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VRの紺碧の海、紅のガレオン~女艦長スカーレットの冒険記~(改訂版)  作者: s_stein & sutasan


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もう一人の先輩に会いたい

 夜の7時半。夕食は、またビーフシチューと揚げ物の攻撃。半分以上残した私は、ゲンナリして自室のベッドに横たわっていた。明日こそ母親に新メニューを提案しようと決心しつつ、今日一日の出来事を振り返る。


 大きな出来事が二つあった。


 まず一つ目は、テーブルの下に落ちていたあの写真。幼児と赤ん坊のどちらが私なのだろう。せめて、写真に日付でも入っていてくれたら推定できたのに、その日付がなかったのが残念だ。


 なぜ、母親があの写真の存在を隠すのか。おそらく、私の兄弟のことを知られたくないのだ。それが、私の過去の秘密につながっている気がする。


 それを知りたい。でも、母親に問いただす勇気がない。暗闇から私の過去が姿を現すようで怖いのだ。


 母親は、私がおいしいと言ったメニューの一辺倒になる。揚げ物だって、過去においしいと言ったものを毎日出してきて積み上がった結果があれだ。好きなものでも出しておけばいいだろうと考えている手抜きなのか、愛情のつもりなのか。その辺りも秘密につながりそうだが、私の推理力では謎が解けそうにない。



 次に二つ目は、ココが友達になったユキムラと名乗る人。このユキムラさんとラファエルさんのどちらが本物の(みず)()先輩か。ココの話の感じでは、生徒会に関するカルトな質問に全問正解したのだから、前者の可能性が高い。となると、ラファエルさんの方は、私が勝手に先輩だと決めつけているわけだ。


 そうは言うものの、私は最近、占いによると運気が上向いている。直感も冴え渡っている。だからこそ、その強運が揺らぐのが怖くて、先輩=ラファエルさん説を否定できないでいるのかも知れない。


 今は、これを解決する手段が思いつかず、考えが堂々巡りしている。


 ところで、先輩の今日の態度。追っかけの集団にいて呼びかける私の方を、振り向きもしなかった。完全に無視された。前は、笑顔じゃないけど、こちらを見るだけ見てくれたのに。こんな態度を示されると、ラファエルさん説が揺らぎそうだ。



 ふと壁かけ時計を見ると、ココとVRゲームにインする約束をした時間の8時が迫っている。ヘッドギアを両手で握りしめる私は、こんなモヤモヤした状態でプレイ出来るのか、ゲームの中でココに変なことを口走らないか、ラファエルさんにまで無視されないかという不安で押し潰されそうになった。


 と、その時、あるアイデアが浮かんだ。


(そうだ! その手で行こう!)


 急に気持ちが晴れた私は、ヘッドギアをしっかり装着し、少し早めの時間だがゲームの世界へダイブした。



   ◆◆◆



 シャルロットとの待ち合わせ時間が来る前に造船所へ行き、幸いなことに売れ残っていた同じ型で同じ装備の中古船を3隻買った。グレードアップしたプレーヤーの誰かさんが、惜しげもなく船を売り払ってくれたおかげだ。私もガレオン船が買えるようになったら、そうしよう。ちなみに、誰かさんが売り払った船は、ある一定時間が経過して他に買い手が付かなかったら、リストから消えるのだそうだ。


 それから酒場に行って船員を募り、出港所で最低人数の三十人に絞って全員分の物資を補給する。最低人数にするのは、物資の節約のためだ。6隻とも十日分の食糧と水になるように計算して積む。弾薬も全船フル装備だ。所持金がたっぷりあるので、この程度の出費は気にならない。そう思うと、小型船は費用の節約になって便利である。


