初めて交易品を売り買いしました
超能力もないこの私が、空に浮いている。目の前には大海を進む3隻の船が鳥瞰図のように見えていた。顔の真正面にマストの真上があるというよりは、少し船の後ろに下がって斜めの角度から見る位置だ。今、ちぎれ雲が顔の前を通り、足先の方向へ去って行った。ということは、雲より上の高さを飛んでいることになっているらしい。
眼下に見る3隻の船は、波を蹴って軽快に進んでいる。右側に見える陸地が航空写真を見るようにリアルな描写で、下の方へどんどん流れていく。ポルトはリスボンの北なので、船は北上しているはず。ということは、私の視界は、上側が北なのだろう。
頭を上げて上空の太陽を見上げると、スーッと沈んでいく。
「そうか。これは高速再生のビデオを見ているのと同じだ!」
思わず、声を上げてしまった。
空を渡り鳥か天使のように飛んでいるのに風を感じない。海の匂いもしない。そこは不思議だが、こうやって自分の船が順調に進んでいくところを飛びながら眺めていると、気分爽快である。
と、その時、暗い雲が目の前にモクモクと湧いてきて、船団の上へ盛んに雨を降らせた。すると、船の速度が鈍くなり、右側の流れる陸地の景色も動きがスローになる。しかし、それも束の間、雲が消えると、船は最初の速度で帆走を再開した。雲の上を飛んでいるので、自分は濡れないからいいが、もし甲板にいたら濡れるのだろうか。びしょ濡れはイヤだから、雨が降りそうになったらクイックモードで回避したい。
陽が落ちて星明かりの夜になった。夜でも船が明るく見えるのだが、これはプレーヤーが自分の船を見失わないようにするための演出だろう。船の速度が極端に遅くなったような気がする。でも、進んでいる時間がもの凄く早いので、気になるほどでもない。
少しして朝になった。船がやや右上の方へ進路を変えると、港が見えてきた。出港からここまで、感覚的だが、30秒もかかっていない。
船が港に到着すると、私は空に浮いたままだが、突然目の前に画面が表示された。そこには「交易所」「酒場」「市場」「造船所」「出港所」「世界地図」というメニューがあった。リスボンの時は、これ以外に「宮殿」と「カジノ」があったはずだが、ポルトにはないのだろう。せっかくなので、私は陸地と海を眺めて大自然を堪能していたが、いつまでも空中遊泳しているわけにもいかず、「交易所」をクリックした。
交易所をクリックしたので、てっきりリスボンの交易所と同じ部屋が目の前に現れると思っていたら、画面上にリスボンの交易所で見たのとよく似たメニュー表だけが現れた。女性の顔が横にあるわけでもなし、「いらっしゃい」の声もなしで、なんとも素っ気ない。
これでは、PCでゲームをしているのと同じ気分だ。でも、クイックモードに慣れておいた方がいいかもと思ったので、このまま続けることにした。
さて、どうすればいいのだろうと思ってメニュー表を眺めていると、一番上の列に「売却品」という見出しが付いていて、そこに塩の写真が6つ並んでいる。これは私の船が運んできた積み荷のことだろう。6つは部屋の数に一致しているから間違いない。
写真の下には1つずつ「1,800」という数字が並んでいる。ということは、塩を全部売れば金貨1,800の6倍で10,800が手に入るはず。「全て売却」というボタンがあったのでタップしてみると、所持金が43,660から54,460に跳ね上がった。うん、いいぞいいぞ。6,000で買ったから、4,800の儲けなり。あっ、水と食糧その他の経費は横に置いといてだけど。
二番目の列は、「購入品」というタイトルがあるので、ポルトで売っている交易品らしい。シャルロットはワインを買えと言っていたので、1つ800のワインを6つ買った。4,800の儲けがそっくりそのまま仕入れの費用になるが、さらに儲かるのだから気にしない。これで所持金は、49,660。
交易所で用事が済んだから「出港所」ボタンを押すと、今度は、食糧と水と資材と弾薬をどれだけ補充するかのメニューが出てきた。裏メニューまで並んでいるのが面白い。十日分あってまだ一日しか経っていないから、今回は補充せずに、「出港」というボタンをタップする。
すると、私は宙に浮いたままの状態で自分の船団を見下ろしていたが、船は下に向かって、つまり、南進してリスボンへと急ぐ。ということは、私は上を北にした状態を保持したまま下方向に飛んでいることになる。なるほど。私の飛んでいく方向は、上方向が船の進行方向になるようにではなく、常に北が上になるように維持されているのだ。実に不思議な飛翔である。
帰路の一日が終わるのは、やはり30秒もかからなかった。船の性能が上がると、きっとこの時間が短縮されるのだろう。そうしないと、リスボンから日本へ行こうとなったら、何分、何十分かかることか。
リスボンに到着すると、「交易所」ボタンでメニューを表示させ、ワインが「2,000」で売却できることがわかり、驚喜して「全て売却」ボタンをタップする。これで所持金は、49,660から一気に61,660になった。つまり、最初の所持金6万をあっさり超えたのだ。1回の交易で給料、中古品の船3隻の費用、水、食糧、資材、砲弾などの一切合切がペイ出来て、お釣りまで来た計算だ。いいね、いいね。
クイックモードの場合、空を飛んでいるのでミゲルのみんなと会話することが出来ない。それで、彼らにねぎらいの言葉をかけるため、「クイックモード」のそばにあった「ノーマルモード」をタップする。
一瞬にして私は甲板に立った。ちょっと落下する感覚があったが、遊園地で垂直に落下する絶叫マシンよりは軽めの加速度だった。ミゲルが両手を挙げて「初航海、おめでとう!」と喜んでくれて、周りのみんなは拍手で迎えてくれた。私は、この演出にちょっとホロッとしてしまった。
もう少し儲けようかとも思ったが、今日はたくさん覚えることがあったので、ここで終了することにした。私は十分満足し、画面から「セーブ」ボタンをタップする。次に「終了」ボタンをタップしようとしたが、指が止まる。
(どうしよう……。やっぱり、もう少し続けようかしら……)
でも、このまま夢中になると夜中になりそうなので、名残惜しい気持ちでいっぱいだが、終了することにした。
「ありがとう!」
私は、船員のみんなに感謝を伝えて、ゲームを終了した。




