地方艦隊の希望者が現れました
募集から三日後。ただし、ゲームの世界でではなく、リアルの世界での三日後である。毎日インして交易を繰り返し、レベルは6まで上がった。所持金は15万を越えた。そんなに時間をかけてゴリゴリとやっていたわけではないので、亀さんみたいな歩みだけど、着実に増えている。
こういうコツコツレベルアップする楽しみと同時に、もう一つの楽しみがあった。それは、私の仲間募集に誰が応募してきてくれるかだ。
三日前に「仲間募集」のメニューをタップした時、もしかしてドッと応募が来て、「いやー、人気者は辛いわね」なんてニヤニヤする姿を思い描いていた。だが、初日は誰からも声がかからなかった。
次の日も、そのまた次の日も。応募ゼロである。
「誰か応募してくれないかしら……」
そんな独り言を言いながら画面を閉じた私は、クイックモードを解除してセウタの町に繰り出した。交易所は通常モードで二回来たことがあるが、広場には行ったことがない。賑わいぶりを見たくて広場へ行ってみたのだが、さすがにリスボンほどの賑わいはなかった。
広場から外に出て、通りを歩いてみた。もちろん、お目当ては、アイテムが隠れた宝箱。レアな物でもあるのではという期待を胸に、建物の扉を一つ一つ開けてみる。ところが、部屋の中はどこも空っぽだ。開かない扉もある。セウタは小さな町なので、宝箱はないのだろうか。こうして、開けることに夢中になって、次の建物に向かおうとしたとき、誰かと正面衝突した。
「キャッ!」
私は後ろ向きに倒れ、尻餅をついて両手で体を支えた。顔を上げると現地の服装の人だ。正面を向いたままこちらを見ないし、無言なのでNPCだろう。そのNPCは何事もなかったかのように私の横を回って、後ろの方へ去って行った。
「失礼しちゃうわね」
黙って去って行くNPCの方へ振り向いて背中を睨み付け、あっかんべえをすると、体の正面から青年の声がかかった。
「大丈夫ですか?」
ハッとして声の方を向くと、金髪でナチュラルマッシュのイケメンが手を差し伸べていた。そのとても優しそうな顔、すかさず手を差し伸べる姿に、ちょっとキュンとした。服はシャルロットの服によく似ているから、職業は商人かも知れない。
でも私は、例のグルのイケメン事件を思い出し、周囲の通行人の視線を警戒しながら「大丈夫です」と言った。おそらく、彼から見れば、睨み付けているように見えただろう。彼は困惑顔になった。
「アバターでも、倒れると痛いですよ。場合によっては歩きにくくなるように、このゲームでは調整しています。怪我のシミュレーションですね。……あのー、立てますか?」
「詳しいのですね」
私はそう言いながら立ち上がると、彼は手をゆっくりと引っ込めた。
「ええ、公開されてすぐにプレイしましたから」
「ベータのテスターの方ですか?」
「そこまでではありません。サービス開始時の初期メンバーです。それより本当に大丈夫ですか?」
「もう大丈夫です」
私は軽く体を動かした後、足踏みをして問題なく歩けることをアピールする。
「わかりました。お怪我がないようで安心しました。もし、アバターの動きが鈍くなっても、時間が経てば治ります」
「そうなんですか?」
「ええ。本当は、そんな怪我が治癒するシミュレーションをするくらいなら、病院でも設置すればいいのでしょうけど、ないところが残念ですね」
彼が苦笑いをする。私もつられて笑った。
「では、お気をつけて」
「お気遣い、ありがとうございます」
彼は軽く一礼して微笑みながら、私の右横を通って後ろへ去って行った。
一瞬、爽やかな風が吹いたような気がした。
私は彼の背中を見送る。すると、彼がこちらを一度振り返って、また一礼した。私も挨拶を返す。
(優しい人もいるんだ……)
なんだか、ちょっと心が温まった。
◆◆◆
翌日、ゲームにインして、今日こそは仲間の応募があるだろうかと思って調べたら、1件あったのでビックリした。
(えっ!? このアバター……、昨日セウタで会ったあのイケメンだ!)
名前はサルヴァトーレ・ガリバルディ。職業は商人。レベル30。所持金200万ちょっと。添えられたメッセージには、こう書かれていた。
『昨日セウタの通りでお目にかかりましたが、仲間募集をされていらしたのを拝見し、何かお役に立てることがあるかも知れませんので、応募いたします。よろしくお願いいたします』
(どうしよう……)
プロポーズされたわけでもないのに、赤面する私。警戒心が邪魔をして、OKを出すか出すまいかの二択に心が揺れる。リアルでの将来の伴侶を決めるわけではないが、ゲームの世界ではある種の伴侶なわけで――って、考えすぎかも知れないけど――それが悩みに拍車をかける。
(大丈夫かしら……。突然、裏の顔が現れないかしら……)
心の中で「やめた方がいい」「警戒しすぎ」とか「豹変するかも」「それはないでしょう」と二人の自分が両側から腕を引っ張り合う。
だが、私の直感が後押しした。
(この人は、大丈夫。……うん、きっと大丈夫)
私は「OK」ボタンをグッと押した。