 交易品は、高くなったワインをパスしてオリーブオイルで勝負する。こうして、いつの間にか爆買いしている自分に気づき、苦笑いする。


 ちょうどシャルロットとの約束の時間になったので、チャット画面を表示させてシャルロットを呼び出してみる。すると、すぐにつながった。向こうも待機していたみたい。


『おはー』


『私はリスボン。シャルロットは今どこ?』


『いきなり聞く』


『いいじゃん。この画面じゃ、どこにいるか表示されないし』


 そう。友達になっても、チャットでは相手の居場所が表示されないのだ。


『はいはい。カディスだよ』


『って、どこ?』


『スペインの南西』


 ここで私は、ゲームにダイブする前に考えたアイデアを切り出す。


『ユキムラさんとお友達になったんでしょう?』


『急にどないしたん?』


『なに、キャラ変えてるの?』


『いや、なんとなく。それより、どうして?』


『紹介してくれない?』


 すると、シャルロットが沈黙した。


『会いたいの。そのユキムラさんに、直に』


 しばらくしてから、彼女が書き込んできた。


『なるほどね。対面ではっきりさせたいんだ』


『うん』


『相手次第だよ』


『わかってる』


『ちょっと待って。こういうとき、三者チャットがあると便利なんだが、一対一だからね』


 すぐに彼女はチャットから抜けた。相手次第ということは、ある程度時間がかかるだろう。私は返事が来るまで、交易にいそしむことにした。



 リスボンとポルトの間を1分強で往復し、オリーブオイルとナッツの売買を進めていった。すると、行く度にリスボンの塩とポルトのワインの値段が下がっていくことに気づいた。つまり、塩とワインの在庫がだぶついている。それは、他のプレーヤーが買わないからだ。


(よしよし。もっと安くなったらそっちに乗り換えよう)


 オリーブオイルとナッツで交易を繰り返しているので、それらの仕入れ値は上がり、売値は下がる。でも、他は誰も売買しないからどんどん安くなっていく。下落の値動きがなくなったら底値だろう。その頃に、底値の交易品へ乗り換えるのだ。


 シャルロットからなかなか返事が来ないので、その間を利用してリスボンとポルトを何度も往復する。すると、想定通りに、リスボンの塩が700で下げ止まり、ポルトのワインも600で下げ止まった。ここまで下がるんだと感心しつつ、さっそく安い交易品を爆買いする。と言っても、12部屋だから、MAXで装備している人の48部屋から見れば可愛いものだが。



 そうこうしているうちに、所持金が10万を超えた。本来の略奪ではなく交易に夢中な軍人というのもどうかと思うけれど、大型船を手に入れるまで商人になるのはやむを得ない。


 リスボンの交易所で売却し、もうちょい稼ごうかと思った時、急にシャルロットの方からチャットに接続してきた。もちろん、「はい」を即座に選択する。


『連絡付いたよ』


『どうだった?』


『アブダビにいるから、すぐには行けないって』


『って、どこ?』


『ペルシャ湾南岸』


『位置はわからないけど、その名前からアラビア半島って雰囲気は伝わった』


『名は体を表す。町でさえも』


『そんな格言、聞いたことない』


『まだあるよ』


『また思いついたんでしょう? それはそうと、ユキムラさんはなんて?』


『会うには条件がいるって』


『何の条件?』


『学校名とクラスとリアルの名前を教えて、だって』


 私は胸がズキンと鳴った。


『シャルロットは教えたの?』


『教えてないよ』


『なのに、なぜ私だけ!?』


『あっ、ごめん。スカーレットの個人情報かと思った。僕のは、教えたよ』


『学校もクラスも名前までも?』


『そう』


『なんで?』


『だって、会長だから』


『本当に会長なの?』


『前も聞いたけどさ、こーみって、本物が別にいるのを知ってるの?』


 私は脂汗が流れ落ちる気分だった。


『知らない。でも、その人とリアルで会ったの?』


『会ってないけど』


『チャットで友達申請?』


『そだよ』


『わかった。じゃあ、いい』


『いいって、どっち?』


『言っていい』


『OK』


 急に心臓の鼓動がドクンドクンと強くなる。


『言ったら、会える?』


『相手次第』


『わかった』


『会わないって言われたら、諦めて』


『わかった』


『じゃ、また後で』


 シャルロットが抜けたチャット画面のログを見つめたままの私は、祈るような気持ちでいた。


 目を閉じると心の中でマーガレットの花が現れ、私は「会える」「会えない」と花占いを始める。この花は花びらの数が一定ではないので、「会える」から始めても結果はあらかじめ決まらない。


 一枚ずつ花びらをむしっていく。


 だんだん、「会えない」になる気がしてきた。


 そして、ついに、残り少なくなる。



 ……ああ、結果が見えてきた。



 先輩と――、


「会えない」


 だった。

友達申請して友達になっても、チャットでは居場所が表示されないことを追記しました。元々の会話ではそう書いていますが、見過ごしてしまいますので。

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