VRゲームのチャット機能を調べてみた
学校から帰る途中、母親からメールが届き、『帰宅が遅くなるから夕飯は自分で解決して』とのことだった。自分で作る気にもならないので、弁当を買いに近くのコンビニ店に入り、冷気に迎えられて辺りを見渡す。すると、店内に同じ学校の生徒が何人かいて、話し声が聞こえてきた。
「昨日、会長の船団らしい戦列艦がジェノバの辺りにいたって」
「聞いた聞いた。マルセイユ辺りに向かったって噂よ」
急に自分の耳がダンボの耳になったような気がした。湖透先輩がどうやら地中海をまわっているらしい。もしかして、今日会えるかも知れないと思うと、もうドキドキしてくる。
家に飛んで帰って部屋に駆け込み、両手でヘッドギアを持つが、インするのは思いとどまった。ココと夜の8時って約束しているし、いくらなんでも、湖透先輩がこの時間にインしていることはないはずと、はやる自分に言い聞かせる。
着替えて宿題を済ませるのは、日課になっている。そうしないと、夜中に宿題をやっているところを母親に見られたら、ヘッドギアが即没収になるからだ。成績ががた落ちになってもこのエキサイティングなゲーム機が同じ運命を辿るので、気が抜けない。ある意味、この機械は、鼻先に母親からぶら下げられたニンジンなのかも知れない。
お腹が空いたのでコンビニ弁当をチンしてかきこみ、風呂に入る。今日はテレビのアニメを観るのはやめた。ずっと先輩のことが頭から離れられないからだ。
ゲームの世界で先輩に会いたいけど、あの夢が気になる。
気になって仕方ない。
夢判断的には、どういう意味なのだろう。リアルで相手にされないから、VRゲームの中で仲良くなろうとしていることは、実は無駄な行為だと心の奥底で思っていることが夢となって現れたのか。
時計を見ると、まだ7時。時間を前倒しに出来ないか、ココに相談しようとスマホでチャットを開いたが、彼女はチャットにいなかった。そこでメールを送ってみると、7時半ならいいと返事が来た。私は続けて質問を投げかける。
『ゲーム内でココとチャットするやり方、教わってない。教えて』
すると、少し間を置いて返事が来た。
『チャットに来て』
メールでやりとりするのが、たるいと思ったのだろう。早速、チャットの画面を開く。すると、もうココが書き込んでいた。
『ごめん。最初に会ったときに、お互い、友達登録するの忘れてた。リスボンの銀行の外で待ってて』
私は頭を抱える。そして、指で力強くタップして返信する。
『こっちは初心者なんだから、頼りにしてるんだから、よろしく』
すると、速攻で返事が来た。
『その前にチュート読んでよ』
確かにそうだ。私はココに甘えすぎていたかも知れない。30分の間を利用して、チャットの方法をスマホで調べることにした。
いざ調べてみると、意外に難しいことがわかった。
まず、相手と広場とか町中とかで対面し、画面で互いのIDを交換する形で友達登録する。すると、相手が地球の裏側にいても、画面上でチャットが出来るようになる。
対面なのだから、海の上でも互いの船が超接近していれば可能に思えるが、この状態では会話が出来ないようになっているらしくIDが交換できず、不可だという。ただし、後述のように、接近する船でも別の方法で友達登録が出来るらしい。
この仕様を読んで、私は夢の中で湖透先輩が船の上から語りかけてきたことがゲームでは不可能であることがわかり、安堵した。あのような拒絶をされて背を向けられたら、心が折れてしまう。
チャット画面では、自分のアバターが左、相手のアバターが右に表示され、音声入力か手入力でテキスト文を入力すると真ん中のログ領域に会話文が表示されて、領域が一杯になったら上にスクロールしていく。自分と相手の文章の色は緑がデフォルト、背景は黒だが、後から個別に変えることができる。
ちょっと面倒なのは、友達登録しない形でのチャット。対面では、そもそもチャットの意味がないので、画面は起動しない。どういうときに起動するかというと、海上で互いの船が接近した時。
チャットの画面上で接近している船の絵が表示されるので、チャットをしたい相手の船を1つだけタップする。すると、相手側の画面に自分のアバターと名前が表示され「この人がチャットを希望しています。チャットをしますか?」と表示される。「はい」が選択されるとチャットが可能となる。「いいえ」が選択されると、自分の所に「『いいえ』が押されました」と表示されて終わり。
クイックモードでも可能なのだが、問題は、クイックモードは船の移動が早いので接近してもすぐに離れてしまうこと。そうなると、画面から船が消えるのでタップできない。どうも、このチャットは、クイックモードならほぼ同じ速度で併走している時、クイックモード以外はお互いが接近している時を想定しているらしい。
(なんか、面倒な機能……)
そう思ったが、考えようによっては、その方が助かる場合もある。もし、船が接近しているという条件を外してしまうと、世界地図を広げて誰彼無しに船をタップしてくるプレーヤーが現れるだろう。会いたくないからと言って逃げるプレーヤーを、ストーカーのごとく世界の果てまで追いかけることが出来てしまうのだ。
なお、この海上でのチャットの時、友達申請のボタンがあり、自分から申請して相手が受諾したら友達登録がID交換なしで――実際はプログラムの中で自動で――出来るらしい。
海の上で先輩に遭遇したら、チャットで誘って、勇気を振り絞って友達申請のボタンを押せばいい。本当に先輩であることをどうやって確認するかは、よく考えないといけないが。
他にも色々調べていたら、約束の7時半を10分も過ぎてしまったので、慌ててヘッドギアを装着し、VRゲームの世界へダイブした。
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