鉄甲船の海賊
翌日もまた、ガレオン船の補充を続けて杭州とリスボンを行き来した。長い航路の間は、ずっとチャットを続ける。待っている人が多いから、一人当たりのお話は短めにした。スカーレットが小海原であるとバレていることを念頭に丁寧に応対する。ただし、うちの学校の生徒ではない可能性もあるので、こちらからは学校の話題を振らない。相手から振られたら答えるようにしている。でも、会話の様子から「この人、もしかして社会人?」という人はいないので、全員がうちの学校に通っている生徒のような気がするが。
「いやー、気を遣うわ……。でも、楽しい」
ゲームをやっているのかチャットをやっているのかがわからない状態に苦笑するが、これもVRゲームの楽しみ方なのだろう。
VRMMORPGは、相手がどこの誰かがわからない状態でプレイするものだと思っていたが、名前までわかっている、あるいは名前はわからないが同じ学校だということはわかっているという相手とプレイすると、こうも見方が変わるものなのか。
レベルアップしたので、空になった宝箱にまたアイテムが登場しているかも知れない。私は、中国の港町を一つ一つ訪れて広場を経由して町に入る。すると、泉州で長寿の水を見つけた。これを所持していると、水不足や食糧不足になっても船員たちの疲労度があまり下がらないらしい。丹念に探してみるものである。
そうこうしているうちに、杭州のドックに8隻の船を預けることが出来た。
「やったー! これで準備OK!」
セーブの後、早速日本に開国を迫ろうかと思ったが、ボスが登場したらと思うと出港に躊躇する。
「レベル80になってからにしよう」
しかし、レベルアップに必要な海賊は鳴りを潜めている。まだ何か条件が必要なのだろうと思い、未踏の朝鮮半島へ足を伸ばす。すると、仁川を発見。ここの宝箱で、極彩色の髪飾りを手に入れた。これを身につけると魅力がアップし、酒場で船員を募集すると普段より5割も集まる人数が増えるらしい。
「最初から欲しかったなぁ、これ」
ガレオン船で1隻のMAXである三百人集めるのに、結構苦労したことを懐かしく思い出す。もちろん、極彩色の髪飾りを装着してセーブする。それから仁川で織物をたくさん購入して那覇に向けて出港した。
東シナ海を南下することになるが、長崎は遙か東だから砲撃を受けない。少し波の高い海を進んでいくと、突然、東から木造船の集団が現れた。ジャンク船ではない。大型の安宅船だ。しかも、8隻もいる。
「やっぱり、何か足りないと思っていたら、仁川に行かないと海賊が出てこないのね」
相手はレベル75のコンゴウという人物。目を大きく見開き、いかにも荒くれ者という雰囲気がアバターから伝わってくる。いつもの通り、相手からチャットをつないできた。
『やいやい! 南蛮人風情がうろつくな!』
プレーヤーは日本人なんですが。
『あなたも三つ子?』
『あなたも三つ子? って何だ?』
おや、こちらの会話をそっくり拾ってきた。今度会ったら、別の言葉にしてみよう。
『別に。聞いただけ』
『なら、勝負といこう』
まずは自動で海戦に挑む。私と同じレベル75なので、勝利するはず。船体がボロボロでも。
敵船の砲撃は凄まじかったが、こちらもダブルカノン砲を連射したので、敵は全艦とも火に包まれて海中に没した。戦利品は鼈甲細工、銀塊、金塊で、レベルは75から76にアップした。
「なんか、リー三兄弟のパターンの雰囲気がそこはかとなく……」
となれば、急いで修理に向かおう。地図を広げると、現在位置は仁川、那覇、杭州のどの位置にも等距離にあることがわかった。
「一番近いのは長崎って、どういうことよ……」
風が南から北に向かって吹いているので、仁川に戻ることにした。ところが、艦隊の向きを変えた途端、東から大型の安宅船が現れた。よく見ると、4隻は先ほどのコンゴウと同じだが、もう4隻は黒光りしている。安宅船に鉄の装甲を施した鉄甲船だ。これはかなりヤバい。しかも、相手はレベル76のコンゴウという人物。髭面のボサボサ頭で、ほくそ笑んでいる。
『従兄弟の敵討ちに来た』
いとこのパターンなのね。その表情で敵討ちって言われても、怒っているように見えないのですが……。
『おとなしく逃げた方がいいわよ』
『おとなしく逃げた方がいいわよって何だ?』
そう来るのね。
『言葉通りよ』
『なら、勝負といこう』
自動で進めてもいいが、運に左右されるし、その次にまた「従兄弟の敵討ちに来た」って現れる可能性が高い。ここは、クイックモードを解除して手動で指示をする方が、負けても諦めがつく。
私は甲板の一番高いところに立ち、戦闘態勢に入っている船員たちを見渡してから画面を表示。風は南からなので、まずはコンゴウの船団の南に回り込む。そして、狙いを鉄甲船に定める。敵もそれに感づいたのか、バラバラの方向に逃げ出した。一番近いところにいる鉄甲船に接近し、
「全船、砲撃開始!」
1隻の鉄甲船に8隻ガレオン船のダブルカノン砲が集中砲火を浴びせる。大音響を上げて大部分が吹き飛んだ敵船は、みるみるうちに海中へ没した。これを、逃げる鉄甲船を1隻ずつ捉えてから繰り返す。敵も応戦し、砲撃が的確に当たるので、こちらの損傷が広がる。大工のレオナルドは戦闘中も応急処置をしてくれるが、被害が拡大するので追いつかない。
(ここは、冷静にならないと!)
焦らず確実に船を動かし、何とか4隻の鉄甲船を排除したのでホッとする。
「全船、砲撃止め!」
私は、レオナルドの応急処置の時間を稼ぐため、敵船を追わずに砲撃も追跡も停止した。すると、こちらが追ってこないとわかったらしく、残りの4隻の大型安宅船が近づいてきて、一斉に船腹をこちらに向けた。
「全船、砲撃開始!」
双方の死力を尽くした砲撃合戦が続く。
ようやく敵船が2隻沈んだときに、味方の1隻が火に包まれて船体が傾いた。
「お願い! 頑張って!」
さらに味方の1隻が水没し始めたとき、ついに敵の2隻が炎に包まれて海中に消えた。戦利品は掛け軸、メノウ、金塊。レベルは76から77にアップ。
2隻を失った悲しみに心が掻きむしられたが、私はクイックモードに移行して仁川に退避するよう指示した。すると、すぐに東から船団が現れた。
「嘘でしょ……」
私は、恐怖のあまり息が止まった。
現れたのは8隻の鉄甲船。しかも、相手はレベル77のコンゴウ。口を開けた金剛力士像のような怖い表情をしていて、顔まで赤い。まるで赤鬼だ。
味方はボロボロの6隻。相手は無傷の8隻。今の状況で、一対一ならまだしも、鉄の装甲で固めた船を8隻とも沈められる気がしない。
「ひるむな、私!」
両方の頬をパンパンと叩いて、腹に力を入れて決断する。こうなったら、あの方法しかない。
「一騎打ちを申し込むわよ!」
私は画面上で力を込めて敵船をタップし、「一騎打ち」を長押しした。




