クラスメイトの気になる視線
翌朝、母親が起こしてくれず、寝坊してしまった。朝食抜きで母親とプチ口論して、学校までダッシュする羽目に。実際は、バーッと走ってヘタって歩いての繰り返しだったけど。今入っているファッション研究会ではなく、体育系の部活に入っていたら少しは体力が付いてこういうピンチに役立ったかも、と少々後悔する。
校門が視界に入る頃、時計を見ると、なんとか予鈴には間に合いそうな時間だった。右の塀の上から見える校舎の一部を眺めながら、早足で歩く。
と、その時、進行方向から湖透先輩の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。もしかしてと思って声の方へ目を向けると、角を曲がってくる集団が見えてきて、その先頭から2番目に湖透先輩の姿があった。もちろん、前後左右に四人の女友達がSPのように取り囲んでいる。
こんな時間に先輩と学校の外で会うとは驚きだ。いつも登校時間が早い先輩に何があったのだろう? 夜遅くまでゲームに熱を入れてレベル上げでもしているのだろうか? それとも……。
いつになく近所迷惑なほど声を上げる生徒たちに、私はムッとした。その感情の中には、湖透先輩――というか、ユキムラさん? ラファエルさん?――から返事がないこともちょっぴり含まれている。でも、許可するか否かは先輩が決めること。自分の期待通りにならないことを先輩のせいにするのは、身勝手な話だ。
いつもの私なら、チャンスとばかりに先輩の名前を呼ぶ。でも、今日は目を合わせる気持ちになれなくて、うつむきながら駆け出した。途中で気になって、チラッと顔を上げると、先輩と目が合った。当然だ。先輩からしてみれば、駆け寄ってくる生徒がいるのだから何事かと警戒したのだろう。
もう一度下を向き、右に曲がって校門をくぐりぬけ、昇降口まで突っ走る。それはもう、部活の朝練に遅れた生徒以上に。とても振り返ることなんか出来ない。
後ろからの視線を想像すると、背中が痛いほど視線が刺さる気分になる。心臓が締め付けられるように感じる。ゲーム内では返事をしてくれず、リアルでは挨拶も返してくれない先輩と毎日同じ学校で会うのだから、こんなに辛いことはない。
教室に着くと、大門くんが私の方を見てすぐに視線をそらした。このところ、彼の視線を感じるのだけど、どうしたのかしら? ここで「何?」なんて声をかけると顔を真っ赤にして逃げ出しそうなので、ソッとしておくしかない。それにしても気になる。
着席すると、スーッとココが近づいてきた。ニヤニヤしているので、イヤな予感がする。
「最近、スカーレットの調子どう?」
うわっ! バラすな! 早くも予感的中だ。
「何スカートって? 太ってなんかいないわよ」
咄嗟にごまかすが、ココはこの意図的なごまかしに気づかない。
「何言ってんの。がっぽり儲けてるんじゃないの?」
私は、例の三人――大門くん、汐留くん、門前さん――へ順繰りに視線を向ける。三人とも、目が合うと下を向いた。
これで何が言いたいか、ココにはわかるはずだ。
「おっと、そうでした」
彼女は右手で口を塞いで退散する。私は、盛大にため息をつく。これで、あの三人がグランド・デクヴェルトをプレイしているなら、そこでプレイしている「スカーレット」が「こーみ」であることが完全にバレたはずだ。
(どうしよう……)
試しに、授業中にこっそり三人の方を向いてみる。すぐ視線をそらしたのは大門くんだが、他の二人は見ていない。でも、休憩時間にココと私がしゃべっているときは三人とも見ているのだ。
(おそらく、ゲームの話をするのではないかと思って聞き耳を立てているに違いない)
これは困った。そのうち、ゲーム中に「リアルでは、こーみさんですよね?」なんて話しかけてくるのだろうか? まずいまずい……。
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