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VRの紺碧の海、紅のガレオン~女艦長スカーレットの冒険記~(改訂版)  作者: s_stein & sutasan


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ついにレベル99になった

「迷うまでもないわね」


 私は逃げるという選択肢を捨てた。このまま探検を続けて遺跡やアイテムを発見し、あわよくばレベルアップを狙う。今度レベルアップしたらMAXの99になるから、ヨシツネと渡り合えるはずだ。彼が、チートツールでよほどインチキをしていない限り。


 問題の感じから、吉野ヶ里遺跡とかを発見するか金印を手に入れるのだろう。金印が覇者の宝具かは不明だけど、なんとかの王の印鑑だから覇者って感じがする。


 さあ、問題にチャレンジだ!


 賢者の小人から問題文を聞いた後、リアルの世界へ戻って参考書を読み返したりネットで検索したりして答えをバーチャルの世界へ持ち込む。これを何度も繰り返す。割と難しい問題が出てきて苦労したけど、何とか5問全部を正解した。すると、賢者の後ろからボウッと白い人の姿が浮かび上がった。何者かと思って身構えたが、頭に花の冠を被って白い羽衣を着た女性がお盆を持って現れた。一瞬、彼女が卑弥呼に見えた。


「今回は褒美をやろう」


 賢者がそう言うと、女性が私に近づいてきてお辞儀をし、お盆を差し出した。そこには、教科書で見た金印にそっくりな物と金メダルっぽい円形で厚みのある物があった。円形の表面には、船と剣と盾と複雑な文様がエンボスのように浮き上がっていて重厚感を増している。それらを手に取って眺めていると、数秒後に消えた。画面のアイテム一覧を表示すると、「漢委奴國王印かんのわのなのこくおういん」と「覇者の宝具」が収まっていた。


「レベルは……99!! やったー!!」


 まさか、ここまで来るとは思わなかった。万感こもごも到るって言葉を最近知ったけど、そんな気分だ。


 地方艦隊募集がユキムラさんの広めた噂とはつゆ知らず、それに誘われて(みず)()先輩にゲームの世界で会いたい一心で始めたことが、つい昨日のことのように思えてくる。


 シャルロットに一から教わって、サルヴァトーレさんとスティーブさんとカエサルさんに会って、ファンクラブも出来て、バルバロッサから上位レベルへの道を教えてもらい色々冒険をして、ユキムラさんとラファエルさんの正体も知って。


 バーチャルの彼らの姿が、リアルではギャップがあって面白かった。シャルロットのココはまんまだけど。


 イヤなこともあったわね。イケメンに何度か絡まれたけど、オルデンバルトの(おる)(もり)くんのは最たるものだ。リアルで幻滅したし。


 でも、そのイヤなことを吹き飛ばしてしまうのは、(みず)()先輩が私のことを……だったこと。とても「……」の部分を言葉に出来ません。


 それらの出来事が走馬灯のように浮かんでくる。


「ちゃんと地道に努力を重ねていけば、いつかは頂点に立てることを私が実証してみせたんだ。何の取り柄もない私だけど、やれば出来るってことを。今まで頑張ってきた自分を褒めてあげたい」


 扉から外へ出た私は、そんな独り言を口にする。



 さて、これからどうしよう。


 セーブしてから、長崎脱出作戦を考えた。ヨシツネに遭遇してからかなり時間が経っているので、彼は間違いなく哨戒中だ。ログアウトしている可能性が高いので、一騎打ちに持ち込めないだろう。CPU戦でぶつかり合うか。はてまた、こちらは手動にしてあちらのCPUと戦うか。


 いずれにしても、ヨシツネとはがっぷり四つに組むしかないようだ。


 腹が決まったところで、いざ出港と思ったら、チャットをつないできた人がいた。サルヴァトーレさんだ。しばらく彼とはチャットしていなかったので、何事かと思い、ドキドキしてきた。


『スカーレットさん。やっとつながりました』


 お互いのモードが違っていたので、つながらなかったのだろう。多くのプレーヤーはクイックモードで船を動かしている時間が長い。私みたいにクイックモードを解除したまま長くいるのは少数派だ。


『ごめんなさい』


 そう書き込んだら、彼を振ってしまった「ごめんなさい」に思えてきた。


『レベル99になったのですね。おめでとうございます』


『ありがとうございます。これもみなさまのおかげです』


 書き込んでから、つい頭を下げてしまう。電話と同じだ。


『いえいえ、私などお役に立てず、すみません』


『とんでもありません』


『ところで、長崎から出港出来なくて困っていませんか?』


 いや、これからぶつかり合うところなので、困っているかというとそうでもないのですが……。


 私が書き込まないでいると、困っていると思ったらしく、


『今、杭州にいます。私が(おとり)になって哨戒中の相手を引きつけますから、その隙に脱出してください』


 サルヴァトーレさんのレベルを見ると89。ヨシツネ相手なら瞬殺もいいところだ。


『オール戦列艦でレベル96のバルバロッサが10秒で全滅するのですよ』


『私にやらさせてください』


『無茶です』


『大丈夫です。策はあります』


 チート相手に策がある? それって、かなり無謀なことをするのではないのかしら?


