プレーヤーとの初対決はアイテムの勝利
ポルトガルがオランダと敵対したことは、それが発生する前にセーブしたデータをロードしても変化はない。つまり、この条件は過去に戻ってチャラにはできないのだ。
まずは逃げ回ることを想定して水と食糧をフルで補充した後、データをセーブする。船員は各船とも百人いるが、例の地中海での追いかけっこにならない限り、最低限の1隻当たり六十人に減らすことは必要ないだろう。
ここで一騎打ちのことを思い出した。味方の損害を最小限に食い止めるため、敵船の艦長に対して一騎打ちでの勝負に持ち込むという作戦もありだ。ランクが2番目の月光のフランベルジュを所持しているのだから、そう簡単に負けることはないはずだ。それに、普段は脱いでいるが、祝福の外套を纏うと防御力が上がることもわかっているので、勝負の時には今着用しているマントから祝福の外套に着替えればいい。
となると、今まで採用していた戦い方を捨てないといけないか。いや、捨てるのではなく、選択肢が増えたと考えるべきだ。状況に応じて、砲撃の一手で押しまくるか、真っ先に一騎打ちを申し込むかを選ぶ。一騎打ちを断られたら、もちろん、砲撃だ。
私は月光のフランベルジュを抜いて、ブンブンと振り回してみる。剣の扱いなんかわからないけど、この見るからに恐ろしい剣を相手の前で振り回せば、怖れを成して逃げるだろう。いや、逃げて欲しいというのが正直なところ。
剣を鞘に収めて出港所の扉を開け、我ながら紅のガレオンの威容に圧倒される。いつ見ても感動的な姿だ。
「一緒に頑張ろう!」
私は甲板に移動して船員たちを鼓舞した後、クイックモードにして出港した。
ところが、マラッカを出港した途端、それを待っていたのか、3つの船団が沖合に待ち受けていた。画面から情報を調べると、3つともオランダ船籍だ。しかも艦長は三人ともイケメンのアバターときている。レベルは67、58、55だった。
「マジですか……」
いきなり他プレーヤーとの海戦が始まるのか。でも、いずれも私のレベルから見てクイックモードで100%勝てるレベルだから、心配はしない。むしろ、遺恨が残って、名前と顔を覚えられて後で仕返しに来られるのが心配だ。だから、海戦の相手はCPUの方が気が楽なのだ。
さて、どうしようと思っていると、レベル58と55の艦長は船を率いて西へ逃げていった。レベル67相手にちょっかいを出すほど勇気はなかったのだろう。ところが、私と同じレベル67の艦長がチャットをつないできた。無視して戦ってもいいが、心証を悪くするだろうから、一応応じてみる。
『お初にお目にかかります。ヨハンセン・ファン・デン・オルデンバルトと申します』
ファンなんとかって、いかにもオランダ人らしい。真ん中分けの金髪ロングが肩まで掛かり、切れ長の目がちょっと格好いい。それにしても礼儀正しいのは、こちらを警戒しているのかしら?
『スカーレットです』
『イヤな世の中になりましたね』
何を言いたいのかわかるけど、今ここで言うことかしら?
『敵対国なので戦うことになりますが、どうします?』
決断を人に押しつける人らしい。こういうのって、私の嫌いなタイプだ。
『戦うか否かを私に決めてもらいたいのですか?』
『そうです』
『そちらから声をかけてきたのですから、そちらでご判断ください』
『仕方ありませんね』
ツンデレ風に言えば「別に、あんたと戦いたくて戦うんじゃないからね!」ってとこか。
『では、一騎打ちで決着を付けましょう。そちらに行きます』
ここでチャットが切断され、彼の船がスルスルと近づいてきたかと思うと、私は強制的に甲板へワープさせられた。甲板には誰もおらず、決闘の場所を作るために全員が避難したかのようだ。後ろを振り返ってもミゲルたちが私を見守る姿はない。
そこへ、黒い軍服を着た人物が空から降ってきて着地した。2メートルはあろうかと思われる巨躯のイケメンだ。画面上の顔が確かに目の前にあるが、この背丈と体格は反則的だ。彼は右手で細身の赤い剣を鞘から抜き、斜め下に構えた。剣が真っ赤なのは初めて見たので、私の視線がその剣に釘付けになった。
「いざ、尋常に勝負、といきたいところですが、素手で戦うのですか?」
「これは失礼しました」
私は画面を表示して祝福の外套を纏うと、彼は目を見開いた。さらに、月光のフランベルジュを抜くと、二歩ほど後ずさりした。
「私と同じレベルで、それらのアイテムを所持しているとは……まさか、チートじゃないですよね?」
私は腹が立って、彼を睨み付けた。
「なんですか、そのチートって? これらのアイテムは、西は新大陸、北は北海、南はアフリカ、東はこの香料諸島まで足が棒になるくらい丹念に探し回って手に入れたのですよ。失礼なことを言わないでください」
「そうでしたか。いや、私と同じくらいのレベルの艦長と何人にも会ってきましたが、この『血染めのサーベル』を越える剣を持っている人に会ったことがありませんので」
彼の赤い剣がどのくらいのランクなのかは知らないが、動揺するからにはランク3位よりも低そうだ。
「で、どうしますか?」
「戦うしかないですね。味方が吉報を待っていますし」
そう言って彼は、剣を振りかぶって飛びかかってきた。なんだか、黒い熊に襲いかかられたようで、悲鳴を上げて目をつぶりそうになったが、そこは堪えて剣をめちゃくちゃに振り回した。
「わっ! 危ない!」
彼は、後ろに仰け反って、さらに後ずさりした。そりゃ、この剣は危ないです! だから来ないで!
「剣の振り方がめちゃくちゃですよ。そんなに振り回すと、いつかは自分を斬ってしまいますから、気をつけてくださいね」
敵に、完全に馬鹿にされた。こんなに悔しいことはない。私は、テレビで観た殺陣の構えを思い出しながら、それを真似つつ夢中で振り回した。
キーン!
金属の乾いた音がしたかと思うと、血染めのサーベルが宙を舞い、甲板に落下してカラカラと転がった。
「降参です」
彼は画面を表示して何かの操作をすると、フッと空中へ溶け込むように姿を消した。
私は画面を表示すると、勝利のメッセージがポップアップで表示された。戦利品はなかったが、レベルが67から68へアップしていた。すると、どこからともなく船員がゾロゾロと集まってきて、拍手と歓声が甲板上に溢れた。
念願のレベル68だが、なんか納得がいかない。「えい!」「やー!」って剣を交えたのではなく、「来ないでー!」って振り回したようなものだから、これが自らの手で勝ち取った勝利と言えるのだろうか? 呆れて相手が降参したのではないのか?
なんだか、そう思うと急に恥ずかしくなってきて、穴があったら入りたくなった。
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