リアルの名前を知られたかも
私は自分の船が係留されている波止場に立っていた。ここでセーブしたから、ここから再開というわけだ。船を見上げると、甲板で船員が右に左に動いて何かやっているのが見えた。彼らは、この位置に立つ私に気づいていないらしい。試しに、今いる位置から上に向かって「おーい」と声をかけてみたが、聞こえないらしく忙しく動いている。甲板掃除でもやっているのだろうか。
出港するわけではないので、画面を表示させて「広場」をタップしようと思ったら、「銀行」というボタンが増えていることに気づいた。これは便利。さっそくそのボタンをタップする。
すると、3つの窓のある部屋に瞬間移動した。この3つある部屋のパターンは、出港所や交易所と同じである。正面にいる眼鏡をかけた面長の男性が私の方をジッと見ていたが、別に金貨を預ける用事もないので、男性に背中を向けて扉に近づき、取っ手を握ってグッと押してみた。
しかし、扉は開かない。前回は外から引いて開いたので、中からなら押すはず。ならば、押す力が足りないのかと思い、体重をかけてグッと押したら、いきなり開いて前のめりに倒れた。
「わわわっ!」
私は誰かに抱えられるような形で石畳の上へ倒れ込んだ。下敷きにした相手を見るとシャルロットだった。あの時の再来だ。いや、お返しか。
「ご、ごめんなさい」
「外で待っててって、言ったじゃん。まさか、中で待っているのかと思って開けたら、これだ」
そう言って彼女は大いに笑った。私もつられて爆笑した。
目的の友達登録を終了した後、せっかく来たから町中の宝箱を探そうとなった。例のイケメンたちの劇場型事件が脳裏をかすめるが、さすがに二度は続かないだろう。
広場から外に出て、建物の扉をひたすら開けまくる。すると、宝箱を2つ発見し、中から「新大陸の地図」と「聖剣の地図」が出てきた。
「なんか、ずるいなぁ」
私と肩を並べて道を歩くシャルロットは、かなり不満そうだ。
「運がいいだけよ」
初期設定で運を上げてから、いろいろと良いことが続いている私は、喜びを隠せない。
「アバター変えたとき、運を上げればよかったなぁ」
「なんだ、変えたんだ」
「白状すると、そうだよ。このアバター、3つ目だから」
「えっ? 3代目なの!?」
「そう。船団を2回沈められて、縁起でもないって変えたのさ」
「もしかして、船を沈められると、アバター交換からやり直さないといけないの?」
「いやいや。1隻でも残っていればゲームオーバーにならないけど、僕は沈められた時、ドックに予備もなかったからゲームオーバー。すると、自動で例のアバター交換の部屋に飛ばされて初期設定から始まるから、自暴自棄になってね」
「アバターって必ず交換なの?」
「いや、維持できる。交換しますかと聞かれるから、いいえと答えればいい」
「セーブデータから戻せないの?」
「戻せるよ。あの交換部屋の中で戻せる。でもそのセーブデータ、僕の場合、そこから再開するとCPUの海賊が現れるんだ。そいつが半端なく強くて、諦めるしかなかったのさ。セーブする場所、間違ったなぁ……」
「もっと前のセーブデータから戻ればいいのに」
「データは一つしか保存出来ないよ」
「そうなんだぁ……。気をつけないと」
「で、ずるいなぁって言うのは、この聖剣の地図。こいつで聖剣を手に入れれば、ほぼ全ての海賊に勝てるのさ」
「えっ!? そうなの!? じゃあ、見せてあげる」
「そうやって目の前に出されても、僕には見えないよ。獲得したプレーヤーしか見えないのさ」
「じゃあ、口で言う」
「聞いても無駄。そこにみんなが押しかけても、地図を持っているプレーヤーしか手に入らないから。……あーあ。こーみみたいに軍人からやり直そうかなぁ」
と、その時、背後に人の気配がしたので振り向くと三人のイケメンがいた。これには、またかと思ってギョッとした。しかし、彼らは私の視線から目をそらして、速度を上げて近づき、横を通り過ぎようとしている。それに気づかないシャルロットが声を上げた。
「あっ、ごめん。こーみじゃなくてスカーレットだった」
「シーッ!」
三人は私たちの横を通り過ぎて去って行く。シャルロットが口に手を当てたが、もう遅い。
私は、あの三人に間違いなく「こーみ」と「スカーレット」を聞かれたと思った。
彼らはこちらを振り返らずに去って行ったが、聞こえないふりをしていた可能性が高い。顔はなんとなく覚えているが、だんだんあやふやになっていく。服をしっかり覚えようと思ったが、すぐに通りを曲がっていったので、これまたあやふやになっていく。
私は立ち止まり、泣きそうになった。
「私、こーみってバレたかも……」
「ホント、ごめん」
彼女は、顔の前で手を合わせ、目をつぶってペコペコと頭を下げる。
「ま、いいけど」
「アバター、変える?」
「セーブデータから戻すと、また宝箱からこれらが手に入る?」
「ランダムだから、同じ物が手に入るとは限らないよ」
「じゃあ、いい。このまま行く」
そうだ。早くこの地図を使って、聖剣を手に入れよう。私は地図を広げ、そこに描かれている地形を確認した。どっちが北か南かもわからない地図で、しかも想像が付かない地形だ。でも、何とか探そう。
「この強運だから、会長にも会えるかもね」
彼女の言葉に、パーッと目の前が明るくなった。
「うん!」
私は、リスボンとポルトを往復している間に、先輩の船団に会える気がしてきた。噂ではジェノバからマルセイユに向かったということは、さらに西へ行くはず。ジブラルタル海峡を出てからは、北か南か西かの三択だが、まあ、東に踵を返すのもありだが、「北へ向かう」に賭けてみる。
強運がどこまで続くか。楽しみである。




