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VRの紺碧の海、紅のガレオン~女艦長スカーレットの冒険記~(改訂版)  作者: s_stein & sutasan


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初の海戦でボコボコにされた

 レベル上げのアイテムである()(りやく)(せん)免状がどんな効果があるのか。気になるので自分のレベルを見てみたところ、50が51にアップしていた。つまり、手に入れただけで1アップしたのである。さすが金貨100万枚の価値はある。


 許可した役人がこちらをじっと見たまま立っている。用がないなら帰れとでも言いたげな圧に耐えかねて宮殿から広場に移動した。いつも通りに活気に溢れる広場を眺めながら、ウキウキ気分で噴水のそばまで行き、自慢するためシャルロットとチャットをつないだ。向こうもクイックモードを解除していたらしく、すぐにつながった。


『どしたー?』


『免状手に入れた』


『おめでとー。でも、何免状?』


 免状って何種類もあるのだろうか?


『海賊討伐の免状でもあるの?』


『ないよー』


 なんか、緩い返事が気になる。彼女のマイブームなのか。


『免状って一つでしょう?』


『そだよー』


 なんか、からかわれている気がする。まあ、リアルでもココはこの調子だが。


『それを手に入れたの』


『さては、おぬし、()(りやく)(せん)という文字を打てないな?』


 バレたか。真ん中の手偏に京がわからないのだ。あっ、音声入力すれば良かったか。


『かすめ取る、で変換してごらん』


 変換すると、『掠め取る』。確かに。そう言う意味だったのか。相手の積み荷を掠め取るってね。


『ねえ。私の地方艦隊にならない?』


『急に、どしたー?』


『今まで友達のままでいたけど、仲間になって欲しいなと』


 そう。シャルロットとはチャットでいつでも会話できたので、友達のままでも不便ではなかったが、これから海戦が始まると援護してくれる仲間が一人でも欲しいのだ。シャルロットは、前にリスボンの広場で直接レベルを見せてもらったが、私が45で彼女は56だったから頼りになる。


『なるほどー。助太刀が欲しいのね?』


『背中を預かって欲しいの』


『なんか違う感じがすっけど、雰囲気は伝わったー。いいよー』


『ありがとう♪』


『こっちが危ないときも、来てねー』


『行く行く』


 シャルロットが仲間を申請してきたので、すぐに許可する。ステータスなどを見ると、彼女は今オスロにいて、レベルは60。ちょっぴりジェラシー。



 リスボンを出港する前にセーブをして、クイックモードでマディラへ向かうと、航路の真ん中辺りで、獲物を待っていたかのように西からジーベックの船団が近づいてきた。タップすると、人相が悪いジョージという船長。船は3隻で、レベルは30。


 いつもの癖で逃げ腰になったが、こっちはレベル51で8隻ともガレオンなので、このまま海戦に臨むことにした。さすがにゲームオーバーになることはないだろうから、クイックモードで自動で戦う。


 海賊が接近すると、勝手にジョージとチャットがつながった


『よう、姉ちゃん。おとなしく積み荷を置いていきな』


『海賊なんか、返り討ちにしてやるわよ』


『やろうってのか? 上等だぜ』


 ちゃんと会話になっているので、このVRゲームのAIは賢いなぁと感心していると、敵船が見る見る接近してきて、突如として海戦が始まった。船員の鬨の声、咆哮する大砲、剣を交える音が入り乱れて耳に届き、眼下では小爆発の閃光、甲板をなめる火炎、立ち上る黒煙が見えている。


「えっ!? まさかの劣勢!?」


 どういうわけか、ジーベックの3隻は次々と私のガレオンを1隻ずつ襲っては沈めていく。まるで、「赤子の手をひねるように簡単だぜ」とでも言いたげに。ジーベックも甲板で火を噴くが、すぐに消し止められている。ところが、ガレオンはマストにまで火が燃え移り、ギシギシ音を立てて船体が傾いていくのだ。


「レベル30って、こんなに強いの!?」


 味方の沈没を呆然と眺めている間に、最後に残った旗艦が戦線を離脱する。ところが、3隻のジーベックに追いつかれて沈没した。私の紅のガレオンが海の藻くずとなった瞬間だ。


