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VRの紺碧の海、紅のガレオン~女艦長スカーレットの冒険記~(改訂版)  作者: s_stein & sutasan


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マラッカで釘付けにされた

 ある程度の剣捌きが出来ないと、せっかくの名剣「月光のフランベルジュ」が台無しである。豪華なアイテムを装備して勝った未熟者なんて、陰で笑われるだろう。そんな不安を払拭するため、夜中に動画を観ながら見えない敵めがけて音を立てないように剣を振る。


「なんで動画みたいな動きにならないんだろう」


 自分の動きの下手さに落胆しつつ、それはテレビや映画がその演技でお金を得ているからで、素人が下手くそな剣捌きを見せて笑わせるというものでない限り、観ていてスカッとする演技は当たり前だと自分に言い聞かせる。


 それでも、少しでも格好いい動きを身につけたい。ゲームで成果を出したい。VRゲームはマウスをクリックしたり画面をタップして操作したりするのではなく、自分の感覚で自分のアバターを動かすから、難しいが成功したときの喜びはひとしおだ。


「いい運動になるし、一石二鳥ね」


 私は心地よい汗をかきながら、見えない剣の柄を握って演技者の動きをコピーしていた。



 翌日の夜、いよいよゲームで実践するときが来た。少しは様になってきたのではないかと思いつつ、私はヘッドギアを被って、ゲームにダイブした。


 まだポルトガルはオランダと敵対関係が続いていたので、気が抜けない。カエサルさんとチャットをしていたとき『そろそろ敵対関係は解消するはず』とのことだったので、もう少し待つ手もあったが、ジッとしていると体がウズウズするので、マラッカからクイックモードで出港した。


 すると、オランダ船籍の船団が4つも海上で待ち構えていた。共同戦線でも張ったのだろうか。狙いは私?


「何なの、この人たち。やーねぇ」


 画面から相手を調べるとレベルは66を筆頭に、61、59、55だった。このまま戦闘に突入しても、私はクイックモードで全ての船団に勝利できる。諦めて逃げていくか、チャットをつないでくるだろうと海上で待っていると、レベル55の船団が近づいてきた。ガレオン3隻とフリゲート5隻がわらわらと散らばって、いきなり砲撃を開始する。


「何なの、この不埒千万な! 海賊だって、攻撃前にチャットをつなぐわよ!」


 などと、最近ココに教わった言葉「不埒千万」を使ってみる。もちろん、こちらからチャットはつながない。喧嘩をふっかけられたのだから、応じるまで。戦闘は委任でCPUに任せ、10秒で敵の8隻を壊滅させた。CPUの場合、旗艦だけ見逃してやるなんて温情はなく、非情にも殲滅になるのだ。


 戦利品を補充する間もなく、次はレベル59の船団が近づいてきた。こちらは、ガレオン4隻とコルベット4隻。これも10秒で片が付いた。すると、レベル61の船団が近づいてきた。これはガレオン7隻とキャラック1隻だ。おそらく、キャラックは交易専用でガレオンには積み荷の部屋がないパターンだろう。お財布付きの軍団みたいなものだ。こちらは15秒で壊滅。


 この段階で、今更だが、彼らの意図に気づいた。いくら委任で自動的に戦闘が行われるとはいえ、戦闘後に破損した船体を自動では修復できない。つまり、今までの3つの船団は、私にダメージを与え、レベル66の戦力を温存するための船団だったのだ。


「これは、まずい。こうも連続で攻撃されると、マラッカを離れた時に海上で他の船団にやられる」


 すると、その懸念が現実となった。レベル66の船団――ガレオン8隻と対峙していると、西からレベル68のオランダ船が近づいてきたのだ。


「あっ! あの時の!」


 そう。そのレベル68の船団は、レベルを上げてきたヨハンセン・ファン・デン・オルデンバルトの船団だった。ということは、レベル66も、彼の戦力を温存する役目を負っているのだろうか。


 迷っているうちに、レベル66の船団が襲いかかってきた。不安は的中し、私が率いるガレオン2隻が沈められた。しかし、20秒後に辛うじて相手の8隻は海中に没した。


 いよいよ真打ち登場とばかり、オルデンバルトが近づいてきた。彼もいきなり攻撃してくるかと思っていたら、チャットをつないできた。


『これはこれは、スカーレットさん』


『もしかして、今までの船団は、共同戦線を張った仲間ですか?』


『イヤな世の中になりましたね』


 私の問いに答えず、前回と同じこと言っている。なので、また同じように答えないでおく。


『貴方と戦うのは気乗りしません』


 さらに会話を無視する。


『もしかして、私との一騎打ちを待っているのですか?』


 頭にきたので前回の会話をコピペする。


『そちらから声をかけてきたのですから、そちらでご判断ください』


 書き込んでから、ちょっと意味が違って取られないか心配していると、


『あのアイテムを振り回されたら勝ち目はありませんよ』


 恥ずかしいのと瞬間湯沸かし器のように怒りがこみ上げて来たのとで、顔がカーッと熱くなる。


『まさか、クイックモードの戦闘でもチートはないですよね?』


 どこまで人を疑っているのだろう?


『何ですか、そのチートって?』


『ご存じないとか?』


『チートという単語は知っています。ラノベとかで見かけるのを』


『ああ、そっちの方。噂を知らないのですか?』


 知っているけど、ここは嘘をつく。


『知りません』


『パラメータをいじるツールですよ。それがバレないように、適度にMAXから引き下げて使われているとか』


『そんなツールで何が得になるのですか?』


『時短ですよ。このゲームのたるい部分をスキップするための』


『少しずつ成長するのが面白いのではないですか?』


『貴方は学生さん?』


『秘密です』


『まあいいでしょう。世の中、VRゲームでも時間がかかるのは嫌われていて、お手軽にある程度のレベルから始めたい人がいるのですよ』


『あなたはどうなのですか?』


『その口ですね』


『なら、ツールを使ったのでしょうか?』


『そういう貴方は本当に使っていないのですか?』


『使っていません!』


『うらましいなぁ。時間のある学生さんは』


『学生でも忙しいです』


『おや、学生であることを認めるのですね?』


 なんか、面倒くさい人に絡まれている気がする。


『それより、海戦は何でやりますか?』


『はぐらかされた』


 私はこれには応答しない。


『いいでしょう。海戦で行きましょう』


 それから、オルデンバルトの戦列艦4隻とガレオン4隻が近づいてきた。


 戦闘は30秒かかったが、オルデンバルトを壊滅させて勝利した。でも代償は大きく、私は旗艦を含むガレオン3隻を残すのみとなってしまった。


 勝利はしたが、やりきれない思いが残った。レベルは68から一気に70へ上がったが、少しも嬉しくない。


 と、その時、画面の上にポップアップメッセージが表示された。


 ――ポルトガルとオランダが休戦状態になりました。


「遅すぎるわよ!」


 私は画面をデコピンで弾いた。

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