ヒットアンドアウェーの逆を行く
スラバヤの港へ近づくと、1つの船団がジッと動かずに待っているのが見えた。詳細情報を調べてみると、レベル77のフォス率いる4隻の戦列艦と3隻のガレオン船で、もちろんオランダ船籍だった。もう1隻、補給のため港に接岸しているはずだ。2隻の戦列艦で苦労したのに、それが4隻とは冷や汗が出る。
「何であんなに戦列艦が強いのかしら?」
画面のヘルプから船種について調べてみると、戦列艦は鉄甲船の上を行く最高の装甲を持ち、大砲はダブルカノン砲を最大100門装備出来るとある。ちなみに、ガレオン船は最大60門だ。私はフル装備なのでダブルカノン砲を60門装備しているが、相手はそれより60%以上多く装備できるのだ。この大砲の数で単純計算すると、4隻の戦列艦はおよそ7隻のガレオン船に相当し、フォスの艦隊との戦いは11隻のガレオン船を相手にするようなものである。
そう考えると及び腰になる。でも、仲間をこのまま見捨てていいのか? 敵のレベルは77。それを超えたレベル79である私以外に、誰が勝てるというのか? 私は拳をグッと握り、腹に力を入れ、両手で両頬をパンパンと叩いた。
「勝てないと思った時点で、もう負けたも同じ! ここは勝利を信じて進むわよ!」
私はクイックモードを解除し、甲板の一番高いところで画面から指示を出し、敵船にゆっくりと近づいた。すると、相手もこちらの動きを察知したらしく、ゆっくりと動き出した。念のため、相手に一騎打ちを挑むと、「プレーヤーは不在です」と予想通りのポップアップメッセージが表示された。このプレーヤーも、哨戒モードにしてログアウトしているのだ。
CPUがどんな動きをしてくるのかは予想が付かないが、それを見極めて迎え撃つのではなく、こちらが意表を突けば混乱するのではないか?
では、どうやって意表を突くか。例えば、逃げた振りをして踵を返して戦うのはどうだろう。ヒットアンドアウェーは攻撃して逃げるだが、その逆をいくのだ。
「よし! アウェーアンドヒット作戦だ!」
私がさらに敵船へ近づくと、相手がグングン近づいてくる。その時、私は2隻ずつ組になって向きを変え、一斉に東北東、北東、東南東、南東へと4つの方向へ船を進めた。
敵船は私たちと同じく、2隻ずつ組になって追いかけてくるが、7隻しかいないので南東方向へは1隻で追いかけてきた。これがガレオン船だった。1隻に追いかけられた私の2隻をグルッと正反対に向きを変えて迎え撃つ。これは、ほぼ無傷で勝利した。
残りの6隻がある程度東の沖に出ると、敵の6隻が再び哨戒態勢に入るためか、西のスラバヤへ戻っていった。
「なるほど。逃げたと思って、追ってこないわけね」
再び8隻でスラバヤに近づき、相手が動き出したら、3隻、3隻、2隻に分かれて北東、東、南東の方向へ船を進める。すると、相手は2隻ずつに別れて追ってきたが、私の2隻を追ってきたのは2隻のガレオン船だった。こちらも逃げる道を引き返して、砲撃をお見舞いする。私の船は損傷を受けたものの、相手のガレオン船は2隻とも火だるまになって船体が大きく傾いた。
これで、敵は4隻の戦列艦のみになり、私たちが遠くへ逃げるとスラバヤへ戻っていった。
「さあ、次が勝負ね」
一対一では絶対に勝てない。大砲の数からいって少なくともガレオン2隻を戦列艦1隻に当てないと無理だ。戦列艦は100門装備しているとは言え、船首砲と船尾砲を除いた98門が左右に分かれるから、片側は49門。同じ理屈で、こちらの60門装備のガレオンは片側が29門。2隻で58門。数で勝るし、アイテムで百発百中だから、勝算はありそうだ。
またもや西のスラバヤへ近づき、相手が動き出したら、2隻ずつに分かれて東へ4方向へ逃げる。すると、4方向を1隻ずつで追ってきた。
「よし! 相手が向きを変えたら、こちらも方向転換して一斉攻撃よ!」
