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VRの紺碧の海、紅のガレオン~女艦長スカーレットの冒険記~(改訂版)  作者: s_stein & sutasan


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立ち塞がる卑怯な軍人

 オランダの船との争いはこれでなくなったので、出港した途端に待ち伏せに遭うとしたら相手は海賊のみとなった。


「さてと、あの海賊でも掃討しましょうか」


 例の、東南アジアの海域から北上すると必ず行く手を塞ぐ海賊だ。それに勝つためにレベル上げを続けてきたのだから、早く目的を達成したい。


 まずは、マラッカの造船所で傷ついた3隻のガレオンを修繕する。これには3日かかると表示されたので、クイックモードで待つ。そうしないと、本当に3日も待つことになるからだ。ところで、今までクイックモードは1日が10秒だったので30秒待つと思っていたが、画面上の時計で測っていると24秒程度で終わった。レベル70になってから8秒ほどに短縮されたようで、少し嬉しい。


 確かに、このVRゲームは本物の大航海時代当時の時間の流れが再現されているので、平気で修繕に3日とか隣の港町まで4日とか時間がかかる。いくら時間を持て余している人でも、これには閉口するだろう。だから、クイックモードがある。後でカエサルさんに聞いてみたところ、やっぱり私のレベル70では1日は8秒だが、レベル80になると5秒、レベル90になると2秒とかに短縮されるらしい。


 オルデンバルトの「このゲームのたるい部分をスキップする」という言葉が脳裏に浮かぶ。このクイックモードでも遅いと思う人が多いのだろう。せかせかした現代の世界からゆったりと時間の流れる世界にダイブしてのんびり楽しもうというコンセプトは、プレーヤーの共感をあまり得ていないのかも知れない。


 修繕も終わり、バタビアに行ってドックからフル装備のガレオン5隻を引き出して元の編成に戻し、船員集めや水と食糧と資材の調達も済ませる。ドックの残りはガレオン3隻。海賊をやっつけたら、もう一度ガレオンを補充してドックに8隻をつないでおこう。ここで、念のためにセーブする。


 いよいよ決戦だ。私は北に進路を取る。レベル70の私相手にレベル68の海賊なんか敵ではない。楽勝ムードで鼻歌を歌いながらクイックモードでボルネオ島に近づいた。すると、想定通りに海賊らしい船団が現れたので、思わずニヤッとする。ところが――、


「えっ!? 嘘!」


 いつもの海賊ではない。画面に表示されたのは、いかにも悪役という人相のベラスケスというレベル71の軍人だった。


「あの海賊は、一体どこへ行ったのよ! まさか、あんたが海賊をやっつけたとか!?」


 もしかして、ボルネオ島を右に見るこの航路を進むと、海賊以外に自分よりレベルの高い軍人が現れるシナリオになっているのだろうか? そんなことを考えていると、ベラスケスからチャットをつないできた。


『おい。この先は通さねえぜ』


 でも、私の右横を別の船団が北に向かって通り過ぎていく。レベル72のプレーヤーだ。


『そんなことを言ってるけど、横をすり抜けていく船がいるわよ。いいのかしら?』


『ここは勝負と行こうぜ』


 無視された。ゲームのAIがどうしてもシナリオの流れに持っていくセリフを吐くのだろう。確実に勝てる相手ではないので、ここは逃げるべきだ。でも、逃げてレベルを上げたとしても、今回のケースを見ていると、その上を行くレベルの海賊や軍人が登場する可能性も否定できない。


 ()るか()るか。迷いに指が止まっていると、相手が書き込んできた。


『今行くぜ』


 何も言っていないのにベラスケスの船団が近づいてきた。いきなり海戦が始まると思ったら、私は空中から強制的に甲板へ着地させられた。2回目とはいえ、一騎打ちにはビビるが、もう時間は戻せない。私は急いで画面を表示させて、祝福の外套を着用し、月光のフランベルジュを鞘から抜くと、ほぼ同時に空から敵が降ってきた。


