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VRの紺碧の海、紅のガレオン~女艦長スカーレットの冒険記~(改訂版)  作者: s_stein & sutasan


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参考書を持っていきたい探検

 セーブデータをロードした私は、レベル上げに(いそ)しむことにした。まず、近いところでは万里の長城だ。杭州の広場から噴水の所へ行き、画面を表示して新しい「探検」メニューをタップする。ところが、扉が出現しない。何度やってもダメだ。


「えっ? ここじゃ何も起きないの?」


 となると、他の港町だ。このゲームでは杭州より北に中国の港町はないから、南の港町へ行くしかない。そこで一つ一つ回って噴水の所へ行き「探検」メニューをタップしてみたが、扉は出現しない。


「ということは、未知の港町があるということかしら?」


 もう海賊は出てこないだろうから、私は旗艦である紅のガレオン船1隻のみで出港することにした。長旅になると予想されるので、船員は最低限の六十人にして、積み荷の部屋を全て水と食糧の部屋に置き換え、MAXまで補充する。そして、クイックモードで海岸沿いにゆっくりと北上した。


 見張りのアントニオに千里眼の眼鏡を持たせているから、きっと小さな港町を見つけてくれるかも知れないと思っていると、当たりだった。この付近は、前に港町を探しに一度来たはずだが、レベル80に達したから登場するようになったのだろうか。


 港は「天津」と表示されている。しかし、メニューには造船所も交易所も酒場もなく、あるのは出港所と広場だけだった。クイックモードを解除して出港所に入ってみると、窓口が一つしかなく、こちらを向いた青年が迷惑そうな顔をしている。試しに青年の方へ近づいてみると、「外国人には売らないよ。帰んな」と無愛想な言葉を投げかけられ、右手で犬でも追い払うようにシッシッと手を振る。要するに、この港に入ったら補充は出来ないのだ。水と食糧をMAXにして助かった。


 広場に行ってみると、人々が奇異の目でこちらを見ている。彼らから逃げるように噴水のそばへ行き、早速画面を表示して「探検」メニューをタップ。すると、目の前に焦げ茶色の木製の扉が出現した。縦と横のサイズは、私が余裕で通り抜けられるほど大きい。興味があったので、扉の真横から眺めてみると、扉自体が見えなかった。まさか、紙のように薄いのだろうか。


 ドアノブに手をかけてソッと押してみると、音もなく開いた。少し開かれた扉から見えるのは真っ暗な闇。何だか、お化け屋敷に入るようで怖い。でも、勇気を出して中へ足を踏み入れてみる。


 体を中に入れるとひとりでに扉が閉まり、暗闇からボウッと小人が現れた。立派な白いガウンを着ていて白いベレー帽のようなものを被っている。これがバルバロッサが言っていた賢者なのだろう。彼は、私に向かって「よくここがわかったのう」と言った後、早速問題を出題した。


「第1問。万里の長城は、きょうど等の北方の異民族が侵攻するのを防ぐために作られたのじゃが、このきょうどを漢字で書け」


「はいいっ!?」


 いきなり漢字テストを出題されて面食らう私にスポットライトが当たって、自動的に画面が表示された。どうやら、この画面を指でなぞって書けということらしい。


(えっと、強度、郷土……)


 教科書問題なのだろうけど、漢字が思い出せない。すると、小人が「10、9、8……」とカウントダウンを始めた。こうなるとパニックになる私は、適当に「強度」と指で書いている最中に時間切れとなった。


「出直してくるのじゃ」


 賢者がそう言ってクルッと背中を向けると、辺りが急に明るくなったので目を閉じる。水の音がするので目を開けると、いつの間にか噴水の前に立っていた。扉の中から強制的に放り出されたのだろう。


 教科書問題に答えられなかったので、悔しくてセーブし、ゲームからログアウトする。そして、ヘッドギアを被ったまま本棚にある歴史の参考書を開いて「ああ、これかぁ」と納得する。匈奴って文字を久しぶりに見た。


 ベッドに仰向けになって、再度ゲームへログイン。セーブデータをロードしてから、賢者へ会いに鼻息も荒く「探検」メニューをタップする。


 姿を見せた賢者の質問に身構え、覚えたての「匈奴」の文字を頭に描いていると、


「第1問。万里の長城は月面から肉眼で見えるか?」


 問題が変わった。同じ問題が順番に出てこないのだろうか? だとすると、これはかなり厄介だ。


「えっと……肉眼で見えるかって、見えるわけないじゃない」


「正解。望遠カメラでなら見えるそうじゃ」


 へー、そうなんだ。本当は勘で答えたのだけど、ラッキー。


「第2問。万里の長城を建設した皇帝の名前を漢字で書け」


 うわっ、また漢字!? でも、皇帝の名前って、これしか知らないのよね。私は「始皇帝」の名前を書く。


「正解。始皇帝は初代の皇帝じゃ」


 賢者の割に、大したトリビアを言わないのね。


「第3問。万里の長城は世界遺産に登録されているが、登録区分は何か?」


 知りませーん。いくらカウントダウンしてもわかりませーん。


 こんな調子で、問題につまずいたらログアウトしては調べてログインを繰り返す。かなり面倒なレベル上げだ。カエサルさん――門前さんなら楽勝なんだろうなぁと羨ましく思った。


 でも、何問か続けているうちに、最初の漢字問題が出てきた。何問か用意されていて、それを順繰りに繰り返しているのだろう。このおかげでなんとか5問をクリアできた。


「では、万里の長城へ案内するから、ついてくるのじゃ」


 そう言って賢者が回れ右をして去って行くので、私は暗闇の中を追いかけた。まさか、ここから延々と闇の中を歩き続けるのかと思ったら、辺りがスーッと明るくなって賢者も消えて、いつの間にか私は万里の長城の上に立っていた。


「わー、すごーい!」


 通路の両側にレンガが積み上げられた壁面があり、一定間隔に切り込みがある。遠くに山々が波打つように見える。誰もいないので、通路を走ってみる。兵隊が詰め所に使っていたような場所に入り、壁に触れるとひんやりする。このリアルさは、さすがVRゲームだ。


 レベルを確認すると、80から81にアップしていた。


 再び遠くの山を見て感慨に浸る。達成感が募ってくる。「おーい!」と叫んでみる。さすがに、こだまは返ってこなかったが。


「よし! この調子で、頑張ろう!」


 私は、セーブした後、画面から「出港所」をタップしてワープした。

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