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VRの紺碧の海、紅のガレオン~女艦長スカーレットの冒険記~(改訂版)  作者: s_stein & sutasan


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大阪でアイテム交換したらとんでもないものだった

 翌日、母親の焦げたトーストを口にくわえて走るという漫画のような登校をし、予鈴ギリギリに教室へ駆け込む。すると、大門くんのそばで腕組みをして彼と談笑する門前さんを見た。周りも、「彼女はあんな顔も出来るんだ」「彼もまともに話せるんだ」と言いたげな顔をしている。ゲームショウ会場近くの駅から私たちは帰ったが、二人は同じホームへ向かったので、あれからずっと話が弾んだのだろう。学校でも楽しそうに会話をしている姿を見て、私まで嬉しくなる。


 昼休みになると、私のファンクラブの四人がやって来て、一緒にお弁当を食べませんかと誘われた。ココも一緒に六人で中庭の木陰で横座りしながら、お弁当を食べながらゲームの話で盛り上がる。スカーレットが私であることは学校内でバレているので、周りに聞こえてもいいように普通の声で日本開国の成果を披露する。リアルバレしないように言葉を選んでいたりチャットで話していたりしたことが、今は懐かしい。


 放課後は、廊下で不意に(みず)()先輩と()()()先輩を含むSP四人および追っかけ集団に出くわし、「早くユキムラさんとラファエルさんに会わなくては」と決意を新たにする。


 ヨシツネとの一戦も予定しているし、世界一周を含むレベル上げもあるし、聖剣を見つけなければいけないしで、やること満載だ。ココに誘われて始めたVRMMORPGのグランド・デクヴェルトでこんなに毎日が充実するとは夢にも思わなかった。


 家に帰ると、母親の顔を見ると思い出しそうになる養子の話とあの幼児の写真のことを忘れようと努める。これだけは、残念ながらゲームと結びつかずに影を落とす。



   ◆◆◆



 夜になってゲームにインし、クイックモードで横浜から長崎に向けて出港する。しかし、長崎ではヨシツネが哨戒中だったので、慌てて杭州へ舵を切る。いるだけでドキドキするのだから、困った相手だ。他のプレーヤーも「またあいつがいやがる」とか「早くいなくなれよ」と迷惑に思い、苦り切っていることだろう。どういう周期で不在になるかは不明だが、迷惑だと言われない程度に哨戒をやめているのだろう。本人はそのつもりかも知れないが、心理的に圧がかかり、十分迷惑なんですけど。


 遠ざかる長崎に目をやって、ふと進路である西南西に目を向けると、遠くから8隻の戦列艦が私の方へ近づいてくるのが見えた。長崎へ向かうのだろうか。


「ヨシツネがいるから無理ですよ」


 無謀なプレーヤーは誰だろうと画面を表示してタップした私は、衝撃が走った。


「ラ、ラファエルさん!!」


 大慌てでチャットをつなごうと試みる。しかし、接続してもらえない。ラファエルさんは少し北へ進路を向けて私から離れていく。まずいところでスカーレットに会ったと逃げていくのだろうか。


「ラファエルさん! 待ってください!」


 私は面舵いっぱいに取り、ラファエルさんの艦隊を追いかけるが、速力は敵わずどんどん引き離される。さらに、水と食糧が底を尽きかけたので、諦めて杭州へ方向転換した。今いる位置は目印となる島や陸地が見えず、すぐにはわからないので地図を拡大すると、東に行けば福岡辺り、南に行けば那覇辺りだった。


 長崎に向かうのではなく、その北のどこかへ進路を取ったことになる。


「どこへ行こうとしたのだろう?」


 杭州に向かう間、その謎解きにチャレンジしていると、入港直前に閃いた。


「そうだ! 長崎を迂回して関門海峡を通り、大阪へ向かったんだ!」


 ラファエルさんは大阪にいる、あるいは大阪と杭州の間を行き来している可能性が高い。そこで、手早く交易を済ませて大阪へ向かうことにした。


 島も陸地も見えない海をひたすら進み、右側に九州の陸地が見えた頃、S字カーブのように関門海峡をくぐり抜ける。それから瀬戸内海の島々の多さに驚きながら航行し、時折現れる船団を見て、もしや村上水軍ではないかと身構えるも、他のプレーヤーの船らしく通り過ぎていく。小豆島らしい大きな島を左に見て、うっかり鳴門海峡に入らないように北へ進路を取り、淡路島を右に見ながら明石海峡をすり抜ける。そうして、大阪の港町を発見した。位置的には堺なのだろうが、表示は大阪だ。


