海賊三兄弟
近づいてくるジャンク船は8隻。レベル71のリーに率いられた船団だ。人相の悪いアバターから、海賊だろう。ついにやって来た。緊張のあまり、ゴクリとつばを飲み込む。
ジャンク船は身軽な船らしく、あっという間に追いつかれる。すぐにリーからチャットをつないできた。
『誰の許可を得て交易をしている?』
海賊の割に、役人みたいなことを言う。
『誰が交易しようと自由でしょう?』
『今すぐ立ち去れ』
杭州のドックに船を預けているのだから、お断りである。
『やだ』
『なら、船と積み荷をよこせ』
簡単に正体を現した。
『じゃあ、覚悟しなさいよ』
『じゃあ、覚悟せよ』
あれ? 会話が被った。このゲームのAIは万能ではないのか、こちらの言葉を無視して最後の決められた言葉を発するようだ。
レベル72の私に対して海賊はレベル71と低いので、ここは自動で楽勝だろう。ただし、勝利してもレベルが上がらない可能性はあるが。
とりあえず自動で進めると、私たちのダブルカノン砲でジャンク船が次々と沈没していく。どんな作戦で来るのか心配していたが、あまりに簡単に勝利したので拍子抜けした。戦利品はお茶と絹織物。しかも、レベルが72から73にアップした。ボーナスステージなのか。
私たちは航海を再開してマカオへ向かっていると、またジャンク船が東からやって来た。画面をタップすると、同じアバターでレベル72のリーだった。
「性懲りもなく現れるわね。双子の兄弟?」
船団の構成をチェックすると、4隻がジャンク船だが、もう4隻は大型ジャンク船だった。少しはパワーアップしたらしい。リーの方からチャットをつないできたで、どんな会話になるのか楽しみに接続を許可した。
『弟の敵を討ってやる』
ああ、そう言う設定なのね。やっぱり、双子だったんだ。
『いいわよ。相手になってあげる』
『じゃあ、覚悟せよ』
最後のセリフは一緒のようだ。もう少し会話を楽しみたかったが、いきなり戦闘状態に入った。これも楽勝。戦利品は絵画と銀塊で、レベル73から74にアップした。
「おや、こんなに簡単でいいの?」
イージー過ぎてかえって不安。落とし穴があるかも知れない。でも、レベルがトントンと上がったので、警戒心はすぐに薄れた。
――実は、後でわかったことだが、これが落とし穴だったのである。
私たちはマカオに近づくと、また東からジャンクの船団がやって来た。しかも、またもや同じアバターでレベル73のリーだった。
「あんたたち、三つ子なの!?」
船団は8隻とも大型ジャンクだった。すぐに、追いつかれて、リーからチャットをつないできた。
『弟の敵を討ってやる』
だったら、最初から強い兄貴から出張りなさいよと思ったが、ちょっと遊んでみる。
『まさか、あんたたちって、六つ子じゃないわよね?』
『俺たちは三つ子だ』
おや、ちゃんと会話が成立している。多くのプレーヤーが同じ質問をするので、AIが学習したのか。
『海賊なんかやめて、まともに働きなさい!』
『言わせておけばいい気になりやがって! 覚悟せよ!』
きっと、何を言っても最後の言葉は変わりそうにないと思われる。いきなり海戦が始まったので、自動でお任せにしたが、大型ジャンク船は統制が取れていない船団であるかのように、バラバラに散らばっていく。それをガレオン船がバラバラに追いかけていく。そうして、一対一の海戦が始まり、どういうわけか次々とガレオン船が沈んでいくのである。
始めは呆気にとられていた私だが、原因に気づいて青くなって頭を抱えた。
「しまったあああああっ! 造船所で修理をしていない!」
そう。それまでの2連続の海戦で船が損傷した状態で臨んでしまい、しかも一対一で引き離されて、無傷の相手と砲撃合戦を行った結果、船が耐えられなくなってしまったのだ。
7隻とも沈められた私は、空中から海へ落下し、いつもの通り丸太にしがみついて海を漂う。
「レベルアップに騙された!!」
いとも簡単にレベルアップするので、また次も勝利するだろうと、修理のことをすっかり忘れて海戦に臨んだ結果がこれだ。ゲームのAIが人間の心理を突いたことに苛立ちを覚えつつ、セーブデータをロードした。
海賊が現れることがわかったので、ドックに預けた1隻を組み込んで8隻で出港する。
まず、アモイ沖合でリー三男のジャンク船8隻を撃破。直ぐさま、アモイに入って全船の修理を依頼する。中国ではガレオン船を購入できないが、修理は引き受けてくれるから助かった。
修理が完了すると、再び出港。アモイを過ぎた辺りに現れるリー次男のジャンク船4隻、大型ジャンク船4隻を殲滅。この後も、すぐにアモイで修理をする。
修理の完了後に再度出港。そして、マカオ付近に登場するリー長男を迎え撃つ。ガレオン船よりは小回りの利く大型ジャンク船に苦戦し、2隻を失ったが、勝利を収める。戦利品は漢方薬と青磁と金貨100万枚。レベルは75になった。それから、すぐにマカオへ入港して修理を依頼した。
2隻を失ってちょっとショックだったが、レベル75になったので満足し、セーブした。
「あと、3隻……。頑張るぞー!」