『その策を教えてください』


『敵を引き寄せた時にセーブします。全滅したら、そのセーブデータをすぐにロードします。すると、同じ場所に私の艦隊が出現します。それに敵はまた引き寄せられます』


 つまり、全滅と復活を繰り返して敵を足止めするというのだ。私が逃げおおせた頃を見計らってからロードまでの時間を長くし、敵が遠く離れるのを待つのだろう。これは、相手がログアウトしていて自動になっていたら可能だ。万が一ログインしていたら手動で操作され、横を通り過ぎようとしている私の方へ戦力を向けてくるはず。


『決して無茶をしないでください。全滅した後も相手がそこに居座ったら、無限ループになりますから』


 サルバトーレさんが、無言になった。おそらく、私の後半の懸念を計画の中で想定していなかったのだろう。


『無茶はしません』


 しばらくして書き込まれたその言葉を私は信じた。


『わかりました。クイックモードでスタンバイしています』


 私は出港所にワープし、クイックモードへ移行する。この状態で何も指示しなければ、停泊と同じになる。沖合で戦列艦が横一列になってこちらへ船腹を向け、通せん坊をしているのが見える。あれがヨシツネ艦隊だ。


 私の動きを監視しているのかと思ってドキドキしていると、そこへ右から船団が近づいてきた。約束通り駆けつけてくれたサルバトーレさんの艦隊だ。彼の艦隊が左方向へ通り過ぎると、ヨシツネ艦隊が一斉に左へ引き寄せられ、右側に間隙が生まれた。


 チャンス到来! 私は、全速力でその隙間を目指す。


 左の方で複数の砲撃音が炸裂する。思わず目をつぶる。


 目を開けると、そこへ右斜め前の方角から船団がやって来た。何事かと思って画面から相手の情報を調べると、スティーブさんの艦隊だった。私は彼にチャットを試みると、すぐにつながった。


『どうしてここへ!?』


『あいつにだけ格好付けさせるわけにはいきませんからね!』


 この言葉にキュンとした。


 短いやりとりをしている間に、スティーブさんの艦隊は私の前を左へ通り過ぎ、すぐに戦闘が開始された。左側の海戦を横目に見て、一気に沖へ脱出する。こうして思うと、サルバトーレさんの艦隊を撃沈させたヨシツネ艦隊が、目ざとく私という獲物を追いかけてきたに違いない。そこへスティーブさんの艦隊が立ちはだかったので、九死に一生を得たのだ。


 二人の勇敢な行為に助けられたが、いくらセーブデータからロードして復活出来るからと言って、チート相手に無茶な突撃だ。むしろ、私が彼らを守ってあげなければいけないのに。


 途中で引き返そうかとも思ったが、彼らの行為を無駄には出来ない。そのまま杭州に入港し、チャットの連絡があるかと思ってクイックモードを継続する。すると、しばらくしてスティーブさんから連絡が届いた。


『うまく奴を巻きましたよ!』


『サルバトーレさんは大丈夫ですか!?』


『見ませんでしたね!』


 嘘!? その言葉に胸が締め付けられそうになる。


『まだロードしてないんじゃないですかね!?』


 大丈夫なのかしら? 今すぐにでも長崎へ駆けつけたくなる。


 そこへ、スティーブさんの艦隊が杭州へ入港してきた。でも、彼も気になるのかクイックモードのままだった。


『サルバトーレさんから連絡はありました!?』


『ずっとスカーレットさんとつないでましたので、未確認です!』


 これだから、一対一のチャットは不便だ。


『いったん切りますね! 杭州の噴水のところで待っていてください!』


『ラジャーです!』


 私はスティーブさんとのチャットを切断して、ひたすらサルバトーレさんからの連絡を待つ。


 ところが、いつまで経っても連絡がない。待っている間に何人もの仲間から次々とチャットをつないで来るが『ごめんなさい。連絡を待っているので』と返信してすぐに切断する。


 何分待ったのだろう。気が気でなくて、待つのも限界が訪れる頃、やっとサルバトーレさんからチャットをつないできた。


『お待たせしました。やっと抜けられました』


『安心しました。敵がしつこく追いかけてきたのですか?』


『ええ。それでゲームオーバーの無限ループになってしまいまして』


『それは大変でしたね』


『私のせいです』


『どうされたのですか?』


『焦ってしまい、セーブポイントをミスりました。哨戒している敵に近すぎるところでセーブしてしまったため、ロードすると哨戒中の敵にすぐに囲まれてしまうループにはまったのです』


 なるほど。腑に落ちた。


『どうやってそこから抜けられたのですか?』


『何度か繰り返しているうちに風向きが変わり、敵の動きが遅くなったので何とか振り切りました』


 そうか。セーブデータをロードしても、その時の風向きは一定ではないのだ。


『杭州の噴水でスティーブさんが待っています。一緒に噴水の所でお話ししませんか?』


『わかりました』


 その書き込みがあってからすぐに、サルバトーレさんの艦隊が到着した。私たちはクイックモードを解除して、スティーブさんが待っている噴水の所へ急いだ。

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