 すぐに広場へ直行する。好天の下で市場が開かれていて、活気に溢れている。女性の艶やかな和服に目が行くが、それよりも男性の髪型――(ちよん)(まげ)がどの世界にもない独特なものなのでそちらに目が行ってしまう。日本に来航した外国人も、同じ物を目にして同じ思いをしたことだろう。


 ドキドキしながら噴水の方へ向かったが、誰もいなかった。画面を表示して「探検」メニューをクリックしたが、扉は出現しなかった。


「ここからなら、法隆寺とか金閣寺とか行けそうなのにね」


 そう思うと、バルバロッサから教わった遺跡の中にそれらがなかったのが不思議に思えてきた。


 少し待ってみたが、誰も来ないので、広場から町へ行ってみることにした。もちろん、宝箱探しが目的だ。


 建物は全て木造の平屋建て。中国の時も木造の家屋だったが、こちらはノスタルジーを感じる建物ばかりだ。やはり、心は日本人なのだろう。全ての建物の扉を開けて入手したのは、日本書紀、源氏物語、古今和歌集。もっと戦闘に役立つものが欲しかったが、残念。


 さて、最後の建物のチェックが終わったので帰ろうとすると、背が高くてイケメンの侍が私の方を見つめながら小走りにやって来た。今までの例では、町でイケメンに会うとろくな事がない。


「うわっ、ここで絡まれるとは、最悪」


 出港所へワープして逃げようとしたが、その侍が「そこの御仁、待たれよ」と手を伸ばしてきたので、勢いに負けて体が固まった。


「な、何でしょう……」


「実は、(ぬす)(びと)に先祖伝来の家宝を盗まれて探しておるのだが、見かけなかったか?」


「何を盗まれたのですか?」


「日本書紀と源氏物語と古今和歌集だ」


 なんと、今全部宝箱からゲットしたのですが……。


 もし、プレーヤーだったら、他人のアイテムを自分のものにすることは出来ないので、「持っている」と言っても「それをこちらに渡せ」とは言えない。ということは、今目の前で私を見下ろしているイケメンの侍はNPCということになる。ならば、これはイベント発生だ。


「ええ、持っています」


「何!? それをどこで手に入れた!?」


「その辺りの建物にあった宝箱からです」


「なるほど。そこに隠しておったのか。手に入れたところ悪いが、それを返して欲しい」


 せっかく手に入れたアイテムを手放すのは惜しいが、先祖伝来の家宝と言われると断れない。


「いいですよ」


「おお、かたじけない!」


 すると、ピロローンという電子音が聞こえてきて、画面にアイテム一覧が自動的に表示され、ついさっき手に入れた日本書紀と源氏物語と古今和歌集が光の粒となって消えた。


「おや? 珍しい物を持っているな」


「何でしょうか?」


「聖剣の地図だ」


 それまで欲しいと言われたら、さすがに断るつもりでいると、


「ならば、これをやろう」


 侍がそう言うと、またピロローンと音がして、アイテム一覧に「東方見聞録」が現れた。不思議な書物を持っている侍だと思っていると、


「きっと役に立つはずだ」


 そう言って背中を向けた侍が颯爽と去って行く。彼の言葉が耳に残り、リフレインのように響いた。


「何の役に立つのかしら?」


 東方見聞録って、マルコポーロがジパングを紹介した本だ。東に黄金に溢れた国があると。


「黄金……黄金……。もしかして!」


 (ひらめ)いた私は、噴水の所まで駆けていって、画面から「探検」メニューをクリックする。そして、正面を向いた途端、思わず叫び声を上げてしまった。


「キター!!」


 思った通り、扉が出現したのだ。

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