バルバロッサからノウハウを教わった
ガレオン船7隻でリスボンに到着後、新規のガレオン船を1隻購入。それを改造している間に地中海に入って東へ進み、北アフリカの海岸沿いにバルバロッサの艦隊を探し回る。港町に入って広場へ行き、噴水付近でプレーヤーの会話に耳をそばだて、「バルバロッサ」の情報がないかをチェックするが、期待する情報は皆無だった。仕方なく、改造が終わる頃にリスボンへ戻り、8隻で杭州へ向かう。
いよいよ、あと1隻で目的達成まで来た。私はガレオン船を新規購入して改造を依頼後、大胆にもバルバロッサの本拠地であるチュニジアの港町チュニスへ入ってみた。ここでばったり出会ったらどうしようとドキドキしたが、クイックモードを解除して噴水付近に行ってみると、誰もいなかった。
仕方なく帰ろうとすると、ちょうど三人の商人がやってきた。これ幸いと彼らに「バルバロッサを見かけませんでしたか?」と問いかけたが、肩をすくめられるばかり。諦めて立ち去ろうとすると、厳つい顔をした軍人風の男が現れて、こちらへ近づいてきた。
「バルバロッサを捜しているって?」
「ええ」
「お前はあいつの何なんだ?」
「何なんだと言われても……話がしたいだけです」
「話? まさか、チートの件じゃないよな?」
これにはギクッとした。でも、この「チートの件」とは「バルバロッサのレベルがチートツールで得たものであると疑っている件」にも取れる。誤解を招かないように、はっきり言った方が得策だろう。
「ご存じですか? 長崎にいるレベル99のプレーヤーを」
不思議そうな顔をする男は、眉間の皺を揉んだ。
「そっちは知らねえな」
「その件でお話ししたいのです」
「ふーん。話をしに行っても取り合わないと思うが」
なんとなくバルバロッサの居場所を知っていそうな雰囲気が漂っているので、ズバリ聞いてみる。
「バルバロッサはどこですか?」
男が険しい顔になった。
「どうしても会いたいか?」
「はい」
「シラクーザから東に行ってみな。今はその辺りにいるはずだ」
一礼した私はクイックモードに戻り、改造が完了しているかを確認。ちょうど終わっていたので、いったんリスボンへ船を受け取りに行き、8隻に編成してからセーブする。そして、シラクーザへ向かい、入港して補給した後、クイックモードを解除して広場の噴水へ向かった。
行ってみると、噴水の縁に腰掛けた軍服姿の巨漢が一人だけいた。彼は丸太のような腕で腕組みをし、考え事をしているのか、足下に目を落としている。三角帽子を被り、みぞおちまで届く豊かな赤毛の顎髭を蓄えていて、なんとなく海賊っぽい雰囲気だ。今にも顔を上げてギョロッとした目で睨まれたらどうしようと思うと足が震えてくるが、深呼吸をして腹に力を入れ、ゆっくりと近づいた。
「あのー」
私の声に、男はスッと顔を上げた。歴戦の勇者というのがぴったりの顔立ちで、吸い込まれそうな青い目をしている壮年の男性だ。彼は直ぐさま、厄介な相手が来たとでも言いたそうな顔をする。そして、無言で画面を表示し、人差し指で二度指した。チャットで話せと言っているのだろう。私も画面を表示する。その時、チャットの相手の名前を見てギョッとした。バルバロッサではないか。いきなりのビンゴで心臓がバクバクになると、彼からチャットをつなげてきた。
『何の用だ』
『はじめまして。スカーレットです』
『そんなの、画面を見ればわかる。挨拶なんかいらん。用件を話せ』
『いきなりですみません。長崎にレベル99のプレーヤーがずっと哨戒中って噂を知っていますか?』
『そいつが俺と何の関係があると言いたい?』
『いえ、そうではなくて、そんなレベルの高い人なら古参のプレーヤーでしょうから、昔からご存じかと』
『名前は?』
『スカーレットです』
『じゃなくて、そいつの名前だ』
