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VRの紺碧の海、紅のガレオン~女艦長スカーレットの冒険記~(改訂版)  作者: s_stein & sutasan


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ついに手に入れた紅色のガレオン

 いつもは夜の8時を目安にゲームへインする私だが、今日は7時過ぎにゲームを起動させた。早くガレオンを購入したいという気持ちと、ゲームに没入して今日の学校で起きたことを忘れたいという気持ちの両方を抑えきれない。それで、食事もそこそこにヘッドギアを装着したのだ。


 セーブデータはリスボンからスタート。早速、造船所の中古船リストでガレオン船を探すが、フル装備どころか、ガレオンそのものがなかった。新規購入から装備するまでの時間を節約のために誰もが欲しがる中古なので、シュルッと買われてしまったのだろう。今日は5時に帰宅したが、すぐにゲームの世界へダイブすれば良かったと後悔する。ただ、実践しようとは思わない。なぜなら、宿題も夕食もそっちのけでダイブしたら、造船所にはお目当ての物がなかったし、ガッカリしてリアルの世界に戻ったら母親が角を生やして待っていた、なんてことが起こりかねないから。そんなダブルパンチは、想像しただけでも背筋が凍る。


 さて、中古にないとなると、新品のガレオンを購入して時間をかけて改造することになる。その間、もちろん、ジッと広場で待つ必要はない。今持っているキャラックでバンバン交易をして、改造が終わった頃合いを見計らってリスボンへ寄港すればいいのだ。


 新品のガレオンを購入し、積み荷の部屋を潰して、船員の部屋と物資の部屋を増やす。これはなぜか?


 まず、海戦で海賊と戦うために大人数がいる。なぜなら、1隻にMAX三百人いる海賊と戦うのだから、渡り合うのに同程度の船員数が必要。また、大砲はカノン砲の中でも性能の良いダブルカノン砲に置き換えるのだが、これを積むと船が重くなるので、海風がなくなったときに漕ぎ手がたくさん必要になるという理由も加わる。


 船員が多ければ消費する食糧も水も増えるので、物資の部屋も必然的に増やす。今まで儲けるために商売用の積み荷のことばかり考えていたが、今度は船員が主役。なので、発想を変えないといけないのだ。


 今回、ガレオンを購入するのは旗艦用に1隻。キャラックは7隻残っている。だから、その7隻に交易品をいつものごとく大量に積む。これで儲けて次のガレオンを購入し、キャラックを中古に売る。


 これを繰り返して、ゆくゆくは全部同じ構成のガレオンにしたいが、これでは積み荷の部屋がゼロの船ばかりになる。すると、交易品を売ることが出来ない。船員を養う物資や月々の給料で金貨が飛んでいくので、じり貧になる。海賊相手に連戦連勝で賞金と戦利品ががっぽりなんてあり得ないだろうから、2隻くらいは船員の部屋を半分潰して交易用の積み荷の部屋にする必要がある。つまり、最低の食い扶持分は稼ぐのだ。


 そもそも、海賊は海に溢れるほどいない。略奪対象の敵国の船もわんさかいない。大海原を獲物求めて(さま)()って、全員餓死して幽霊船になっちゃってゲームオーバーなんて、お笑い(ぐさ)だ。


 以上、全部スカーレット艦長が立案した風に話しているけど、実はこれ、ほとんどがカエサルさんのアドバイス。彼は、ガレオンみたいな()()()()()()()()()()()()()()()()を追い追い教えてくれるそうだ。実にありがたい。


 カエサルさんって凄いなぁ。なんであんなに詳しいんだろう。


 憧れてしまう。


 なお、大砲はカロネード砲が一番威力があるが、威力の割に射程距離が短いので、船の装甲が厚い戦列艦を沈める以外はお勧めできないとのこと。敵船のダブルカノン砲による遠方からの攻撃に耐えながら接近し、カロネード砲で一発逆転を狙う自信があるならよいらしいが、海戦の初心者にはそんな自信はない。


 船のレベルが上がる船首像でも付けようかと思ったが、いい気になっているとお金がどんどん減るので諦めた。この辺りは、ゲーム内とはいえ、自制心が働く。



 そろそろ改造でやるべきことはこれで終わりかなと思っていると、メニューの隅っこに「装飾」というボタンを見つけた。


(あれ? こんなボタン、前からあったっけ?)


