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VRの紺碧の海、紅のガレオン~女艦長スカーレットの冒険記~(改訂版)  作者: s_stein & sutasan


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船団すべてをガレオンに

 屋上でみんなと談笑後に別れてから、ファッション同好会でいつものようにお茶をした後、学校を出てスキップしながら帰る。毎日見る帰宅ルートの景色も、ウキウキ気分で歩くと違って見えるから不思議である。


(なーんだ。悩んでて損したぁ)


 スカーレットの正体がバレたらどうしよう、とずっと思い悩んでいた自分が馬鹿らしく見える。無駄なエネルギーを頭に使っていたことが、愚かに思える。


 しかし、私のスキップは止まり、足がノロノロ歩きになり、やがて立ち止まる。


(もし、あの賭けが失敗したら……)


 門前さんが、もう一枚の手紙を読まず、「何これ? 大いなる勘違いしちゃって。はい」って手紙を返してきたら?


 汐留くんが、屋上へ上ってこなくて、逆に教室で「VRゲームはプレイしてますけど、スカーレットっていうアバター、見たことないんですが」って呆れられたら?


 大門くんもやってこなくて、また手紙を下駄箱に入れて「ゲームなんかしてませんが。断るのでしたら、素直にそう言ってくれた方がよかったです」って書いてきたら?


 歴史のIFじゃないけど、もしそっちの分岐に飛び込んだら、と考えるとゾゾッとする。今更ながら、一歩間違えれば話が変な方向に発展したのかも知れないのだ。


 ゲーム内の私の強運がリアルの世界でも続いていることに感謝したい。



 家に帰ると、珍しく母親がせいせいしたという顔をしていた。きっと、あの話――私が里親から引き離される話が立ち消えになったのだろう。こちらもせいせいする。


 気になるのはあの写真。あくまで直感だけど、赤ん坊が私。ということはお姉ちゃんがいる。年の差は一つ上くらいだろう。だとすると、今高校二年生か。


 もう終わった話なので、これ以上詮索するのはやめた。


 もし「私が実の親です」なんて我が家の前に高級車を横付けした成金さんが現れても、正直どうでもいいから、「あっそ」と答えてやる。


 その日の夕飯は、一応はオムライスだった。一応というのも、楕円形ではなくて、あんがかかっていない天津飯に近い。卵焼きには穴が開いているし、真ん中が裂けている。包むのに失敗して、ケチャップがまばらに混ざったご飯がはみ出している。


 どうやったら、こんなにヘタに作れるのか。これはもう、母親の特技である。でも、私はそれを「おいしい」と言って食べた。完食した。明日もこのオムライスになるだろうけど、私はそれでいいと思っていた。



   ◆◆◆



 その夜から、ゲーム内で妙に仲間のチャットが盛り上がった。スティーブさんが「ゲーム内でオフ会をしよう」と提案すると、彼が決めた港の広場の噴水にみんなが集まった。ここでオフ会とはヘンな話だが、リアルの世界でファストフード店とか喫茶店で開催すると、周囲の目が気になって仕方ないから、ここが一番安全で落ち着くのだ。


 もちろん、ゲーム内ではリアルな話をしない。誰が聞いているかわからないからだ。端から聞いていると、なんでこのゲームの世界にまで来てテレビ番組や他のゲームの話題で盛り上がっているのだろうと思ったに違いない。そのくらい、ワイワイガヤガヤと騒いでいた。


 アバターと向き合って話をしているが、それが彼らのリアルな姿と重なる。制服姿しか知らないが、私服を想像してその姿に重ねる。パーカーなのか、ジャージなのか、はたまたパジャマなのか……。会話を聞いていて、もう一人の彼らを見ているようで楽しかった。それは、相手も同じだったはずだ。



 私はそれから、カエサルさんと一緒に東南アジアまで進出した。なぜかサルヴァトーレさんもインドを中心に活動を始め、スティーブさんまで「新大陸は飽きた」と言って中東を中心に活動を始めた。


 東南アジアには、いわゆる香料諸島がある。モルッカ諸島のことだ。チョウジや、ニクズクから取れるナツメグが有名だが、胡椒やシナモンも出てくる。これが、中東でもアフリカでも高く売れる。ヨーロッパに持っていくと、金貨1,000枚で買ったものが1万枚に跳ね上がる。


