船と感動の対面
私たちは、再び出港所に移動した。船へ案内してもらおうと、私がさっき話をした青年の方へ近寄ると、彼は「もう食糧と水はこれ以上積めないよ」と肩をすくめた。どうやら、食料と水を補充しに来たと思われたらしい。
私は「船へ」と言いかけて口をつぐんだ。なんか足りないような気がして、心に引っかかる物を感じたからだ。食糧、水、資材。他に必要な物があったはずだ。
(私は一時の商人。本来は軍人。軍人ってことは……)
そう考えていると、頭の中で船の雄姿が浮かび上がり、そこに大砲が見えてきた。太陽の光を受けてキラッと光るこの武器は飾りではない。だとすると――、
「そうだ! 弾薬をください!」
と、その時、青年は半眼になり、「戦争でもおっぱじめるのかい?」と言ってニヤッと笑った。そして、彼がメニュー表をひっくり返すと、「弾薬(セーカー砲) 100」とか「弾薬(カルバリン砲) 200」とか、何種類かの項目が目に飛び込んだ。まるで、裏メニューの扱いだ。
「いいとこに気づいたね」
シャルロットが私の左に近づいてきて肩を並べた。
「知ってて黙ってたの?」
私がむくれると、彼女は急に笑い出した。
「気づかないで船の方へ歩いて行ったら、『海賊が来たらどうするんだい?』って言ってあげるつもりだったよ」
「やっぱ、知ってて黙ってたんじゃん」
「ごめんごめん。弾薬は大砲の種類によって買う物が違うよ。あの船にはデミ・カルバリン砲が2門あったから、そこの『弾薬(カルバリン砲) 200』を2つ買うんだね。ちなみに、弾薬って弾丸と火薬のセットだよ」
「これで何発撃てるの?」
「大砲1門につき100発」
なんだか、ドドーンと発砲する度に金貨がバラバラーって飛んでいくようでイヤだが、戦いだから仕方ない。こう考えると、戦争ってお金の戦いね。これで所持金は43,660になった。うーん、6万からどんどん減っていく……。早く儲けないと。
シャルロットがいつの間にか私の後ろに回って「こっちこっち」と手招きしている。彼女の歩いて行く先に、扉があった。どうやら、扉の向こうに船があるらしい。私は鼓動が高鳴るのを感じながら、扉を開けた彼女の後ろに従った。
磯の香りをたっぷり含んだ風。抜けるような青空。降り注ぐ陽光。眩しさに思わず、目を細めてしまうが、接岸された船が私の眼を大きく開かせた。
「何これ!? 凄い!」
係留された3隻の船は、いずれも濃い茶色の木造船。でも、想像していたよりも遙かに大きい。
船の縁まで、私の背丈の2倍以上はある。3本の帆をかけていないマストがあり、真ん中のは上まで仰ぎ見ると首が痛くなる。
船の長さは20メートル? 30メートル? いや、もっとあるように見える。舳先には槍のように細く突き出ているのがあるけど、この槍みたいのは何をするものかしら?
この中古船、メニューの絵ではしょぼい感じがしていたが、間近で見るとそんな先入観は吹き飛んで、私は馬鹿にしていた船に向かって謝罪を述べたい気分になった。キャラベル・レドンダでこの雄姿なのだから、ガレオンだったらどうなるのだろう。考えただけで興奮して体が震えてくる。
すでに3隻とも、約束通りに船員が乗り込んでいて、右に左に動いているのが見える。この様子なら、荷物も弾薬も積み込みが終わっていることだろう。
「これは……排水量60トンないし80トンクラスだね」
両手を腰に当てたシャルロットが、船を仰ぎ見て、頷きながら独り言のようにつぶやいた。
「そう言われても想像が付かない……」
すると、彼女は私の方を向いて得意そうに解説を始めた。
「この船の帆はスクウェアセイルといって、四角い帆を使うんだ。今張ると風を受けて勝手に走り出すから張っていないけどね」
「それは、言われなくてもわかるわよ」
「スクウェアセイルを?」
「いや、走り出すこと」
低レベルの回答を自覚する私は、シャルロットの含み笑いが悔しい。
「これ、スピードが出て、小回りが利く船だよ。でも、小回り利くのはいいけど、ちゃんとまっすぐ進もうね」
「なんか、変なことを考えてるでしょう? 私が慣れないから横道にそれるとか」
「ムフフフフ」
私のむくれる顔が彼女のツボにはまるらしい。シャルロットは、リアルのココとおんなじ性格だ。
「シャルロットは、これからどうするの? この船に乗って一緒にポルトまで来てくれるの?」
「それは不可能さ」
彼女は肩をすくめて首を横に振った。
「なんで?」
「プレーヤーの所有する船に乗れるのは、そのプレーヤーと雇ったNPCのみ。……おっと、他のプレーヤーが乗れるケースがあった。海戦で敵の大将と甲板で一騎打ちになった時だね。だから、これからは一人で頑張ってね」
「シャルロットはどうするの?」
「ちょっと地中海へ足を伸ばして稼ぎに行く。でも、チャット機能があるから大丈夫。さみしくなったら声をかけてくれたまえ」
「なんか偉そうに……」
「そのチャット機能、近づいてきた船の船長とも交信できるよ。顔写真つきで。もちろん、海賊ともね」
「わかった。……ねえ。どうやって船に乗るの?」
「よじ登ったら?」
「あのねぇ……」
「画面に乗船ボタンがあるから、それをポチッとな」
「ありがとう」
彼女のアドバイスに従って、表示した画面から「乗船」というボタンを探してタップすると、一瞬にして甲板に移動した。




