ゲーム内がお悩み相談室になってしまった
翌朝、学校に登校すると、大門くんは欠席だった。彼は友達がいないので休んだ理由を伝えるクラスメイトもおらず、普段からちょくちょく休むので、皆はどうせ風邪とか腹痛か何かだろうと話題にもしない。おそらく、彼の欠席を気にしたのは、視線を感じていた私だけかも知れない。
結局、担任の先生が朝礼の時に「熱を出して休み」と伝えて、初めて彼の欠席の原因がわかる始末。これが私だったら教室内がザワザワするとはココの話だが、ちょっとかわいそうな気もする。
その日の夜にゲームにダイブして、サルヴァトーレさんにチャットをつないでみたが、応答がなかった。ログでは船団がアレキサンドリアに停泊したところで報告が止まっている。そこには海賊が多いとのことで、行って確かめるのも怖い。
翌日も彼は熱で休み。夜にゲーム内で彼にチャットをつないでもダメ。なんだか、心配になってきた。
(なんか、私、言い過ぎたのかしら……)
わかりましたと言って、その実、ゲームを抜けて悶々としている可能性もある。今度会ったら謝っておこう。
しばらく交易をしていたところ、スティーブさんがチャットをつないできた。
『スカーレットさん! こんにちは!』
『こんにちは! スティーブさん!』
『聞いてくださいよ! ペンサコラの交易品が増えましたよ!』
『たくさん出資しました!?』
『そりゃもう、ガンガン出資しましたw!』
『おめでとうございます!』
『スカーレットさんにもお裾分けしたいくらいです! 残念です!』
『いいえ! 今度ガレオンを買いますから、そしたら、そっちへ行きます!』
『お待ちしてます!』
ああ、いつものやりとりだと思っていたら、彼が急にトーンダウンした。
『こうやって話聞いてくれるの、スカーレットさんだけです』
『どうしました?』
『聞いてくださいよ』
『はい』
『実はですね』
こうして、スティーブさんの身の上話が始まった。
――彼はゲーム好きの学生で、アニメもフィギュアも詳しいが、一緒に語れる相手が身近にいない。つい熱く語ってしまうため、話し相手が離れていくのだそうだ。さらに、今通っている学校で、最近、女性からキモいと毎日のように言われて凹んでいるとのこと。
『スカーレットさんみたいに、ゲーム好きの女性から見て、僕みたいなゲーマーってどう思います?』
どうもこうもない。よくいるゲーム好きの男性だ、くらいにしか思わない。それをそのまま返してもいいけど、この質問には意図があるように思う。なんか言って欲しい言葉があるのだろう。
『どんなゲーマーだと言われたいのですか?』
『いや、どんな風に思うのかを聞いているんですが』
うーん、面倒……。
『ゲームオタクと言われたい?』
『やっぱり、オタクですかねぇ。僕はちょっと違います』
『尖ったオタク』
『それも違う』
『孤高のオタク』
『近いけど違う』
『じゃあ、わからないです』
『わからないですかねぇ』
『ごめんなさい。ボキャブラリーなさすぎなので』
『やっぱ、ゲーマーってキモいですかねぇ』
なんだ。結局、それを否定して欲しいのね。
『人の好き嫌いって千差万別です。言いたい人に言わせておけばいいんじゃないですか?』
『それはわかるのですが、何度も言われるとさすがに』
『わかるんだったら、気にしないことです』
ここで彼が沈黙した。言い過ぎたかしらと思っていると、彼が書き込んできた。
『スカーレットさんは、僕のことどう思います?』
ついにストレートに切り出してきた。ゲーム好きな女性がどうのではなく、私がどうなのか? 彼は、これが一番聞きたかったはずだ。
『ゲームに熱い人ですね』
『それです! それ!』
クイズですか……。
『当たりですか?』
『ええ! みんな、スカーレットさんみたいなら、いいんですが!』
『同じ顔してたら怖いでしょ』
『そうですねw!』
『人それぞれです。いろんな人がいる。その中から気の合う人を見つける。それでいいんじゃないですか? 気が合わない人に、こちらから合わせる必要なんかないでしょう?』
『わかりました! 言いたい奴には言わせときます!』
この後、雑談でチャットは終わったが、私はスティーブさんと汐留くんがダブって見えていた。今のリアルな彼は黙り込んでしまっているが、以前にゲームとかを熱く語っていた時の彼とこのスティーブさんは、なんとなく似ているのだ。
その翌日、大門くんが登校した。熱が引いたとのことだった。夜には、ゲーム内のチャットで『アレキサンドリアを出港しました』と書き込んできた。
(復帰したタイミングでゲームをプレイしている。おそらく、サルヴァトーレさんは大門くんだ)
次は、スティーブさんが汐留くんである証拠を見つけよう。彼がチャットをつないできたので、探りを入れてみた。
『スティーブさんの学校って、このゲーム、はやっています?』
『はやってますよ! なんせ、生徒会長を始め、生徒会役員全員がやっているくらいですから!』
ほら。予想通りの回答。
『クラスでも?』
『ええ! 女性でやっている人、多いですよ!』
『男性は?』
『いますけど、うち、男少ないんで!』
(うちの学校にそっくり。おそらく、彼は汐留くんだ)
ところで、「スカーレット」イコール「こーみ」であることはバレていないのかという不安がある。彼がこのまま、いろいろとプライベートの悩みを打ち明けてくる可能性があるからだ。
どこかでスカーレットの正体を明かさないといけないようだ。
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