 所持金が増えていくのですべての船をガレオンに出来るくらいに貯まったが、東南アジアではガレオンが買えないことになっていると気づいた。簡単に大型船を作らせるか、という運営の意図だろう。


 それで、あることを考えた。もちろん、自己流だが。


 現時点では、旗艦を入れてガレオンが5隻、キャラックが3隻ある。ドックに預けている船はゼロ。


 まず、旗艦を除いてガレオン船4隻を東南アジアの港のドックに預ける。ここでは預け先はバタビアとする。


 残ったキャラック3隻に各港町を渡って仕入れた香辛料を積んでヨーロッパで売る。どこの港でも高く売れるが、ここではリスボンにする。


 売ったら、中古でフル装備のキャラックを4隻買って船団に組み込んだ後、積み荷を満載してバタビアへ戻る。


 ここまでが準備。この時点でバタビアのドックに預けた船はガレオン4隻で、航行中の8隻はガレオン1隻とキャラック7隻だ。


 次に、リスボンから持ってきた積み荷をドーンとバタビアで売って、それを元手に各港町から香辛料を大量に買ってリスボンで売り、新品のガレオンを1隻買う。もちろん、フル装備の中古があれば買うが、なかなか売っていないから仕方ない。


 新品に対してフル装備の改造が終わったら、1隻のキャラックと改造後のガレオンを交換し、キャラックを預ける。キャラックは後で使うから、売らずにドックへ預けるのだ。


 こうしてガレオンを連れて帰り、バタビアのドックに預ける。これでドックのガレオンは5隻になり、船団はガレオン1隻とキャラック6隻になる。


 再度香辛料を大量買いして、リスボンへ行って大儲けする。売りすぎて値段が下がっているならセルビアとかに行く。それから、また新品のガレオンを買って改造を依頼し、リスボンのドックに預けていたキャラックを組み込んで8隻に戻し、たくさんの交易品を積んでバタビアへ行く。売りすぎて値段が下がっているならマラッカとかへ行く。そして、改造が終わる頃、1隻のキャラックと改造後のガレオンを交換する。


 こうして再びガレオンを連れて帰り、バタビアのドックに預ける。これでドックのガレオンは6隻。


 つまり、ヨーロッパで儲けてフル装備のガレオンが手に入ったら、東南アジアに持っていってドックに預ける。これを繰り返すのである。


 これで、東南アジアで、8隻全ての船をガレオンにした船団を組むことが出来た。


 この調子で、今度はドックに預けっぱなしにするガレオンを増やしていった。いわゆる予備である。ただし、ドックに預ける上限がプレーヤーにつき8隻なので、少しずつキャラックを売っていかなければならず、ペースはダウンするが。


 なんでそんなに予備を作っているのかというと、この海域で海戦によってガレオンを沈められたときに、早期に体勢を立て直すためだ。


 ガレオンを増やすペースが落ちることは、キャラックが減ると実感する。積み荷の部屋が足りないからだ。このことを、ある時、チャットでカエサルさんに愚痴った。


『予備までガレオンにするのは大変ですねぇ』


『そうでもないですよ』


『えっ? 簡単にできるのですか?』


『まあ、簡単な部類です』


『どうすればいいのでしょうか?』


『スカーレットさんのガレオンは、積み荷の部屋がないですよね?』


『ええ。いつでも攻めて来いやーって、船員がMAXになるように積み荷の部屋を全部潰して船員の部屋にしました』


『そこです、問題なのは』


『ダメですか?』


『交易が出来なくなります』


『それで困っていたのですが』


『毎日戦闘するわけではないですし、レベルが上がれば船員はMAXである必要はありません。船員の部屋を1つ、積み荷の部屋に変えるだけで8隻あれば8つになります。そこそこの交易品は売買できます』


『なるほど』


『全てのガレオンに積み荷の部屋をなくしたら、貯金を崩すだけですよ』


 そうでした。なぜこんな簡単なことに気づかなかったのだろう? これって、コロンブスの卵って言うのかしら? 頭が固い私ね。

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