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VRの紺碧の海、紅のガレオン~女艦長スカーレットの冒険記~(改訂版)  作者: s_stein & sutasan


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夢の中で告白された

 ゲームから抜けた後、真夜中になっても私はベッドの上で天井を見つめながらカエサルさんのあの言葉を(はん)(すう)して、ドキドキが止まらず目が冴えてしまった。


『リアルでもスカーレットさんとお話が出来たら、こんなに幸せなことはありません』


 心の中には「あれは単にお話が出来て嬉しいと言っているだけだ」という自分と、「あれは好意あるいは恋心を抱いているはずだ」というもう一人の自分がいて、互いに譲らない。


 ――ゲームの中の恋愛なのかしら……?


 思わず「ヒャーッ、どうしよう!」と声が出そうになって、両手で口を押さえる。告られたらなんて答えようと、あれこれ考えると、ますます眠れない。午前0時を過ぎたから、早く寝ないとまた遅刻で学校まで猛ダッシュになる。それで、四つん這いになって拳で枕をトントンと叩きながら「眠れますように」と念じた。これは、昔から実践している、眠れなくなったときの一種のおまじないだ。授業中じゃなくて、こういうときに睡魔が来て欲しい。来て欲しい……。



   ◆◆◆



 こんな夢を見た。


 夢の中の自分は、「ああ、眠れたんだ」と思って安心している。そう思いながら、モンバサの広場を歩いているのだから、おかしな話だが。ちなみに、モンバサは東アフリカの港町だ。


「あれ? 何でここに来たのだろう?」


 賑わう市場の雑踏を抜けて、広場の噴水を目指し、その(ふち)に腰掛ける。このパターンは、ゲームの中なら誰かと落ち合うパターン。しかし、夢の中の自分は、誰と約束したのかは覚えていない。記憶になくても、『ここに来なくては』と体だけが約束を覚えているようだ。


「アフリカだから、カエサルさんかしら?」


 急にドキドキしてきた。今日こそ告白されるような気がしてきて、拳を握ってしまう。


 しかし、現れたのはサルヴァトーレさんだった。


「えっ? 何で?」


 そんな言葉が口をついて出る。彼は、私の言葉に立ち止まり、困った顔をする。


「何でって……私では駄目でしょうか?」


「何がですか?」


「誰か別の人と待ち合わせですか?」


 そもそも誰を待っているのかわからない私は、首を横に振る。すると、安心したのか、笑顔になった彼は足を踏み出した。


「ご相談したかったことがあるのですが」


 そう言いながら、彼は私の右横に座って体を密着させてきた。慌てた私は、左に体を動かし、拳一つ分の隙間を作る。その隙間に目をやった彼は、私の方に向き直って切り出した。


「実は、クラスに好きな人が出来てしまいまして……」


(うわぁ、ついに始まった……)


