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VRの紺碧の海、紅のガレオン~女艦長スカーレットの冒険記~(改訂版)  作者: s_stein & sutasan


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黒船ならぬ紅船で日本開国

 食事の後、再びゲームショウの会場を回って見学とプレイを楽しむ。いつの間にか私と汐留くん、大門くんと門前さんのペアが出来上がり、最初は一緒に行動し、途中からペアごと別々の行動になった。汐留くんは、本当は企業ブースの間を走り回りたいのだろうが、私をしっかりエスコートし、この角度からならよく見えるとか、ここはこの時間帯は空いているとか、始終気を遣ってくれた。大門くんと門前さんのペアを見かけたとき、二人が心から楽しそうにしている姿を見て、一緒に来てもらって本当に良かったと思った。


 学校で誰からも相手にされず、ひとりぼっちだった彼らは、もうこの会場で過去の自分を置いてきたような気がした。



 充実した一日を過ごして満足な私は疲れを覚えて、帰宅後にそのまま眠りこけた。夜の8時過ぎ、何かの拍子に目が覚めた私は、家に誰もいないことに気づいてスマホをチェックすると、母親から『帰宅が遅くなる』とメールが届いていた。カップ麺でお腹を満たした後、まだ疲労は残っていたが、ヘッドギアを装着してVRゲームにダイブした。



   ◆◆◆



 さて、何から手を着けようかと考えたとき、真っ先に思いついたのは日本開国だ。要するに、ペリーの代わりに江戸幕府へ開国を迫るのである。


 その前に、はっきりさせたいことがあるので、私はバルバロッサにチャットを試みた。ところが、相手が出ない。モードが違うのだろうと思って、クイックモードにしようとした途端、つながった。


『何の用だ』


 昼間のセーラー服姿の彼女からは想像が付かない書き込みだ。


『今日はお疲れ様でした』


 バルバロッサがしばし無言になる。まさか、別人であるまいかと焦ると、


『そんなことのためにチャットをつないだのか』


 呆れられているが、これは別人じゃない証拠だ。ホッと胸をなで下ろす。


『いえ』


『また始まった。お前は、いえ星人だな』


 このツッコミは拾わずに、本題へ入る。


『単刀直入に伺います。どうして私に攻略サイトにもないレベル上げのノウハウを教えていただいたのですか?』


 またしばらく無言が続く。聞いてはいけないことだったのかと不安になると、


『お前が28もの地方艦隊を引き連れていること。その中に、スティーブ・アイゼンがいたこと。それが理由』


 そういうことだったのだ。腑に落ちた。


『ありがとうございます』


『人望がないとあれだけの地方艦隊が集まらない』


 その人望とはゲーム上の話だと思うが、ほとんど学校の知り合いが集まっているのが実態。もちろん、それは伏せておく。


『お前は、スティーブ・アイゼンとどこまでいったのだ?』


 いきなりのバルバロッサらしくもない発言に大いに動揺し、顔がカーッと熱くなるのを感じた。画面に見えているアバターがセーラー服姿の彼女に脳内変換される。


『ご一緒したのは初めてです』


『どこで知り合った? ゲームでか?』


 (ため)()いがちに書き込む。


『クラスメイトです』


 すると、バルバロッサの反応がなくなった。絶句したのだろうか。何か補足した方が良いのかと思っていると、


『あいつは思いやりと気遣いの塊みたいな奴だが、シャイだから、うまく表現が出来ないでいる。わかってやれ』


 ここで、バルバロッサから一方的にチャットが切断された。彼女は汐留くんとは攻略サイト執筆の仲間でありオタク同士の付き合いだと思うが、もしそれ以上の関係とか片思いだったら悪いことをしてしまった。