 今まで見た記憶がない。船に飾り付けでも出来るのかと思ってボタンを押してみると、今度追加された新機能だという短いメッセージが表示され、現段階では「船の帆に好きな絵が描ける」、「船体の色を塗り替えられる」、「船腹に好きな絵が描ける」の3つが出来るそうだ。


 絵が描けても、クイックモードでは海上を移動中の船を上から見下ろしているので、目立たない。ならば、船体の色でも変えてみようかと思いついた。


 今リアルの世界で装着している自分のヘッドギアの色が紅色なので、このガレオンも紅色にしてみよう。


 装飾の費用に金貨5万枚を追加で取られて、ガレオン1隻の費用の合計が30万。しかも改造に3ヶ月かかるという! 仕上がりを楽しみに待っている間、クイックモードで交易を繰り返した。



 3ヶ月後――レベルアップにより、クイックモードで1日が20秒かからないので30分以内――にリスボンの造船所へ戻ってみると、ガレオンの改造は完了していた。早速、今の旗艦のキャラックと入れ替えて、実物を見るために造船所の扉を押し開いた。


 目の前に現れた深紅の巨体に感動し、声も出ない。


 船体を見上げると、甲板まで二階建ての屋根以上の高さ。長さは50メートル走の距離を思わせる。造船所のリストの絵でもガレオン船は他の船より大きいが、ここまで圧倒される大きさとは思わなかった。


 早速、カエサルさんをチャットで呼び出す。いろいろガレオンの情報を教えてくれたのでお世話になったお礼も兼ねての報告だ。しばらくして、チャットがつながり、私は興奮気味に報告する。彼は自分の教えた情報が、私のガレオンの新規購入と改造に役立ったことに対して、大いに喜んでくれた。


『とにかく、ありがとうございました!』


『どういたしまして』


『これでガレオン持ちになれました』


『色を変えましたね。これは何色ですか?』


 仲間の場合、相手の旗艦が画面に表示されるので、早速気づいてくれたようだ。


『深紅です』


『是非とも実物を見てみたいです。なお、薄暗いところで赤は暗く見えますよ。プルキニエ現象って言います』


『迷彩になるでしょうか?』


『そこまではならないと思いますが』


『迷彩柄の方が良かったでしょうか?』


『海の上は青一色ですよ。迷彩にはなりません』


『そうでしたぁ……』


『船が青なら迷彩かも知れませんが、帆の色もそうしないといけません』


『ところで、ガレオンって凄く大きいですね。マストの上までだと、高いビルみたいです』


『ガレオンは実際に六百人を乗せた例もあるくらい大きいですよ。このゲームではそこまで乗らず、三百人がMAXですが』


『船員はMAX乗せた方がいいですか?』


『海賊討伐や敵国との交戦を今すぐ始めるのでなければ、必要ありません。食糧や水がどんどん減りますので。六十から百人の間にしましょう。六十人でも動かせますが、そこはお任せします。戦いを始めるなら、当然三百人です』


『わかりました』


『ところで、そのガレオンでアフリカを回ってみませんか? 高値で売れる交易品がいろいろ出てきます。さらに、中東やインドへ足を伸ばしてそこの交易品をヨーロッパに持ち込めば、少ない積み荷でもかなり儲かります』


 前に彼が「少ない積み荷の部屋でも儲ける航路を追い追い教えますよ」と言っていた件だ。


『はい! チャレンジします!』


『私も一緒に回りましょう。その船を間近で拝見したいですし』


 カエサルさんは、ストックホルムから駆けつけてくれるという。私は、船員を追加で雇って、六十から百人の間ということで八十人になるようにし、彼が来るまでの時間を利用して、練習がてらポルトへ出港した。


 私の旗艦を動かす仲間は、船を変えても健在だ。彼らのおかげで、スムーズに船が進むので快適だった。


 さあ、頑張るぞと拳に力を入れたとき、スティーブさんからチャットをつなげてきた。画面上で私の赤いガレオンが目に付いたので、すぐにチャットを接続したらしい。「ついにゲットですね! 凄いですね!」と興奮していた。


 続けて、サルヴァトーレさんも私のガレオンに気づいてチャットをつなげてきて、お祝いの言葉を贈ってくれた。


『おめでとうございます。ついに夢が叶いましたね』


『ありがとうございます』


 なぜ、サルヴァトーレさんはリアルでこんな簡単な言葉を交わせないのだろう。それがもどかしい。教室で会うとお互いに会話がなく、相手をチラチラと見ているだけだ。


 リアルでもサルヴァトーレさんのようになって、って言いたい。でも、人のことを言う以前に、自分の方がリアルで「スカーレットは私です」と告白する勇気がない。


 私から切り出せばいいのだろうか? 切り出せば、「ああ、やはり、あなたでしたか」と彼はリアルでも心を開くのだろうか? 私は、この問いの答えを見つけることが出来なかった。


 結局、サルヴァトーレさんとのチャットは、互いの挨拶と簡単な励ましの言葉で終わった。言いたいことを言わずに終わった中途半端なチャットのログが、私を脱力させる。


 ポルトの港に到着したが、私はクイックモードのままボーッと考え込んでいた。

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