ランキングが2番目の剣を手に入れた
その後、インド洋とアラビア海で海賊の船団を1つずつ撃破して、レベル65から67になった。相手はいずれもレベル60で楽勝だった。このゲームを始めた頃は、海賊と遭遇する度に悲鳴を上げて逃げたものだが、今はそれが懐かしい。こうやって目標を持って強くなっていく自分の成長ぶりを数値や所持アイテムで実感できるから、プレイしていて楽しいのだ。
当面の目標は、東南アジアにいる海賊がレベル68だったので、クイックモードで100%勝利するために、相手のレベルが自分以下になること。つまり、あとレベルを1つ上げて68になることだ。交易のイベントに参加しても上がらなくなってしまったので、いよいよレベルが上の相手と対戦しなくてはいけないかと覚悟を決めて、まずはマラッカに寄港してみた。
何かいいアイテムでもないかと思って町を歩き、片っ端から建物の扉を開ける。でも、あったとしても空の宝箱ばかりだ。ため息が出て、最後の扉を開けるのも躊躇ったが、駄目元で開いてみると宝箱があった。
「どうせ、これもスカよね……」
あまり期待せず開けてみると、黄金色の柄で白銀に輝くギザギザの刀身の剣が出てきた。
「何これ? 凄い格好の剣。シャルロットに自慢しようかしら?」
彼女のツッコミを思い描きつつ、このアイテムに手を触れると、スッと消えてアイテム一覧に表示された。その名は「月光のフランベルジュ」。
画面上でその剣の横にある「装備する」をタップすると、それまで腰に下げていた鞘から見えていた剣の黒い柄が黄金の柄に変わって煌めいた。私はそれを握って剣をシュッと引き抜く。
「うわー。これで斬られたら痛そう」
早速広場に戻り、噴水の縁にヨイショと腰掛けてチャットでシャルロットを呼び出す。
『ほいほーい』
『凄い剣をマラッカで手に入れたよ』
『なんぞなもし』
何だっけ?
『フランベなんたら。お酒をかけて火を付ける料理じゃないわよ』
『何!? そんなおいしい物を手に入れたとな!』
『だから、料理じゃないって』
『いや、それ、軍人じゃないと手に入れられないんだ。しかも、最高ランクの聖剣の次』
『えっ? そんなレア?』
『これだから素人は怖い。うまいものを食わせても、うまいしか言えない』
『素人扱いするな! それに、料理じゃないって!』
『月光のフランベルジュ。その波打った刀身は、斬った相手の止血を遅くするためのもの。恐ろしい剣さ』
『ひえー』
『甲板での一騎打ちに使うと、きっと相手はビビるよ』
『アバターでも血が出るの?』
『大丈夫。このVRゲーム、そこまでグロくないから』
『安心した』
『いやー、手に入れちゃいましたか。これで、こーみも最強にあと少しだね。アイテムだけは』
『何それ』
『事実じゃん。まだレベルは67だけと、剣はランク2番目なんだから』
『後は、聖剣のみ?』
『だね。そいつが手に入れば、ほぼ全ての海賊に勝てる』
『そういえば、さっき言ってた甲板の一騎打ちって?』
『もしかして、今まで敵を砲撃のみで沈めていたとか』
『それしか知らないもん』
『これだから素人は怖い。それで勝ってしまうから、なお怖い』
『素人扱いするな! それに、いいじゃん、勝てば!』
『あのねぇ。自分の船の被害を最小限にするため、敵の艦長と一騎打ちで勝負を付ける方法があるのだよ、スカーレットくん』
知らなかった。いや、マニュアルにあるのだろうけど、分量が多すぎて結構読み飛ばしていたから。
『その時に、この剣を使うの?』
『真剣白羽取りでもいいが』
『いやです』
『それはさておき、この一騎打ちを一発で決めちゃうチートがいるって噂だよ』
私は、チートという言葉に心臓がドクンと鳴った。
『何、その噂?』
『チートの話は前にも言ったよ。こーみが始めた頃かな』
『覚えていない』
『あり得ないほど早くスキルを上げたり、めっちゃ稼いだりする連中がいるって』
最近ボンベイで聞いたチートの噂の方が強烈なので、始めた頃の記憶を辿ってみるも、よく思い出せない。
『絶対どっかでデータいじっていて、しかも、CPUが操る海賊船に偽装して、敵対国でなくてもプレーヤーの船を襲うらしいって』
そうだ、思い出した。ココがそんなことを言っていた気がする。
『ああ、うっすらと思い出した』
『うっすらかい。ちゃんと力説したのに』
『そうだっけ?』
『気をつけなよ。砲撃も一騎打ちも、チートがいるらしいから』
『ありがとう』
私はチャットを終了した。と、その時、画面にポップアップが現れた。
――ポルトガルがオランダと敵対しました。
まずい! 東南アジアの海域は、オランダ船が多い。敵対したとなると、海賊以外にオランダを本拠地とするプレーヤーの船と戦うことになる。
私はすぐに画面を閉じてグルッと辺りを見渡すと、噴水の周りに腰掛けていた九人ほどの男性が互いの顔をキョロキョロと見ていた。一斉に敵対情報が配信されて、周りのプレーヤーの本拠地が気になるのだろう。服装から半分は商人、半分は軍人のようだ。その時、私の背中側にいた一人の軍人が立ち上がって、隣の商人に声をかけた。
「貴方は、ポルトガルですか?」
本拠地を聞いているのだ。これは、ヤバい!
「いいえ、イギリス側です」
「そちらの貴方は、ポルトガルですか?」
「スペインだけど」
「そちらは?」
「本拠地を聞くなら、自分から先に言ったらどうかね?」
いやいや、流れ的にあの軍人はオランダでしょう。
「じゃあ、いいです。そっちの貴方は?」
そうやって、順繰りに訊いてくる。私は急いで画面を再表示し「出港所」をタップしてワープした。