 気を取り直して、杭州から開国のため日本へ向かうことにした。史実では下田に入港するはず。まずは、そこへ目標を定めてみる。


 後でわかったことだが、これが大間違いだった。歴史はちゃんと勉強しないといけないと痛感。


 途中で補給できる港町はないはずだから、船員は最低人数とする。ただし、未知の海賊が登場するかも知れないから、ガレオン船を8隻に編成して向かうことにする。村上水軍とか出没するのだろうか。レベル90でも太刀打ちできないほどハイレベルだったらどうしようかと考えると怖くもあるが、楽しみでもある。


 探検の時のように水と食糧を満載して、東シナ海を渡り、九州の南を回って四国を左に見ながら航行するが、風向きが向かい風なので、スイスイとは進まない。おそらく紀伊半島を過ぎた辺りから水と食糧が半分以下になり、風が時々凪になるので焦燥感が募る。


 半島の先っぽらしいのが見えてきたので、ゆっくり左へ舵を切り、海岸沿いに港町を探していると、左側に雪を被った富士山が見えてきた。もちろん、クイックモードなので鳥瞰図の構図ではあるが。でも、日本無双の霊峰を()でる余裕はなく、早く目的の港が見えないかと、そればかり気になる。でも、ここで、はたと気がついた。


「富士山が見えるって、ここは駿河湾じゃない?」


 曲がるところを間違えた。仕方ないので、このまま海岸線に沿って移動を続ける。なんとなく伊豆半島をなぞっているような気がしてきたので、そろそろ下田が見えてくるはずだ。私は見張りのアントニオの吉報を待ったが、いつまで経っても答えがない。このまま相模湾を回ってしまうのではと思い、進路を東に取ると進行方向に島が見えてきたのでそちらへ向かってみる。比較的大きな島だったので、もしや補給基地とかあるかと思ったが、グルッと一周しても何もなかった。結局、水と食糧不足でGAME OVER。


 本当に下田でいいのかしらと、いったんゲームを抜けて参考書を開いたが、これが大間違いとわかって天井を仰ぎ、開いた参考書で顔を覆う。


「ペリーは浦賀に来航じゃない!」


 下田を過ぎてから見つかった島は大島とわかり、それを右に見ながら北東に進路を取れば浦賀水道に入れる。今まで自分の勘が良く当たるので信じてそれを頼りに行動していたが、外れたとなるとそろそろ運に見放される頃かと心配になってきた。


 ゲームに再度ダイブして、意気込んで杭州を出発。長い長い船旅の後、間違って曲がった場所を通り過ぎ、伊豆半島の先っぽらしいところも過ぎて、大島を目指す。前方に見えてきたところで、北東に進路を取り、水と食糧がかなり減ってきていることにドキドキしながら、陸地が近づくのを待つ。


 すると、左側に陸地が見えてきた。これが三浦半島だろう。そこに近づいて、海岸線に沿って北上する。


「お頭! 港が見えますぜ!」


 待望のアントニオの言葉と同時に、港町っぽい雰囲気の場所に近づいた。


 と、その時、私は空中から甲板へ強制的に着地させられた。これはイベントの発生だ。何が始まるのかと思っていると、港の方から小舟が5隻ほど近づいてきた。


(何、あの漁船は?)


 スルスルと近づいてきたそれらの船が、旗艦の前で通せん坊をする。これから何が始まるのかドキドキしていると、突然、兜を被った武士を先頭に髷を結った武士が五人、甲板上に出現した。一瞬、新撰組かと思ったほどよく似ている着物を着ている。あなたたち、どんな術でワープしたの? と言おうとしたら、先頭の武士が「取り調べを行うから、一緒に来い」と言う。反論しようとした途端、部屋の中へワープした。


 そこは、扉が一つしかない部屋で広さは出港所と同じ。何が起こるのだろうと不安と期待が入り交じる中を待っていると、ギーッと扉が開いて、髷を結った武士たちが十人くらい現れて私を取り囲む。そこに人相が悪く腹黒い感じのする太った武士が現れて、私の正面に立ち、薄気味悪い笑いを浮かべて一歩前に出た。


「南蛮人が何しに参った?」


 こういうときに、なんて言えばいいのだろう? 何も考えずに来てしまったので、場当たり的に答える。


「水と食糧を補給したい」


「南蛮人と取り引きはしない」


「ええい! ならば、大砲をぶっ放すぞ!」


「物騒な奴だ。引っ捕らえろ!」


 ズオーン!!


