見えてきたレベル99への道
いったんセーブ後、扉を開けて中に入る。すると、闇の中に見慣れた賢者の小人がボウッと現れた。「よくここがわかったのう」というお決まりのセリフに、つい「はい」と返事をしてしまう。
「第1問。金閣寺は――」
やはり、金閣寺発見のイベント発生だ。これは、バルバロッサも知らないイベントだと思うと緊張してくる。
「ある寺の舎利殿を含めた寺院全体の名前。ではその寺の名前は何か? 漢字で書け」
出た、漢字テスト! ろくおんじが正式名称だと思うけど、どう書いたっけ? この漢字テストの時、チャットを開けないようになっている。入力の文字変換機能でカンニングするズルを封じるためだ。
(おんはとても読めない字。クラスの誰かの名前にあった……。そうだ! 志苑ちゃんの苑だ! なら、六苑寺? いや、何かもっと画数が多かったような……)
「10、9、8、7……」
賢者のカウントダウンが始まった。
「あ、鹿鳴館の鹿! 鹿苑寺!」
思わず声が出てしまい、時間がないのでサラッと書いたが、汚い字でも判読してくれて正解をゲット!
「第2問。金閣寺は世界遺産に登録されている。それは――」
出た、世界遺産。このゲームの問題には、よく世界遺産が出て来るので、事前に覚えたわよ。古都京都の文化財でしょう? これで2問目も正解ゲット!
「第3問。金閣寺の創建の年は?」
誰が建てたかが来ると思ったら、そっち!? 頭に浮かんだ足利義満の名前を振り払い、覚えたはずの年号を思い出す。
(えっと、1394年? 1397年? 1406年……?)
ここで賢者のカウントダウンが始まってパニックになり、時間切れ寸前に駄目元で「1400年」と答えたが、あえなく敗退。扉の外へ放り出され、ため息を吐く。
と、その時、背後で人の気配を感じた。振り向くと、黒い服を着た背の高い人が突然の私の出現に驚いた様子で、直ぐさま背中を向けて去って行った。
一瞬見えた金ボタンの煌めき。あの黒い服は軍服だ。顔は男性と言うよりは女性っぽく、髪型はベリーショート。
「男装の麗人?」
うちの学校なら、海心都先輩がそうだ。
「どこかで見たことがあるんだけど……」
男装の麗人を連想させるあの姿を見るのは初めてではない気がする。実際に会ったと言うより、画面で見たのかも。
「そうだ。この大阪に入れるということは、レベルが90以上で日本開国のイベントをクリアした人。ということは、もしかして……」
私は、画面を表示して仲間募集の一覧をスワイプし、レベル90以上を探す。
「これも違う……これも違う……これも……違わない! これよっ!」
そっくりな人を発見した。それは、ユキムラさんだった。
「ちょっと待って、ちょっと待って! ユキムラさんが大阪にいたってこと!?」
私は直ちに出港所へワープした。クイックモードで出港したが、すでに船影はなかった。もしかして、まだ出港していないのかと、クイックモードを解除して出港所、交易所、酒場、造船所、広場を回ってみたが、誰もいなかった。
「しまったぁ……! もっと早く気づけば、『見つけましたよ♪』って言えたのに!」
前々から日本にいるのではと思っていたら予想通りだった。きっと、日本と中国を行き来していればいつかは会えるかも知れない。
その後、ゲームを抜けて参考書を読んで再度ゲームにインして賢者の問題に挑戦を3回繰り返し、ついに5問クリアで金閣寺を発見することが出来た。
池の畔に建つ舎利殿――金閣は、光を受けて輝くが、豪奢というよりも厳かな雰囲気がある。背景の木々の深緑をキャンバスとして浮かび上がる凜とした姿は、鏡湖池の水面に映り、わずかに揺らめいて幻想的な雰囲気を醸し出す。さらに近づいて仰ぎ見ると、その圧倒的な姿に息を飲む。
時が経つのも忘れて眺めていると、遠くで鳥の声がしたので我に返った。そして、画面からレベルを確認すると、91から92にアップしていた。
「ということは、このまま行けばバルバロッサを越える!?」
そう。バルバロッサから教わったノウハウに金閣寺の発見はなかったのだ。そう思うと、ゾクゾクしてきて、手まで震えてきた。
「教わった世界一周などの残っているイベントをクリアすれば、レベル97に行ける。これで聖剣が発見出来たら98になれる!?」
こうなるとレベル99も夢ではない。それには、あと一つ、何かを実行しないといけないが。
いても立ってもいられなくなったが、もう少し金閣寺を堪能した後、噴水の場所に戻ってセーブする。そして、バルバロッサの役に立つだろうと思い、この金閣寺発見を伝えるため、チャットの接続を試みた。なかなかつながらないので諦めかけた頃、向こうからチャットを接続してきた。
『何の用だ』
『金閣寺を発見しました。そうしたら、レベルが上がりました』
バルバロッサが無言になる。おそらく、驚いているのだろう。しばらくしてから、書き込みがあった。
『詳しく教えろ』
私は、侍に日本書紀と源氏物語と古今和歌集を渡したら、東方見聞録をもらったので、その後に探検したら発見出来たと伝えた。
『俺は大阪で同じ物を見つけたが、侍に会っていない』
『そうなのですか?』
『何か他に条件があったはず。アイテムでも何でもいい。何があったから侍が現れて、東方見聞録をもらえたのだ?』
私はここで、ハッと気づいた。これには、聖剣の地図を持っていることに触れなければならない。いよいよ言うべき時が来てしまった。ここは隠さずに、正直に答えることにする。
『侍が私に、珍しい物を持っているな、と言いました。それが聖剣の地図でした。ならば、これをやろうと言って東方見聞録を渡されました』
またバルバロッサが沈黙した。画面の向こうからため息が聞こえてきそうだ。
『聖剣の地図はどこで手に入れた?』
これも正直に答える。
『わかった。有益な情報を感謝する』
『お役に立てて嬉しいです』
『健闘を祈る』
その言葉に、私は涙が流れた。チャットはバルバロッサから切断されたが、私はいつまでもチャットのログを読み返していた。