 恐れていた相談事が始まったのだ。


「どうやって告白すれば、女性に嫌われないでしょうか?」


 何でそんなことを女性に聞くのよ、と思いつつも、アドバイスを考える私。


「気持ちを素直に伝えることです」


「それが出来なくて困っているのです。どうやって伝えればいいのでしょうか? やはり、ラブレターを机に忍ばせるのでしょうか?」


「まあ、面と向かって言いにくいのであれば、最初はそうかもしれませんが」


「ちょっと、ここで練習していいでしょうか?」


「何の練習でしょう?」


「告白です」


 一気に熱くなった私は、腰を上げた。


「そのお相手は誰ですか?」


「それを言わないと練習をさせてもらえないのですか?」


「まあ、相手によってはアドバイスが違いますから」


 何を言っているんだ、私。そう客観的に見ている別の自分がいる。


「仕方ありません。その人は」


 彼は立ち上がった。


「その人は?」


()(うな)(はら) (とも)()さんです」


 私は、ヘナヘナとしゃがみ込んでしまった。


「どうされました?」


 彼が私の顔を覗き込む。


「それ………………リアルの私です」


 その言葉を聞いた彼は、目を大きく見開き、あっという間に赤面して逃げていった。


「ほら。こうなるじゃない。当然よ」


 冷めた自分がそんなことをつぶやく。すると、今度は、スティーブさんが現れた。こんな東アフリカまで足を伸ばすなんて初めてだ。


「珍しいですね?」


「スカーレットさんがこちらに来ているのが見えたので、追いかけてきました!」


 なんか熱い。そういえば、チャット以外で会ったことがないから、今が初対面だ。


「初めてこうやってお会いしましたね」


「いえ。学校で何度も会っていますよ!」


(うそっ……。バレてる)


 動揺した私は、彼から顔をそらし、目が泳ぐ。


「そうですか!?」


「あったり前じゃないですか!」


「知りませんでした……」


「今、大門をふったんですよね!? あいつ、しょげて帰りましたから!」


「ふった? 大門!?」


「今度は、僕にチャンスが巡ってきたわけだ!」


 なんか、キャラが違う。夢の中のスティーブさんは、妙に積極的だ。


「チャンス?」


 彼は立ったまま私に向かって右手を差し出し、頭を深々と下げた。


「お付き合いしてください! お願いします!」


(なにこれ!? 告白!?)


 私は驚きのあまり、声が出なくなった。


「お願いします!」


「そ、それって、スカーレットをですか? それともリアルの私をですか?」


「リアルの方です!」


「リアルの私を誰だか、知っているのですか?」


「はい! ()(うな)(はら) (とも)()さんです!」


 バレているはずないと思っていたのに、バレていた。


 その時、足音が近づいてきて「ちょっと待った!」とカエサルさんの声が響いた。


 スティーブさんは私に右手を差し出したまま頭を上げて、後ろを振り返りながら言った。


「あなたは、彼女の何なのですか? 恋人ですか?」


 恋人という言葉に、めまいがした。


「そうでなければ、誰に見える?」


 カエサルさんは、リスボンで暴力を振るったイケメンに制裁を加えたときの台詞を言い放った。


 スティーブさんは後ろを振り返ったまま、ダランと右手を下げた。


「いいですよ。女同士付き合えば」


 そう言って彼は、すごすごと帰っていった。


(女同士!? カエサルさんって女性!?)


 仰天する私を見て、カエサルさんはニコッと笑いながら近づいてくる。


「約束の時間にちょっと遅れたらこれだ。油断も隙もない」


「あのー……」


 彼は、私と握手できるくらいにまで近づいて立ち止まった。


「何か?」


「カエサルさんって、女性なのですか?」


「……ええ。歴女です」


 歴女という言葉に、思い当たる節があった。


「リアルでは、どなたなのですか?」


「誰に見えます?」


「あ、赤羽橋副会長……ですか?」


「違います。彼女、歴史が好きって言いました?」


「聞いていないです」


「じゃあ、違うでしょう? 他に、身近な人で歴史が好きな人はいませんか?」


「すぐには思い当たりません……」


「知っているはずですよ。教室で、すぐ近くに座っていますよ」


 と、その時、私の記憶の底でその人の顔が浮かび上がった。


(ま、まさか!?)



   ◆◆◆



 途端に夢から覚めて飛び起きた。上半身を起こして、めくれた掛け布団に目を落とし、呼吸を整えていると、彼女の顔が浮かび上がった。歴女と聞いて思い当たった人物だ。


 彼女の名前は――(もん)(ぜん) (とし)()さん。


 教室で自席に座った彼女が、机に歴史の参考書を立てて、こちらに目を向ける姿を思い出す。


 確かにプレーヤー名のカエサルは、歴史上の超有名人だ。なぜ、それを聞いて彼女のことを連想しなかったのだろう。


 ――そんな(もん)(ぜん)さんに告られている。


 私は、頭の中が真っ白になった。


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