リアルなバルバロッサはまるで別人
ゲームショウでいろいろなブースを回り、新作ゲーム機や新作ゲームなどを見たり体験したりしたが、どうしても彼女の姿が頭から離れられず、人混みの中にあの学生服姿を探してしまう。
会場内で私服ではなくわざわざ目立つ学生服に身を包み、人前で恥ずかしそうにしていたが、ひとたびゲームのスイッチが入ると圧倒的な実力を見せつけて風のように去って行く。そして彼女は、おそらく実力でグランド・デクヴェルトの頂点に立つバルバロッサ。彼――実は彼女――が、突然レベル99に君臨したヨシツネに疑惑の目を向け嫌悪を感じているのは明らかだ。
そんなバルバロッサが、なぜ攻略サイトにまだ書いていないノウハウをスカーレットに教えたのか? 一度、互いにリアルで会ってみて、確かめたい。
お昼が近かったので、早めに食事を取ろうという話が四人の間でまとまり、会場に併設されている食堂でサンドイッチや飲み物を選ぶ。座席は混雑していてまとまって四人が座れる場所がなく、あっても荷物が置かれていて、結局二人ずつ別れることになった。
汐留くんは私をエスコートするようにぴったり横にいて、彼が荷物やパンフレットの袋でリザーブ済みだった向かい合わせの座席に案内してくれた。一方、そんな私たちをチラチラ見る大門くんと門前さんは、少し離れた場所で向かい合わせに着席した。汐留くんが頬を染めて耳まで赤くして嬉しそうにしている顔を見ていると、これは元々デートだったのではないかと思えてくる。彼は一対一では誘いにくいので、大門くんを誘った。二対一では恥ずかしい私が、そこに門前さんを誘った。互いの気恥ずかしさが、今このような形になって二人のデートをカモフラージュしているといったところか。
ゲームについて語り出すと止まらない汐留くんの話を聞きながら、時折大門くんと門前さんの方へ目をやると、門前さんの笑っている様子の横顔と真っ赤な顔で微笑む大門くんの横顔が見える。特に、門前さんは学校ではまず見せない表情だ。
(誘って良かった……)
そう思って、汐留くんの方を向くと、見覚えのあるセーラー服姿の女生徒が視界に入った。あのバルバロッサだ。ギョッとした目つきの私を不審に思った汐留くんが、私の視線を追って後ろへ振り返る。すると、彼女の目がこちらを向いたが、表情一つ変えずにスルスルと近づいてきた。
前髪を切り揃え、肩まで掛かるストレートの黒髪。あどけなさが残る顔は、やはり小学生に見えてしまう。汐留くんの斜め後ろに立った彼女は、私に半眼を向け、顎で私の方を指し示す。それを見た汐留くんは、
「ああ、知り合い」
いつもの熱っぽい語りは影を潜めて私をそう紹介する。すると、彼女は聞き取れないほどの小声で、
「どこ?」
「デクヴェル」
もちろん、VRMMORPGのグランド・デクヴェルトのことだ。
「エルヴイは?」
おそらく私のゲームでのレベルのことを聞いているのだと思う。
「90」
「そ」
「低いときに、会ったことあるはず」
彼女は私をじっと見てから少し眉を上げた。
「そ」
何とも短い会話をする彼女からは、バルバロッサの口調が想像できない。これは周囲の目を意識している会話であって、おそらく彼女の内面はバルバロッサだと思うが。
「挨拶する?」
汐留くんの提案に私の心臓が跳ね上がるが、彼女は私から視線を切った。
「それより」
ここでは声に出すのが憚られる話があるらしく、汐留くんの左の袖を引っ張る。
「ちょっと席を外します」
彼は彼女に袖を引っ張られたままどこかへ去って行った。大門くんと門前さんがそんな彼を見送った後、二人で同時に私の方を見た。女の子に取られた彼を私がどう見ているのか気になったのだろうが、私は何事もなかったかのようにサンドイッチをつまんだ。
彼女――バルバロッサが「やあ、久しぶりだな」と語りかけるのは幻想だった。リアルとバーチャルの世界の断絶を感じる。心の中に冷たい風が吹き抜けていく。
しばらくして汐留くんが一人で戻ってきた。
「チャットつないでいいですか?」
一瞬、ゲームのことかと思って焦ったが、スマホのチャットのことだろう。以前、四人でアドレスを交換したが、もっぱらチャットはゲームの中だけだったので、彼とのスマホのチャットは久しぶりだ。
『あいつの話だと、どうも、チートツールは実在するみたいです!』
やはりそうか。あいつとは、彼女のことだ。どこかで情報を仕入れたのだろう。私はため息をついて、スマホの画面の上で指を滑らせる。
『噂は本当だったのですね!』
『99の奴が使ったかは不明ですが!』
『どうしましょう!?』
『問いただして、不正の証拠をつかんで、運営に言うしかないでしょう!』
『でも、どうやって証拠をつかめばいいのか、わかりません!』
『長崎へ行って締め上げるってどうですか!?』
締め上げても、不正をしている相手が白状するとは思えない。それに、証拠をつかむのはかなり難しいと思われる。
ならば、相手に勝負を挑み、不正をしても結局負けるとわかれば諦めるのではないか?
『レベルをもっと上げて、相手をやっつければどうでしょう!?』
『なるほど!』
『みんなでレベルを上げて、一気に攻める!』
『よっしゃ! いっちょ、やりますか!』
汐留くんが顔を上げて、ニコッと笑った。




