エンカウント
カァー
カァー
「居ねぇな」
「遠くの山から鳴き声は聞こえますけど」
僕らが防衛に呼ばれた畑に散らばる何十羽ものカラスの死骸が散らばっているが生きてるカラスの姿は360度どこにも見えない。
「銀城の言ったみたいに死骸があるとカラスは警戒して近寄らないみたいだね」
いえいえ、日本で僕も柿の木にダミーのカラスを死骸に見立てて枝に吊るしていましたけどここまで効果はなかったですよ。
せいぜい吊るした木に止まらないぐらいで遠巻きに見ていましたもん。
「やるじゃねえか、銀城。これなら帰りに瓜を山ほど土産に貰えるな」
「そんなに貰っても食べきれないで腐らせることになるよ」
マギさんにたしなめられるがブロンは毎日食いまくるから問題ないぜと胸を張る。
この様子だとまた腹を壊すんだろうな。
「このあとどうするんだ」
ダニロさんはカラスを爪先でつつきながら僕に始末の仕方を聞いてきた。
またカラスが来ないように案山子がわりの仕掛けを作らなくちゃいけないんだけど。
「とりあえずカラスは全部村に持って帰りましょうか、内臓や肉を取って簡単な剥製にしてからじゃないとすぐに腐ってダメになりますから」
「そうだね、腐敗臭やハエの飛び回る畑じゃ農民もイヤがるよね」
「それから狸や狐とかにちょっかい出されないように棒を立てて少し高めに吊るしておけば他のカラスは近寄らなくなりますよ」
多分こんな感じてよかったはずだ。ホームセンターで売ってたカラスの死体人形にもそんな説明が書かれてたような気がする。
うろ覚えだけど。
うちはサラリーマン家庭だし僕は公務員だから本格的なものは使ったことないんだよ。
実家の庭にある柿の木に黒いごみ袋を吊るしたのも人伝たえに聞いてやった事だし。
「本当にそんなんで大丈夫なのか?今日は死骸の山があるから逃げ出しただけで、カラスの剥製なんざ吊るしたところでこれからもヤツラが来なくなるなんて信じらんねえぜ」
ブロンの言いたいこともわかる。
「僕も実際どれくらい効果があるかわからないけど、気休めっていうかおまじないと思ってやるだけやってみようよ」
「私達の本来の依頼はカラスの駆除だからね、山ほどのカラスの死骸を村に持って行けば任務は完了だよ。銀城の言った仕掛は依頼外のサービスだから失敗したところで私達が気にすること無いと思うよ」
そうですね。
「まあ、死体吊るしてカラスに襲撃されるなんてことにはならないだろ。ブロンと銀城はカラスを荷車に積み込んでこい」
えー、僕もですか?
ダニロさんはニヤリと笑い自分の首の後ろに垂らしたマントのフードを指差す。ちなみにこのマントは昨日使った黄色いマントだ。
「俺に染み付いた瓜の臭いが気に入ったみたいでジンがフードでお寝んね中だ。起こさないように俺はパスだぜ」
「私は念のため周囲の警戒と援護をするから、二人とも頑張ってね」
ちっ、ダニロさんは最初ダメとか言ってたくせに、気まぐれで昨日と朝の食事でジンに瓜を餌付けしてたらメロメロになっちゃったし。
ジンが威力のある風の魔法の衝撃弾を射てると知ったら目尻を下げての可愛がりようはなんですかね。
まあ実際にジンは可愛いし、風の衝撃魔法を魔玉にも込めてくれるし、人の言葉もある程度理解して指示にしたがって動いてくれる。
僕らのパーティーの仲魔(仲間)としてもマスコットとしても十二分のポテンシャルを見せてくれた。
ダニロさんが独占中だけどスカウトした(勝手に連れてきた)僕も鼻が高いよ。
「仕方ねえな、さっさとやるぞ銀城」
ホント、ダニロって口は悪いけど仕事はチャッチャとやるよね。
「荷車が二台あるときからイヤな予感はしてたから覚悟はしてたけど」
昨日は帰りの荷車に乗っていたのは感電して倒れた僕だった。今朝は大量のカラスを運ぶので村からもう一台荷車を借り、一台はトライホーンが引き二台目はまたもブロンが引いてきた。
