ツーショット写真の謎
(これは夢だ……。きっとそうだ。そうに違いない)
あまりにうまく事が運ぶので、今までの出来事が嘘のように思えてきた。こういう時には定番の、頬をつねってみるのが良さそうだ。試しに、アバターのプニプニする頬をつねってみた。すると、ちゃんと痛覚がある。
いや、まだ信用できない。いったんゲームを抜けてから、もう一度インしてみて、ラファエルさんが友達になっていれば夢ではないとわかる。
私はいったんここでセーブしてゲームを終了する。目を開けると、自分の部屋の見慣れた天井が見えた。そして、すぐにゲームへ再度ダイブする。交易所の部屋の中に戻ったので、画面をワクワクしながら表示してみた。
(本当だ! ラファエルさんが、お友達になっている!)
これで夢ではないことがわかった。後は、あのラファエルさんが、本当に湖透先輩か否かだ。すっかり、先輩であることを前提にしていたので、違っていたら天国から地獄へ真っ逆さまだ。
そんな心配事が心の中で頭をもたげると、全身がブルッと震えた。
(まさか、人違いじゃないわよね!?)
リアルは誰なのか確認したいが、ゲーム内とはいえ、面と向かっては聞きにくい。勇気を出して自分の正体を先に明かせば、答えてくれるかしら? 逆の立場で自分だったら正直に答えてしまうけど、全員が自分と同じとは限らない。明かした内容が本当かどうかがわからないと疑われたら、答えてくれないだろう。
ならば、リアルで直接聞いてみた方がよいかしら? 生徒会室の扉を開け、先輩に向かって「私は、ゲームではスカーレットです。先輩は、ゲームではラファエルさんですか?」って言ってみる? ……そんな勇気はない。
ここは自分自身の直感を信じ、あの言葉遣いや話している内容から、ラファエルさんが湖透先輩のアバターだと信じるしかないようだ。
本当にそれが正しいのなら、ゲーム内で友達になってグンと近づいたわけだから、大勝利である。後は、リアルで挨拶をしていただけると、何も言うことはないのだけど……。
「ところで、売ってくれる物はあるのかい?」
突然、交易所の女性に問いかけられてビクッとした。いつまでも突っ立っているので、業を煮やしたのだろうか。
さっそく窓口へ行き、ワインを1つ1,800で3つ、ナッツを1つ1,600で3つ売り、所持金は72,760から82,960になった。ガレオンの10万に着々と近づいているので、つい口元がほころぶ。
ここで、さらに交易品を買うか、あるいは船を買うか迷いが生じた。船を買うと、積み荷の部屋を増やすことにもなる。新規で購入して改造する時間の節約を考えると、同じ型の船で中古があれば迷わず買う。今の倍の6隻にすると、部屋は6から12に倍増するのだ。その方が利益も増えて良いかもしれない。
だが、今日は造船所へ行くのをやめた。ラファエルさんとお友達になったということで、まだ興奮が収まらない。いったん落ち着くため、私はセーブしてゲームを終了した。
◆◆◆
瞼に光が当たった気がして、ハッとして目が覚めた。もう朝だった。いつの間に寝てしまったのだろう。私はベッドの上で上半身を起こして、うろ覚えの記憶を振り返る。
確か、ゲームの世界から戻ってきて、ボーッと天井を眺めながら呼吸を整え、心を落ち着かせていたはず。そして、ラファエルさんとの出会いの場面を何度も振り返ったのは覚えている。スマホのチャットを覗いたかも知れないが、そこは記憶がない。母親が帰ってきたことも覚えていない。ということは、途中から寝落ちしたのだろう。
着替えて鞄を持ち、がらんとしたダイニングへ入ると、キレイに片付けられたテーブルには朝食の影も形もなかった。母親が遅い帰宅の場合、朝食まで遅くなる。いつものことなので期待はしていなかったが、ため息が正直に私の気持ちを表現する。
椅子を引いて、椅子の脚に鞄を立て掛け、ヨイショと腰を下ろす。さて、まずは自分でパンを焼こうかと思ったら、パタンと音を立てて鞄が倒れた。床の方に腕を伸ばして鞄を手に取ろうとしたが、ずっこけそうになったので、椅子から降りてしゃがんで鞄を拾う。その時、たまたまテーブルの下が見えた。そこには、手のひらサイズの白くて四角い紙が落ちていた。
(何だろう?)
テーブルの下に潜ってその紙を拾い上げると、白に近い灰色の文字でフィルム会社の社名が印刷されている。
(写真?)
それを裏返してみると、幼児と赤ん坊が写った写真であることがわかった。幼児は、顔の感じから一歳か二歳くらい、着ている服から女の子のようだ。
(誰?)
母親は子供がいなくて、私を養子にした。そんな家にこういう幼子の写真があるということは、これは私と誰かのツーショット写真である可能性が高い。
(私、どっちだろう……?)
自分の顔のパーツと似ているパーツを探すも、なんとなく似ている程度にしかわからない。
もしかしたら、このどちらかは親戚? まさか、兄弟!? 後者なら、自分の出生の秘密でも見たような気がして、ドキドキが止まらなくなった。
なおも写真を見つめて首を傾げていると、足音が聞こえてきた。私は、写真を裏返して床に置き、素知らぬ顔をして牛乳を探しに冷蔵庫へ向かった。
ドアが開いて、後ろから「あら、起きてたの?」と母親の声がした。振り向かずに「うん」と答えると、椅子を引く音がして、衣擦れの音や関節がポキッと鳴る音がしてから、また椅子を動かす音がした。
(写真に気づいて拾ったに違いない)
私はコップに牛乳を注いでから、コップを持ってテーブルに向かい、床に置いた鞄を触るふりをしてテーブルの下を確認する。案の定、写真はそこにはなかった。
母親がひた隠しにする私の過去のことを、今ここで追求する勇気はない。今日のところは、私にはツーショットを撮影するほど近しい誰か――兄弟がいる可能性がゼロではないことを知っただけでもよしとする。




