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Toy ガンナー  作者: チョーゆんふぁ
第一章 日本編
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行ってきます

覚悟を決めた翌日からも僕の生活は変わらなかった。

いつも通り朝起きて手ぶらで出勤、役所の入り口でカバンを取りだし業務をこなし、仕事を終えたらアパートに帰る。

違う事といえば大屋さんにアパートの契約は今週いっぱいまでと、急な話ですみませんて手土産を持って謝りに行った。

両親と兄貴にはじいちゃんみたく世界を旅してまわりたいと言ったが親は無関心。でも兄貴は、「体には気をつけろよ、行った先で連絡してくれ」最後に「ここはお前の家なんだから帰ってこいよ」と言って僕を泣かしてくれた。

兄貴、元気でな

サバイバルゲームの仲間には仕事を辞めて田舎で脱サラ農家になりますとウソをついた。木曜日に都合をつけてくれて送別会を開いてくれる。

みんなゴメンね


カードや携帯、銀行口座の解約もした。身辺整理は粗方片付いたしあとは決行あるのみだ、こうなると金曜日が妙に待ち遠し


火曜日、水曜日ときて木曜日。

仕事を終えてサバゲー仲間のいる居酒屋に向かった。少し遅れてしまったが携帯はとっくに解約していたので連絡がとれないのに難儀した。

解約は明日でも出来たんだから、気が急いていたみたいだ。


居酒屋に入るとみんなが出迎えてくれた。うちのチームだけじゃなく他からも知っている人達が集まってくれた。

もう泣きたくなったよ

「遅いわよ主役さん」

もう出来上がっている亜沙美さんが手招きする。

「はいはい、いらっしゃい」

善人スタイルの正義さんが僕の分の席を空けてくれる。革ジャンこと高校教師の松岡くんは僕にビールのジョッキを渡して立ち上がり、

「みなさんグラスは行き渡ったかな、ではここにいる我々の戦友であり愛すべき友人、滝川銀次郎くんの人生の新たな門出を祝って」

「「「乾杯」」」

日本に生まれて、みんなに出逢えて本当に良かった、変わり者だらけのやつらだけど、みんな忘れない、大好きだよ



「楽しく飲んでるか」

爽やかスポーツマンの顔を真っ赤にした孫一ことこだわりの(おとこ)、鈴木さんが話しかけてきた。

この人ウソかまことかわからないけど伝説の鈴木孫一の子孫らしい、自称だけど

「もう最高ですよ、今にも涙腺が決壊しそうなくらいです」

ちなみにこの鈴木さんは土建屋の若社長(38歳)だ

「よしよし、どんどん飲め。潰れたらうちの若いやつ呼んで家まで送ってやるぞ」

バシバシと僕の肩を叩き新しいビールを注文してくれた。

向こうでキンキンに冷えたビールなんて飲めるかわからないしお言葉に甘えていかせていただきます

「おい、銀次郎」

ハスキーボイスで僕と鈴木さんの間に割り込んできたのは正統派アメリカンソルジャーのマヤちゃん、こちらは顔どころか目まで真っ赤に染まっている。

完全にキャパシティを越えてるんじゃない、ウーロン茶とかで落ち着いた方がいいですよ

「何をとちくるってこーむいん辞めちゃってるのさ」

この子は背も僕より高く美人で素敵なんだけど、それだけに大虎に絡まれてるみたいでこの状態は恐い、普段は大学院生で研究室に籠りっぱなしらしけど想像つかない、鈴木が逃げていくのが見えた。一人にしないで

「話す時は相手の目を見ろ」

迫力ありすぎて無理です、スミマセン

「あたしもうすぐ大学院出ていくのよ」

コクコク

「この不況で就職先も見つからないし」

なるほど、おっしゃる通りです

「だからさ、滝川さんちに就職するのもいいかなって思ってたわけよ」

ん、人事課じゃないし公務員試験にもコネはないんだけど、と思ったとたんに頭にガツンと衝撃が

「そんな話じゃないでしょ、バカタレ」

思ったことが口に出ていた、気をつけよう

「あんたの隣に永久就職っていってんのよ」


おい、この土壇場でアリですか、色々整理して未練を絶ったのにアリですか、いやでも辞表は提出してないし、計画では明日誰もいなくなってから課長のデスクに置いて週明けの月曜日に出勤してきた課長がそれを手に取るみたいな