東へある程度の距離を逃げると、4隻の戦列艦が一斉に西へ向きを変えた。
この時、風が東から西へ強く吹いた。私たちは風上に立った。まさに神風だ。
私たちの船は一気に向きを変えて、戻る戦列艦に船腹を向けて照準を合わせる。
「全船、砲撃開始!」
8隻の砲撃音が海上にこだまする。これには意表を突かれたのか、敵船は無数に被弾しながらゆっくりと進路を変え、船腹をこちらへ向けて反撃に出る。相手へ的確に着弾するのに悔しいほど沈まないが、確実に耐久度は下がっている。しかし、こちらも被弾して耐久度が下がっていく。
時間との勝負だ。
「お願い! 耐えて!」
願いが届かず、すでに砲撃を受けていた味方の2隻が沈んだ。でも、その2隻と戦った敵の戦列艦は燃え広がり、動けないでいる。
「みんな! 頑張れ!」
1隻の戦列艦が大破して船体が傾くも、また味方の1隻が海中に没した。残った味方の1隻を他の応援に回す。
一対三の勝負で、戦列艦は沈んだが、味方も1隻沈められた。残った2隻を応援に向かわせる。
そして、一対四の勝負は、戦列艦が大破して沈没した。残りは動けないでいた戦列艦だが、味方の攻撃で簡単に沈んだ。
すると、スラバヤから1隻のガレオン船がやってきた。フォスの補給担当の船が攻撃に参加してきたのだ。しかし、味方の餌食になるだけだった。
戦利品は金塊と金貨200万枚。でも、レベルは79から80に!
「やったー! レベル80だー!!」
私はその場でへたり込み、クイックモードを解除したまま、まゆりんさんへチャットをつなぐ。
『お待たせしました、まゆりんさん。ようやく終わりましたよ』
『ありがとうございます! 広場でお待ちしてます!』
スラバヤへ寄港して、セーブもせずに、早速広場へ向かう。噴水のそばで、まゆりんさんとみなみんさんに会うと、丁寧にお礼の言葉をもらい握手まで求められた。二人とも素敵な色合いの商人の服を着ていて、可愛いアバターが羨ましい。私の時は今のアバターを出すまでに目の前のアバターが出たことがなく、ちょっとジェラシー。
また、まゆりんさんがぺこりと頭を下げた。
「ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「いえいえ。おかげでレベルアップできました」
「それはおめでとうございます!」
「ありがとうございます。お二人は、今のうちに他の海域へ移動した方がよいですよ」
「そうですね。そうします」
「では、お気をつけて」
「あのー」
「どうしました?」
「先ほど――」
急にまゆりんさんが辺りを見渡して小声になった。
「噂を聞いたのですが」
近くに商人風の人が二人いるので、気にしているようだ。私は近づいて耳を傾け、小声で問いかけた。
「どんな噂ですか?」
「どうやら、長崎にとんでもないプレーヤーがいるそうです」
「とんでもない?」
「ええ。哨戒で誰も近づけさせないのだそうです」
「オランダ船ですか?」
「らしいです。それが――」
まゆりんさんがさらに小声になった。
「レベル99なのだそうです」
私は愕然とした。レベル99はこのゲームのMAXだ。真っ先に思いついたのは、例のチートツールのことだ。
「チートとか噂が立っていませんか?」
「そこまでは聞いていません」
私は画面を表示し、仲間募集の一覧を見た。ざざっとスクロールすると、レベル90以上の人は数人いた。その中にはレベル92のユキムラさんも含まれる。しかし、何度スクロールしても94が最高である。
(可能性としては99になれると思うけど……なんか、引っかかる)
「どうしました?」
まゆりんさんの問いかけに我に返った私は、「何でもありません」と笑った。
(これはスティーブさんに相談しよう)
二人と別れた私は、チャットでスティーブさんを呼び出した。