「よう、待たせたな」


 そう言って少し湾曲した銀色の剣を構えるのは、ベラスケス。おとぎ話に出てきそうな豪奢な服を纏った海賊みたいな男だ。黒い三角帽子に、虹色の鳥の羽が付いている。


「いきなり一騎打ちに誘われるとは思っても見なかったわよ」


「おい、お前。レベルの割には似合わない剣を持っているな」


 その言葉に、私の心の中で目の前にいるベラスケスがプレーヤーに思えてきて、ゾクッとした。


「ねえ、あなたはプレーヤーなの!?」


「俺のカットラスでそのアバターを滅多斬りにしてやる」


 CPUのセリフにしては、なにかおかしい。CPUになりすますプレーヤーがいることをどこかで聞いたことがある。もしかして、そんな悪質なプレーヤーに当たってしまったのではないか? そんなことを考えていると、ベラスケスがカットラスを振り上げて飛びかかってきた。


 私は、動画で観た剣豪の刀捌きの真似をしてみた。まずは、剣を右上から左下に振り下ろす。


 ギン!!


 刀身の長いフランベルジュがその半分の長さのカットラスを横へ弾くと、ベラスケスの正面ががら空きになった。私は前へ踏み込み、夢中で左下に振り下ろした剣を右上に振り上げた。剣が相手をいとも簡単に切り裂く。


「キャッ!」


 初めて人を斬った驚きに、声を上げて後ずさりしてしまった。するとベラスケスが目を丸くし、剣を持っていない方の手で傷口を撫でた。


「野郎。本気で斬りやがった」


 CPUがこんなセリフを吐くはずがない。これは、CPUになりすましているプレーヤーだ。海賊まがいの行為で、いろいろなプレーヤーを無差別に襲っている連中だ。


 このゲームでは、敵対国でなくても相手を襲うことが出来てしまう。そこはプレーヤーのモラルに任せられているのだが、全員が守るとは限らない。


「てめえ!! 許さねえぞ!!」


 私の心から恐怖が消えて怒りが溢れてきた。


「CPUのなりすましなんか、許さない!」


「うるせい! 何やったって、勝ちゃいいんだぜ!」


 ベラスケスがまたカットラスを振りかぶって飛びかかってきた。急接近してきたので立ちすくみ、剣が斜めに振り下ろされたので目をつぶってしまった。


 ドスッ!


 左腕に衝撃が走る。だが、斬られたというより、殴られた感じだ。目を開けると、ベラスケスが驚きの声を上げた。


「マジかよ! その祝福の外套って、剣を弾き返すのかよ! 畜生!」


 ベラスケスが足蹴にしたので、私は仰向けに倒れ込んだ。


「だったら、首を落とせばゲームオーバーだよな?」


 ニタニタした彼の顔が追い被さる。私は、無防備に近づいてきた彼を夢中で斬りつけた。


「やべっ!」


 ベラスケスが斬られた方向に転がった。私はすかさず立ち上がると、彼もよろっと立ち上がる。


「HPが下がってきた。早々に決着を付けないとな」


 彼は、ヘラヘラと笑いながらカットラスを振り上げる。


「剣捌きから見てどうみても(とう)()(ろう)のくせに、アイテムで守られていやがる。そういうのが一番嫌いなんだよ!! 覚悟しろ!!」


 そして、剣を真上から振り下ろすと見せかけて、真横に降ってきた。首を刎ねる目的の剣を、私はフランベルジュで弾き返す。カットラスはカランカランと音を響かせて甲板の上を転がった。剣の行方に目を追った彼を、私は夢中で斜めに斬った。


「うわっ! 畜生め!」


 うつ伏せに倒れて、鬼のような形相を向けたベラスケスは、煙のように消滅した。


 勝利のメッセージがポップアップで表示され、レベルは70から71にアップ。私は顔がこわばったまま、船員たちの祝福に包まれた。


 プレーヤーを襲って荒稼ぎする連中に成敗を加えた形だが、興奮から冷めてくると、体に戦慄が走った。


「これに懲りて、近寄ってこなければいいけど……」


 意趣返しに遭わないことを祈るばかりだが、アイテム頼りの素人に思われないように、もっと剣の練習が必要だと痛感した。それはそうと、今回は、オルデンバルトの時よりはまともになった分よしとしよう。


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