今ならチャラに出来るかも


美人な嫁さんと剣と魔法のロマン


どうすればいいんだよ、お祖父様


「ダメだよマヤちゃん、人には人生を賭ける重大な決断をするときがあるのよ」

誰だ、人の恋路を邪魔するヤツは

「亜沙美さん」

振り返ると僕らの後ろに亜沙美さんが立っていた。

「それに本気なら公務員を辞めて農業を始める滝川君を追いかけて行くものよ」

亜沙美さんに諭されうなだれるマヤちゃん。

ついてきてもいいんだよ、僕が行くのは夢のファンタジーな世界なんだから、諦めないで

「ごめんなさい滝川さん、私少し酔いを冷ましてきます」

行っちゃうの

「元気だしなさい、今は農業やる女の子が流行っているらしいからいずれは選り取りみどりよ」

慰めないでください、最早下がることの出来ない背水の陣ですから、先にあるのはファンタジーなロマンですから

僕は立ち上がるとビールのジョッキを高く突き上げて叫んだ。

「滝川銀次郎の未来に乾杯」

「「「「乾杯」」」」



そして日本最後の日が明けた。

昨日浴びるほど飲んだ酒も何故か完全に抜け、いつも通り朝起きアパートを出る。これで見納めかと思うと名残惜しくなる。感慨を振り切るように歩き出す。

この道を歩くのもこれが最後か、駅に入り改札を抜ける、これも最後か、ホームの売店をみる。

うぉぉあの雑誌の来週号から読めなくなるじゃん

血の涙が今なら流れるかもしれない。

その後のことは職場の自分のデスクにつくまで記憶になかった。

おかげでカバンをデスクの下から取り出すことになったよ


作戦実行は昼休みだ。人目に注意しながら各会議室の机の裏に長時間録音設定したボイスレコーダーをガムテープで貼り付けてまわった。前回の会議室を今度も使うとは限らないから念のためだ。

あとは夜になってやつらが集まり他人には聞かせられない後ろ暗いおしゃべりをしてくれるのを待つだけだ。

僕はわざと仕事を遅らせ誰もいない部屋でタラタラと仕事をする、いたって自然な姿に見えるだろう。

たまに会議室の人の出入りをチェックする。


前回とは違う会議室に人が入っていく、保険をかけて正解でした。

そして待つこと2時間、やつらが帰り無人になった会議室からレコーダーを回収する。

本番はここからだ、自分のデスクのパソコンで途中早送りしながらも必要な発言は確認した。これならばっちり使えるね。先ずは談合が始まるまでの要らない部分をカット、でも談合中の部分は手をつけない、捏造扱いされたら意味がない、これを記録メディアにコピーしまくる。それらを警察、検察、マスコミ各社宛の封筒に入れればあとは投函するだけ。

でもついでだから市庁舎内の全ての職員の業務用パソコン宛に音声を添付したメールを送信、これでOK

これがお別れになるだろう職場から清々した顔で別れを告げる。



辞表を課長のデスクに置くのを忘れてたよ


役所を出て最寄りのポストに投函、ミッションコンプリート。この後どんな騒ぎになるか見届けられないのが残念だけど真面目にがんばる鈴木さんみたいな会社を除け者にして市民の税金をぶんどるようなことはダメだよね


さあ、バイバイ日本、さようならみんな、じいちゃん迎えに来る時間だよ



来ない、電車が移動ポイントなのか




うちの駅に着いちゃったよ、じいちゃん




朝見納めたはずのアパート




エアガンの譲渡先とか別れの言葉を綴った置き手紙が部屋で待ってましたんですけど



ダメだ、訳がわからない、あれは夢だったのか、じゃあこの指輪は何なの



もう何も考えられない、頭がボーっとしてきた、寝よう


また、明日、かん、がえ、よ、う


意識も体も重く僕の全てが世界に沈んでいくような感覚の中眠ってしまった。













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