レベル上げの壁
ドックに預ける船まですべてをガレオンに揃えた私はレベル50に達したが、そこからレベルが上がらなくなった。交易を進めて所持金を増やしてもダメ。特定の交易品を購入するイベントをこなしても変わらない。なぜか頭打ちになってしまったのだ。
早速、カエサルさんにチャットで相談してみると、『まだトライしていないことが何か、考えてみては?』と突き放された。今まで気軽に何でも相談に乗ってくれたのに、急に冷たくされた気がしてちょっとショックだったけど、これも友達を思ってのことだと解釈して奮起する。
まずこういうときは、同じ悩みを持つプレーヤーがいるかを調べるのが早そうだ。だが、レベル50の壁が話題になっている様子はなかった。おそらく、レベルの「50」という数字ではなく、RPGにありがちな「何かをクリアしていないことで先に進まない」が正解なのだろうと考えた。
まだ足を踏み入れていないのは、東南アジアの上の方――ボルネオ島以北だ。そこへ到達するとレベルが上がるかも知れないと思って、まずはバタビアからボルネオ島に向かって北上してみる。すると、ジーベックの船団が近づいてきた。未だに海戦が怖くて、見知らぬ船がスルスルと近づいてくると逃げる癖が付いているので、踵を返す。ならばと思って、ベトナムの方へ進路を変えてみても、やはりジーベックの船団が現れる。
傾向を調べるために何度か微妙に進路を変えてみたが、北上する限りは同じ船団が現れることがわかった。東南アジアを北上する船を常に狙っているプレーヤーなんて考えにくいから、間違いなくCPUだ。「あんた、○○をクリアしていないから、ここから先には進ませないよ」と暗に言っているのだろう。
アイテムなのだろうか。でも、訪れた港町では必ず広場に行き、そこから外に出て建物の扉を全部開けて確認している。レベルに応じて出て来るアイテムが違うとなるとお手上げだが。
となると、他に残っているのは海戦だ。ついに、CPUと対決することになるのだが、あまり乗り気ではない。でも、常に航路を塞がれると、そうも言っていられなくなる。
この大航海時代のVRゲームは、楽しく交易品を売買して船をグレードアップして、所持金を増やして大金持ち気分になるだけでは許してくれないゲームのようだ。もし、プレーヤー相手の海戦となると遺恨が残るような気がして出来れば避けたいが、画面上で相手の船団をタップしてもCPUなのかプレーヤーなのかがわからないので、相手が仕掛けてきたら戦うしかない。
「なんか、気が進まないなぁ……。でも、私の職業は軍人よね。今まで船をオールガレオンにするため商人をやっていたけど、ついに、軍人らしくしないといけないみたいね」
海戦に臨むとき「べ、別に、あんたなんかと戦いたくないんだからね!」ってツンデレ風に啖呵を切って相手の旗艦を沈めるのだろうか。逆に、自分の旗艦を沈められて「お、覚えてなさいよ!」って言葉を残して風のごとく逃げるとか。
ちなみに、旗艦が沈められても、海上にまだ自分の船が残っていればゲームオーバーにならない。残った船のいずれかを旗艦にしてそちらに乗り移ればいいのだ。そのような船が海上にない場合、たとえドックに船があってもゲームオーバーとなる。なので、自船が残り少なくなったら、とにかく逃げるしかない。
ついに軍人らしくプレイすることを決意した私は、宮殿で私掠船の免状をもらうため、本拠地のリスボンに向けてバタビアを出港した。この免状がレベルアップのアイテムだというネットの書き込みを見つけたので、保有することにしたのだ。なお、CPUの海賊相手ならその免状は要らない。相手がプレーヤーの船で敵対国なら、これを持っていれば沈めることが出来る。もちろん、自国と同盟国の船は襲えない。
「ユキムラさん、どこにいるのかなぁ……」
ずっとユキムラさんを探しているのだが、未だに会えないのだ。ラファエルさんもまだ友達が続いているがチャットは音信不通だ。海は広いからそうそう会えないだろうとは思っていたが、なんとなく二人は私の未踏の海域にいるような気がする。だからこそ、行く手を阻むあのジーベックの船団を撃破する必要がある。
リスボンに到着してクイックモードを解除し、交易品を売買した後、「宮殿」をタップする。瞬間移動した先は、見事な調度品が溢れる広い部屋だった。いつものパターンなら、3つの窓があってそれぞれに一人ずつ人物がいて正面を向いているのだが、そこには窓もなく誰もいなかった。
辺りをキョロキョロと見渡していると、正面の扉が開いて、立派な服を着た中年の太った役人が現れた。
「何の用だ?」
ここで画面でもポップアップして選択肢のメニューが表示されるかと思っていたが、何も表示されない。無言で待っている役人に向かって、言葉で伝えないといけないようだ。
「し、私掠船の免状をもらいに来ました」
「金貨100万枚を納めてもらうが、よいか?」
うっ、それは痛い。先ほどの売買で所持金が200万枚を超えたが、半分近く持って行かれる計算だ。
「高すぎないですか?」
「…………」
「せめて半額にでも――」
「帰れ」
そう言って、役人は私に背を向けた。と、同時に、出港所へ強制的に飛ばされた。
諦めずにもう一度「宮殿」をタップし、例の部屋へワープすると役人が現れた。続けて門を叩いたからイヤな顔をするかと思ったが、先ほどと表情は変わらない。
「何の用だ?」
「私掠船の免状をください」
「金貨120万枚を納めてもらうが、よいか?」
「えっ!? さりげなく値上げしてませんか!?」
「…………」
「また来ます」
「帰れ」
また出港所へ逆戻りだ。どうやら、寄港したときに何度も宮殿に出入りすると前納金を値上げするのではないかと思えてきた。
そこで、一度出港して出て行った風を装い、すぐに舞い戻り、宮殿へ行ってみた。
「私掠船の免状をもらえますか」
「金貨100万枚を納めてもらうが、よいか?」
ほら、リセットされた。ここで「いいです」と言うと「いらない」に聞こえるといけないので、
「よいです」
「なら、許可しよう」
すると、自動的にアイテム一覧の画面が目の前に表示され、ちゃんと「私掠船免状」が入っていたので、思わずニッコリした。