「嘘! ゲームオーバー!?」


 その途端、空中にいた私は一気に海面へ垂直落下する


「キャー!!」


 あわや、海面に顔面から激突と思いきや、次の瞬間は丸太にしがみついた状態で海を漂い、耳には「ズォーン!」という効果音が鳴り響いた。肩から下はひんやりするし、目の前に現れた画面には「GAME OVER」という文字が現れて、とろけるように下へ落ちていく。


「んもう! 何なのよ、これ! CPUの馬鹿!!」


 初めての海戦、しかも格下に完敗というショックで涙が出てきた。



 セーブデータをロードしてリスボンを出港し、西のマディラではなく、南のラバトを目指してみる。ところが、それでもジョージのジーベック船団が西からやって来た。


「あんた、どこから湧いてくるのよ!?」


 また、ジョージが勝手にチャットをつないできた。


『よう、姉ちゃん。おとなしく積み荷を置いていきな』


 今度は放置してみる。


『何とか言えよ。それとも、ビビっているのかい?』


 ちゃんと会話になっているVRゲームのAIの賢さに、また感心した。


『ビビってなんかいないわよ! あっち向いてほいなら相手にしてやる』


『やろうってのか? 上等だぜ』


 まさか、あっち向いてほいに乗ってきた訳じゃないわよね? ジョージの船がスルスルと近づいてきたので、今度はクイックモードを解除して瞬間移動し、甲板で一番高い場所に立つ。


 まだ中指くらいの長さに見える船影だが、三角形の帆を張った3本マストのジーベックが近づいてくると、獲物を狙う獣のように思えてくる。甲板上の船員たちを見下ろすと、すでに戦闘準備を済ませていて、砲手はダブルカノン砲をいつでも発射できる準備をしているし、剣を持った船員たちは敵船の方に視線を向けている。


「そうだ! 砲手に持たせると効果のあるアイテムが!」


 それは、魔弾のマガジンだ。これで砲撃が百発百中になる。それを画面上でドミンゴに装着させる。砲手を呼びつけてアイテムを持たせてもいいのだが、カエサルさんが「面倒でしょう」と画面上での装着方法を教えてくれていた。ドミンゴの方を見ると、魔弾のマガジンを背中にしょっていた。それで全員が百発百中になるのだから、不思議なものである。


「あっ! でも、大言壮語のメガホンがある」


 確か、レベルが低い相手なら追い返すことが出来るアイテムだったはず。それを使おうと思ったが、誰の装備品かと迷っていたら、いきなり敵船の大砲が火を噴いた。光が先で音が後なので、ドーンという音は、遅れてやって来た。そして、上空からヒューと音がしたかと思うと、隣のガレオン船に着弾し、甲板に火の手が上がった。


 ところが、味方は反撃しない。戦闘準備を済ませているはずが、待機している状態なのだ。操舵手のマルコはボーッと突っ立っているし、頼りになる操帆手のミゲルも腕を組んで見物している。


「ちょっと! あんたたち! 何、ボーッとしてるのよ!」


 瞬く間にガレオンが3隻沈められた。


「逃げて!」


 と、その時、ボーッとしていたマルコとミゲルが突然動き出して、旗艦を敵船から引き離し始めた。他の船も、こちらに合わせて離脱を開始。どうやら、音声で何かを指示しない限り動かないようだ。


 だが、ジョージの船団は次々と追いついては集中砲火で味方を沈めていく。


「逃げて!」


 これしか言葉が思いつかない私は、ただただ泣き叫ぶ。


 しかし、逃走も長くは続かず、紅の旗艦に無数の砲弾が着弾して爆発音が鳴り響き、火の手が上がって黒煙に包まれ、視界が遮られる。煙が消えたと思ったら、あの結末の到来だ。私は、また丸太にしがみついて海を漂い、画面の「GAME OVER」の文字を見させられていた。


「あったま来た!!」


 セーブデータをロードした私は、クイックモードを解除して出港所から広場へ移動し、カエサルさんをチャットで呼び出した。ところがつながらない。やむなく、スティーブさんを呼び出した。こちらは、ほどなくしてつながった。


『スカーレットさん、こんにちは!』


『こんにちは! 聞いてくださいよ!』


『どうしました!?』


『初めての海賊に挑んでいるのですが、相手のレベルが30なのに連敗しているのです!』


『そりゃ、経験値が低いとそうなりますよ!』


 あっさり言われた。そうかもしれないけど、悔しい。


『そもそも勝てないのでしょうか!?』


『勝てますよ!』


『どうやって!?』


『それはですね』


 と、スティーブさんの必勝テクニック伝授が始まった。

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