの世界で唯一のレベル99だな』


 私が、このVRMMORPGの頂点に立っている! 急に鼓動が高鳴った。


『本当に一人なのですか?』


『当たり前だ。それまで俺がナンバーワンだったのだから』


 だから、(クン)(ロク)ってあだ名が付いたのね。


『朝からずっと奴の動きを監視していたが、中国付近で艦隊に相手されなくなると、一騎打ちを求めてパレンバンまで南下している』


 かなり行動範囲が広いことに驚く。


『それはレベル99ですから相手にしないでしょうね』


『それが、自分は旗艦1隻で戦うから勝負しろと言う。俺も言われた』


『凄い自信家ですね』


『1隻だから楽勝だろうって勝負に乗ると負けると聞いていたから、一騎打ちを申し込んだが、歯が立たなかった』


 バルバロッサが歯が立たないのに、私が勝てるのだろうか。急に自信がなくなってきた。


『ところで朝から監視って、学校大丈夫ですか?』


『お前は、人のプライバシーに関心があるのか?』


 いえ、誰でもそう思います……と心の中でつぶやく。


『そういえば、言っていなかったな。お前が見た俺のセーラー服、あれは姉貴のだ』


『そうだったのですか』


『人前で俺の学校名をさらすほど間抜けではない』


 だからと言って、お姉さんのセーラー服をさらすのもどうかと……。アニメのコスプレ制服ならまだしも。


『本当はカワイイ系のブレザーで、色とデザインで学校名が誰にでもわかるのだ。さらして学校に迷惑かけたくないしな』


 同じ論法でお姉さんの学校に迷惑がかかるから私服の方が良かったのにと思ったが、ツッコミは入れないでおく。なお、この書き込みでどの学校か想像がついてしまったが、それもうっかり他人には漏らさないことにする。プライバシーは思わぬ所から漏れるので注意したい。


『スティーブさんには見せたのですか?』


『学生証見られた』


 汐留くん、リアルなバルバロッサ――彼女とどこで何をしてるんですか!?


『さて、バタヴィアとかマラッカとか回ってみるか?』


『もし遭遇したらどうします?』


『やるしかないだろう』


 バルバロッサって、意外に作戦らしい作戦を立てないのね。おそらく、彼は私のレベル99がヨシツネに通用するのか1分でも早く知りたいのだろう。


 すぐに二人でマカオを出港し、まずはパレンバンに向かう。そこで噴水の所に行って、休憩していた軍事、商人、冒険家にヨシツネに関する情報がないか聞いてみるが、全員が首を横に振るので手ぶらで引き上げる。次は、バタヴィア。ここで軍人から「マラッカで勝負を挑まれて逃げた奴がいるって噂だぜ」という情報を得る。


『ということは、奴は東だな』


『そうですね』


 根拠はわからないが、ここは経験豊富な彼の勘に従う。


 バンジェルマシン、スラバヤ、マカッサル、アンボンと反時計回りに回ったが、「勝負を挑まれた」という情報は入るものの、ヨシツネの行き先まではつかみかねた。アンボンの噴水のところで『そろそろ北上してテルナテ、マナド、そしてブルネイまで足を伸ばそう』とバルバロッサの提案を受けてチャットを切断した直後、まりりんからチャットがつながった。


『今、ブルネイ付近でヨシツネに勝負を挑まれました』


『本当に!?』


『もちろん、逃げましたからご安心を』


『情報をありがとう』


 反時計回りにブルネイへ向かい、入港する直前に今度はカエサルさんからチャットをつなげてきた。


『マニラでヨシツネに遭遇しました。勝負を挑まれましたが相手にしませんでした』


『まりりんさんはブルネイで遭遇したそうです』


『ということは、ヨシツネは北上中?』


『可能性大ですね』


 カエサルさんとのチャットを切断すると、すぐにサルバトーレさんから連絡が入った。


『マカオでヨシツネから決闘を挑まれましたが、無視しました』


 みんなのリアルタイムな情報に感謝しつつ、これらの情報をバルバロッサに伝えて、ヨシツネの後を追って北上すると話がまとまった時、突然画面にポップアップメッセージが表示された。


 ------------------------------

 ~運営より哨戒機能改善のお知らせ~

 従来の哨戒機能はログアウトしても継続できましたが、今後はログイン中のみ継続となります。

 また、哨戒中に接近した艦隊を攻撃する手段は、手動のみとなります。

 複数プレーヤーの艦隊と同時に交戦可能です。

 敗退したプレーヤーは5分後にセーブデータをロード可能となります。

 この改善した哨戒機能は、現時刻から使えます。

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 大門くんが哨戒中のヨシツネ艦隊のすぐそばで誤ってセーブしてしまい、ゲームオーバーの無限ループに陥ってしまったので、それを回避するためにいろいろ仕様を変更したようだ。


 私がバルバロッサの顔を見ると、彼はニヤッと笑って画面の上で指を動かした。


『奴は長崎でこの新しい哨戒機能を試すはず。チャンスだな』


『そうですね。急ぎましょう』


『仲間を集められるか?』


 即答しようと思ったが、戦闘に仲間を巻き込むことになるので(ちゆう)(ちよ)する。だが、仲間を信じられないのかと疑問を投げかけるもう一人の自分がいる。


(どうしよう……)


『どうなんだ?』


 バルバロッサの催促に腹が決まった。


『集めます』


 私はチャットを使って、サルバトーレさん、スティーブさん、カエサルさん、そしてシャルロットを杭州に、ユキムラさんとラファエルさんを大阪に待機してもらうように連絡した。幸い、全員がゲームにインしていて、賛同してくれた。


 もし一騎打ちが断られたら、いくらチートといえども船はドックに格納している船も含めて16隻がMAXだろうから、私を入れて8つの艦隊が平均で2隻ずつ沈めればゲームオーバーになる。2隻でも厳しいメンバーがいるかもしれないが、私とバルバロッサがフォローする。


 一騎打ちに乗ってきた場合、私は逃げるわけにはいかない。他に勝てそうなレベルのプレーヤーがいないのだから。


 さて、ヨシツネは一騎打ちを選ぶか選ばないか。


 私は選ぶと思っている。そして、その時がチートツールを使用したか否かをはっきりさせるチャンスでもある。


 この海戦の勝利を信じつつ、私とバルバロッサは杭州へ向かった。

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