そこはファンタジー
おきろ
起きろ
起きるのだ
「とっとと起きろ、バカ孫」
「じいちゃん、今日は土曜で休みなんだよ。もう少し 」
あれ、土曜の朝なのにじいちゃんがお迎えに来た、違う、土曜だから異世界に行けなかったんだ、つまりこれはさじいちゃん得意の夢枕か
「じいちゃん、何で迎えに来てくれなかったんだよ。おかげで無職で嫁さんになる前に逃げられたじゃないか」
さすがにもんくの10や20も出てくるぞ
「バカ孫めまた早とちりか、周りをよく見ろ」
周りだと、確かに幻想的な森のなかだし、綺麗な泉もある、おまけにじいちゃんはデッカイ顔つきの大木だ
「じいちゃん、その格好はなに、着ぐるみですか、森の様子もいい感じだしファンタジーだけど」
「着ぐるみなどではない、この世界に木の精霊として生まれ変わったと言っただろ。なにをふてくされている」
芸が細かいな、人面樹に表情がうかんでいるよ
「だから何なの。金曜日の夜に迎えに来るとか言っておいて夢枕でごまかすつもりなの、背景に森の絵までつけて、今時の日本の映画たってこれくらいのCG作れるよ」
月曜日からどうしよう、アパートも解約したし実家だって兄貴はともかくあの両親が入れてくれるわけない、談合暴いても住所不定無職じゃ
「人の話を聞け」
バサリと木の葉を揺らしながら太い枝で頭を叩かれた。
「そんな太い枝で気安く叩かないでよ、いったいな」
ワハハと笑いながら僕の頭を指さす、というか小枝を指す
「ほれみろ、痛いのが証拠だ」
何が証拠だよ
「死人が化けてでた夢枕なんだから痛いくらいアリでしょ」
「やっぱり父親似だな、その固い頭と頑なさは」
それだけは止めてよ
「ちょっと待って、ここが夢枕じゃなかったら何処なの」
じいちゃん着ぐるみだし、背景はCGだし
「バカ孫、金曜日の夜にワシは約束通り連れてきたぞ」
巨木を後ろにそらし枝を広げ、
「ここが魔法と冒険の異世界だ」
なんですって、マジでか
足元に生えている草の感触、日本の森とはどこか違う草木の薫り、じいちゃんがデッカイ木の精霊。
「スゴいよじいちゃん、ここ日本じゃないよ」
感動だ、初めての海外だよ
「たから地球でも異星でもない、異世界だと言ってるだろ」
心なしか人面樹がぐったりしてるが、そんな小さなこと気にならないぐらいテンションマックスだった。
「OKじいちゃん止めの証拠を僕に見せてよ、魔法を見せてくれ」
じいちゃんの目がキラリと輝く。
「なに、止め、証拠の魔法。本当にそれでいいのか」
「もちろんだよ、ここが魔法と冒険のファンタジーな世界なら証明してくれ」
魔法だよ、魔法。きっとキラキラなエフェクトしたり暗雲が現れたり生暖かい風が吹き荒れて効果音もスゴいんだろうな
「よくぞ言った、ならばその身で味わえ」
えっ
「じいちゃんをさんざんウソつき呼ばわりした罰じゃ」
ヤバい
「木の精霊ゆえの属性魔法、雷撃」
バリバリ
「うギャギャギャ、ギャフンー」
「すまん、やりすぎた」
異世界最初の1日はこうして終わった。
2日目の朝
目を覚ますと目の前で人面樹がデッカイ鼻ちょうちんを膨らませ眠っていた。好奇心を刺激されたが僕の頭より大きいこいつを下手に棒でつついたりなんかしたら飛沫がかかりそうだったから離れた所から石を投げた。
初球で見事に当てたけど予想と違いパンと割れずにネチョリと萎んだ。
それでもじいちゃんはまだ寝ている。
「じいちゃん朝だよ、起きろ」
声をかけるとパッと起きた。
「先に起きたか、体に痺れや違和感はないか。じいちゃん昨日は少々やりすぎたかなって反省してるぞ」
あれで少々か
「大丈夫、調子はいいよ」
「そうか、なら指輪の効果はばっちりだな」
自慢気に巨木を後ろに反らす。
「この指輪って魔法の指輪なの」
小さな黄色い石が付いている以外飾り気のないシンプルな木の指輪だ
「さじいちゃんの体から掘り出した樹木を象徴する生命力と精霊としての聖なる生命異常回復力が込められている」
改めて指輪を見つめながら
「聖なるねぇ、さっきまで鼻ちょうちん膨らませていたじいちゃんみたらありがたみも半減だね」
「鼻、鼻ちょうちんだと、それは木の精霊トレントの貴重な樹液だ。その指輪の石だってトレントの長老の樹液が長い歳月を重ねて出来た聖なる琥珀だぞ」
げっ
「つまりこれって人面樹の鼻くそってこと」
「バカ孫、鼻にこだわるな。樹液とは木にとっての血だ、生命の根元だ。罰当たりな」
そう言われてもあの鼻ちょうちんをみたら誰だって引くよ
「ごめんなさい、確かに効果はばっちりだしありがたくちょうだいいたします」
フンと鼻をならしやっとトレントの偉大さを理解したかというような感じで、
「わかればいい、取り敢えず今日からこの世界の言語や常識を学ぶのだ。いつまでもワシの元にいるわけにはいかないから短期間でビシビシ仕込むから覚悟しろ」
バサリ、バサリと枝を振るうとキラリと目を光らせた。
イヤな予感がする
「先生質問です」
念のため手を挙げてじいちゃんに聞いてみる。
「さっそく質問か、向上心があって誠によろしい。なんだね銀次郎くん」
「翻訳魔法とか学習魔法とか無いんですか」
バサリ
一番太い枝ではたかれた。
「そんな都合のいい魔法が有るわけ無いだろ。今日1日正座で勉強だ」
「先生、僕は腰痛持ちの中年なんですけど」
「その指輪で一晩寝たら元に戻る、安心してしごかれろ」
何故かありがたい聖なる指輪が拷問の道具に見えた
「最初は文字表からだ、日本は基本50音だがここでは基本が68音ある。識字率はまあまあだが冒険の旅に出たいならしっかりマスターしろ。日常会話から貴族相手の応用問題に荒くれ相手のスラングも覚えなきゃ森の外には出さないぞ」
僕は英語どころか日本語だって怪しいよ、敬語も正しく使えてないよ
冷や汗タラリどころか脂汗がポタポタです
「先ずはこれからだ、発音は 」
この世界で生きる以上避けられないんだ、ならいつやるの
今でしょ
時事ネタ込みで銀次郎をあたたかく見守ってあげて下さい