ギクーッ! 聞いていなかった! なんたる失態……。
『いえ、噂なのでそこまでは』
『お前は、根も葉もない噂を拡散する奴か?』
『いえ、違います』
『見たのか?』
『いえ』
『お前は、いえしか言えないのか?』
バルバロッサは深いため息をついた。それからしばらく何か操作をしていると、
『お前は28も地方艦隊を抱えている猛者か』
『ええ、おかげさまで』
『ええも言えるのだな』
彼がニッと笑ったので、私もつられて笑う。
『言いたいことはわかった』
『ありがとうございます』
『要するに、長崎のそいつがチートだと言いたいんだろう?』
『はい』
『証拠は?』
『ありません』
『そのチートが迷惑をかけたのか?』
『いえ。運営側からも具体的な迷惑行為を教えるように言われていますが、哨戒は迷惑行為ではないそうで』
『証拠もなし、迷惑行為もなしで通報したのか?』
『はい』
『お前は、正義感に突き動かされた阿呆だな』
バルバロッサは私の表情を見て、すぐ画面に目を落とす。
『いきなり99になる奴が許せないんだろう?』
『はい。不正行為は許せません』
『でも、不正の証拠がない』
『はい』
『それで、レベル96の俺に協力を願い出たと。不正の証拠をつかんでくれと』
『私も仲間も協力しますから、ぜひご協力いただければと思いまして伺いました』
『無理だ』
この即答はある程度覚悟していたが、いざ言い渡されると気持ちが深く沈んでいく。
『チートツールは、サーバに不正に侵入してデータを書き換えるもの。だったら、運営側というかシステム管理者側が把握できるはず。それが出来ないから、今の今までチートツールが大手を振っているのだろう?』
『そうかも知れません』
『なのに、プレーヤーの我々がどうやって証拠をつかむ? ツールの利用者が白状するとでも?』
『それは……』
『まさか、チートツールの客を装って作成者に近づくとか、刑事ドラマみたいなことを考えてはいないよな?』
『そこまでは考えていませんが、それでも不正は見過ごせません』
バルバロッサが画面を見つめたまま、長いため息を吐いた。
『レベル80じゃどうにもならない。それが、お前にとって悔しいのだな?』
図星だ。だから、ハイレベルの彼にすがっているのだ。
『はい』
『なら、人を頼るより、自分が強くなれ』
彼が、私の方をチラッと見た。あれは、決意を促している目だ。
『はい!』
『レベル80を越える方法を教えてやる。攻略サイトは80までしかなくて、そこから先は経験者しかわからないからな』
『ありがとうございます!』
『それと、何かに役立つかも知れないから、ゲーム内でスクショと動画を撮る方法を覚えておけ』
なるほど。不正行為の情報を見聞きしたら、それらを保存して証拠とし、運営側に訴えればいいのか。
私はバルバロッサからレベル80を越えるノウハウを一通り教えてもらった。さらに友達申請まで許可してくれた。これには舞い上がるほど嬉しかった。
『いろいろとありがとうございました!』
『今まで教えたことが、不正を暴く手段になることをよく覚えておけ』
あれ? どういう意味だろう? 彼の言葉の意味を考える私は、指が止まった。
『わからないのか?』
レベル80を越える方法が不正を暴く? なぜ?
『ちょっと考えさせてください』
『考えるまでもない。答えはもっと前に言ったぞ』
私はチャットのログを遡った。すると、彼の言う「答え」が目に留まった。
『わかりました! 攻略サイトは80までしかなくて、そこから先は経験者しかわからない、ですね!』
『そうだ。そいつに、どうやって99まで上げたか聞いて見ろ』
『チートツールを使ったのなら、答えられないですね』
『それか、デタラメを言うかだ』
『ありがとうございました!』
私が最敬礼をすると、バルバロッサは立ち上がって、何処ともなく立ち去った。




