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VRの紺碧の海、紅のガレオン~女艦長スカーレットの冒険記~(改訂版)  作者: s_stein & sutasan


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空のはずの宝箱からまだアイテムが出てきた

 ここで、ゲーム内で私と接しているプレーヤーがリアルでは誰かを考えてみた。もちろん、シャルロットは除く。


 まず、ユキムラさん。男装の麗人らしいが、シャルロットの情報から推測して、この人は(みず)()先輩だと思う。ただ、情報がいつでもシャルロットを中継しているので、相手のニュアンスが伝わらず、100%そうだとは言い切れない。個人情報を聞き出すというのが先輩らしくなくて、そうだと言い切れない説を後押ししている。


 次はラファエルさん。最初は(みず)()先輩に思えたが、今は謎の人物。でも「追っかけ」のことを口にしていたので、先輩である可能性を捨てきれない。実は、ユキムラさんの方が別人で、やっぱりこちらが先輩である、と大逆転を密かに期待しているのだが。


 サルヴァトーレさん。私は彼の姿と大門くんの姿とがカードの裏表のように見えてしまう。一方で、彼はスカーレットと「こーみ」を別人と見ているはずだ。いや、そう思いたい。でなければ、あんな悩みを告白するはずがない。


 スティーブさん。もう少し動かぬ証拠が欲しいけど、一応、彼は汐留くんだと思う。もちろん、彼は私を誰だか知らないはず。


 カエサルさん。歴史が大好きな人くらいで、詳しくはわからない。


(ん? カエサルさん!? しまった! リスボンで合流を約束してたじゃない!)


 彼との約束を思い出したその時、突然チャットをつなげてきた人がいて、驚きのあまり「うわっ!」っと声を上げてしまった。


 やっぱり、カエサルさんだった。私は、急いで接続を許可する。


『思った通り、クイックモードのままでしたね』


『すみません。ボーッとしていて』


『リスボンに着いて、クイックモードを解除したのですが、つながらなかったので』


『ごめんなさい! 今行きます!』


『造船所にいます』


 練習がてらの航海でポルトに停泊したままだった私は、大急ぎでリスボンに戻り、クイックモードを解除して造船所へ瞬間移動した。


 部屋の中央に、私より頭一つ背の高い、黒髪リーゼントのイケメンがいた。もちろん、カエサルさんだ。彼は軽く髪を撫で、素敵な笑顔を見せながら、クールにポーズを決めた。


「チャット以外では、はじめまして」


 初めて聞く声にドキッとする。落ち着いた感じで、発音は明瞭。渋めの声優さん? でも、アバターは20代前半に見える。リアルは社会人かしら?


「は、はじめまして」


「是非、ご自慢の旗艦を拝見させてください」


 私は彼に背を向けて扉に向かったが、その時、この人は()()()先輩ではないかと思えてきた。ルックスと背の高さが、私にその考えを納得させようとしている。


 造船所を出て間近に迫る紅のガレオンを見た彼は、一瞬にして凍り付いたように動かなくなった。感動のあまり、声も出ないという感じ。こちらを振り向かないので、私の存在を忘れてしまったのではないかと思えてくる。


「あのー……、派手だったでしょうか?」


「…………」


「もしもしー」


「…………」


 問いかけても無言のまま。


 しばらくして、カエサルさんがこちらを向いて微笑みを浮かべた。


「素晴らしいの一言に尽きます」


「ありがとうございます」


「この発想はありませんでした。船が遠くにいても一目でわかりますから、強くなれば、相手を遠くからでも威嚇できますね」


「プレーヤーならいいのですが、相手がCPUならどうでしょうか? CPUもウヒャーッって思うのでしょうか?」


 すると、カエサルさんが破顔する。


「そういう発想が出来る人、()()()()()


「えっ!?」


 ()()という言葉に過剰に反応してしまった。男性からそんなことを言われたのは、記憶にないくらい昔だからだ。だが、彼はそんな私のリアクションを拾わなかった。


「せっかくですから、アイテムを探しに町へ行きませんか?」


 私は残念そうな顔をする。リアクションのこともあるが、すでにアイテムをゲットした後だからだ。


「全部の扉を開けて、地図まで拾いました」


「聖剣の地図も?」


「はい」


「それは凄い」


「他の人にも、そう言われました」


「それが出たなら、探しましょう」


「えっ? 何をですか?」


「アイテムです」


「もうないですよね?」


「それがそうでもないのです」


「そうでもないって?」


「聖剣の地図を手に入れたという条件で出てくるアイテムがあるのです」


「えっ!? 本当ですか!?」


「ありがちなRPGだと、宝箱を開けたらもう終わりですよね? このVRゲームは、ある特別なアイテムが手に入ると、空になったはずの宝箱にまたアイテムが出現するのです。もうお宝はないという先入観があると、絶対に手に入りません」


「なるほど! 知りませんでした!」


「では、さっそく広場へ行きましょう。そこから外へ出て道を歩いて、順番に建物の扉を開けてください」


「わかりました!」



 私はカエサルさんと広場へ瞬間移動した。そして、再び建物を一軒ずつ回って扉を開けていく。後ろからカエサルさんが付いてくるのだが、なんだか、首筋から背中にかけて熱く感じる。


(これって、なにげにデート?)


 いや、そんなことはない。宝箱を探す女性の後ろを男性が付いてくるシチュエーションは、デートとは言わない。


 しかし、サルヴァトーレさんが「どこかの広場で待ち合わせしてお話しますか?」と言った時は断ったのにカエサルさんの場合は断らず、話の流れとはいえ、こうなっている。一貫性がないなぁと反省するが、後ろの男性を意識し始めると首筋や背中だけではなく、頬や耳までが熱くなってくるのだ。


 しばらく探していると、彼の言う通り、本当に新たなアイテムが3つも見つかった。


「その大言壮語のメガホンは、海賊が近づいてきたときに使うと、相手が(ちゆう)(ちよ)して襲撃を諦めます。ただし、CPUの場合のみで、レベルが低い相手だけですが」


「プレーヤーも諦めて欲しいですね」


「そっちの魔弾のマガジンは、砲手に持たせると大砲が百発百中になります」


「大砲ってそんなに当たらないのですか?」


「命中率は風下からだと3割以下、風上からだと5割以下です。プレーヤーのスキルが上がれば、それにつられてNPCの砲撃手の命中率が上がりますが、なぜなのかは突っ込まないとして、それでも百発百中にはなりません」


「へー」


「そして、その魔装衣は、甲板上の斬り合いの時に纏うだけで相手からの攻撃のダメージを半減できます」


「そんなものがあって、いいんでしょうか?」


「いいんです。ゲームですから」


「なんか、大航海時代というよりかは、異世界みたいですね」


「リアルな大航海時代は、今の人が想像するよりも過酷で陰惨でした。先住民を制圧して搾取して、巨万の富を得る。そんな欲望に飢えた人々が、死と隣り合わせのリスクを冒してでも海を渡ったのです。それを忠実に再現したら、ゲームになりませんよ」


「戦国時代のなんとかの野望も?」


「そうです。ゲームで首がそこかしこに転がっている状況を描いたら、誰も合戦なんかやりません」


「なるほど」


「ゲームでは、リアルを追求しない方がいいのです」


 この彼の言葉は、別の意味に思えた。


 ――リアルが誰であるかを知るよりも、アバターのままでいた方がいい。


 そう聞こえたのだ。

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