 効果音とともにGAME OVERの画面が表示される。


 いったんゲームを抜けて、もう一度参考書を読む。おそらく、これが正解だろうと思われるセリフを考えて、ゲームに戻る。


 浦賀沖に近づくとイベントが発生し、甲板に武士が登場。また部屋に飛ばされて武士に囲まれた。


「南蛮人が何しに参った?」


「親書を将軍に渡したい」


 もちろん、持っていないが、どう反応するかで次の言葉を考える。


「そのような親書を受け取れる役人はおらぬ」


「ならば、このまま北上して、武装した船員を連れて上陸し、将軍へ渡すがそれでも良いか?」


「山吹色のものを渡してくれるなら考えてもよい」


 なんだ、袖の下が欲しいんだ。


「いくら欲しい?」


 すると、太った武士が目角を立てる。


「我々を金で懐柔するとは不埒千万! 引っ捕らえて打ち首にせよ!」


「そっちが欲しいって言ったじゃない!」


 ズオーン!!


 またもやGAME OVER。


 袖の下がダメなら強引に北上して上陸し、江戸城まで行軍しようと思い、セーブデータをロードする。


 再び武士に囲まれ、人相の悪い武士が質問する。


「南蛮人なら珍しいものを持っているはず。それが欲しい」


 えっ? 何それ? 何しに参ったって言うかと思ったら、セリフが違うじゃない。


「親書を将軍に渡したい」


「それが珍しいものなのか?」


「将軍宛の親書だぞ。貴様に渡すものなどない」


「手ぶらで参るとは不届き者め! 打ち首にしろ!」


 ズオーン!!


 またまたGAME OVER。


 ひどい。ひどすぎる……。


 頭にきたので、今度は、浦賀沖でたくさんの小舟が近づいてきた段階で、砲手のドミンゴに「大砲をぶっ放して!」と指示した。


 ドドーン!! ドドーン!!


 海上にダブルカノン砲の咆哮が響き渡る。すると、小舟が散り散りに逃げていった。


 スカッとしていると、また小舟が10隻も近づいてきた。懲りない連中にまた大砲をお見舞いしようと思ったら、見張りのアントニオが「お頭。使節団が来るぜ」と言ってきた。それから小舟が旗艦に接近すると、甲板にゾロゾロと二十人ほどの武士の集団が現れた。そして、中央にいた口髭が立派な武将が一歩進み出た。


「親書は受け取るが、返事は1年待って欲しい」


「待てない。今すぐ決断せよ」


「それは無理だ」


「なら、出直すから、水と食糧を分けてもらいたい」


 確か、史実ではペリーは1年待たずに半年で来航した。このゲームも正直に1年待つ必要はないはず。水と食糧を満杯になるまで補充した後、いったん杭州へ戻り、直ぐさま引き返した。それから、浦賀沖に到着したが小舟がやってこないので、大砲を盛大に鳴らす。


 ドドーン!! ドドーン!!


 すると、小舟が10隻現れて、慌てふためくように近づいてきた。そして、前回と同じ武士たちが甲板現れ、口髭の立派な武将が前に出てこう述べた。


「長崎、兵庫、大阪、下田、横浜、函館を開港する」


 ついに日本開国のイベントが成功! 旗艦が紅のガレオン船だから、黒船ならぬ紅船で開港を迫ったわけだ。


 レベルを確認すると90から91にアップ。戦利品ではなく報酬として、金貨500万枚が増えていた。


「よーし! これで、ヨシツネがいなければ長崎に入れる!」


 私は、浦賀に入港して水と食糧を補給できるか試したが、天津の場合と同じく断られたので、北上して横浜に入港。ここで補給した後、交易所で絹織物、浮世絵などを少し買ってからセーブした。



   ◆◆◆


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