「帰りの荷車引きは交代だぞ。いくらなんでも一人で村まで引いて帰るなんてイヤだからな」
「ダニロさんも引いてくださいね」
「ちっ、分かってる」
帰りはともかく今はブロンと二人でカラスの積込だ。
「一晩中野ざらしにしてたが動物に食われた様子は無いな」
ブロンが一通り死骸を見てきたが昨日と変わった所はないようだった。
「しばらくは生き残りのカラスに監視されてたからじゃない?」
興奮したカラスの群れが取り囲む中ちょっかいだす気合いの入った動物はいなかっただろうし。
「そうだな。カラスの居ないうちに早く終わらすぞ」
うぃーっす。
カラスは失神していたから首筋か心臓に止めを一突きと、きれいな死体ばかりだったから荷車の積み込みも楽だった。死後硬直も解けてたから翼をたたみなおしきちんと並べて積めるのもよかった。
サイズに見あった重さで疲れたけどね。
ホントにでかいよ。前にサイエンス番組で生き物が自力で空を飛ぶための最大限の重量がどうのとか見たことがあったけどファンタジーなこの世界じゃ基準が違うんだろうな。
肩に担いだカラスの重さにそんなことを考えながらとにかく運ぶ。昼飯は用意して無かったから午前中に村に帰りたいのよ。
全てのカラスの死骸を荷車に積み終わり、最初に荷車を引くのは誰か拳を交えない穏やかな討論をしていた時だった。
「全員警戒して、山の方から何か複数の獣の気配がする」
山麓の森に向けマギさんは左手で弓を構える。
畑は森から離れているから腰に下げた矢筒から矢は抜いていないけど油断なく矢に右手を添えていた。
「マギ、見えたのか」
「見えないけど5匹、いや7匹くらいかな。こっちをうかがっているような感じだ」
スゴいな。森まで100メートルはあるのに気配がわかるのか、しかも数まで分かるの?
僕もこのパーティーでは偵察役よりの装備をしついるから何時かはマギさんみたくならないと。
感心ばかりはしてられません、毎日が修業だ。
とはいえ、いくら五感を集中してもマギさんのいう気配は分からない。
双眼鏡をアポーツして調べてみる。
現代日本の一般人から抜け出ていない僕にはこれが正解。
「低木や雑草とかあるし薄暗いからわからないな」
「銀城、それ遠くが近く見える道具だろ。俺にも貸せよ」
「オモチャじゃないんだぞ。気を付けて使えよ」
こうゆうのってテンション上がるんだよね。ブロンの気持ちがわかるから素直に渡して使い方を教えてあげた。
「おおー、すげえ。なんだよコレ、あそこの木に手が届きそうだぜ」
だよな。初めての双眼鏡って興奮するよね。
ん?ダニロさんの挙動が変だ。
口をパクパクさせてブロンに手を伸ばそうとしては下ろして、モジモジしてる?オーガみたいな巨体のおっさんが?
「銀城、その道具もう一つあったらダニロにも貸してあげてくれないか」
挙動不審なダニロさんを見てた僕にマギさんがそっと囁いた。
なるほど、そうゆうことですか。
幸いもう一つ双眼鏡はあったから直ぐアポーツしてダニロさんに渡した。
「おう、すまねえな。でも俺は別に、その、なんだ…」
最年長のリーダーのキャラって立場も想像できますけど、みてるこっちが気恥ずかしいから照れないでくださいね。
「確かにこれは面白いな、都会に行けばこうゆう道具もあるとは聞いたが値段もバカ高くて俺達には縁がなくてな」
ダニロさんは森や山や僕らが来た村を見ながらはしゃぐ。
「二人とも太陽は見ちゃダメですよ。太陽の光で目が焼かれて見えなくなりますから」
「「おう」」
「ダニロ、あそこにキジがいるぜ。旨そうに育った奴だ」
「ブロン、村長が畑を耕してるぞ。いい歳なのに腰の入った鍬の振りだぜ。ありゃ、まだまだ現役だな」
二人とも楽しそうだ。
…僕は何で双眼鏡を出したんだっけ?
「こら!今は遊んでる時じゃないだろ。ブロンそれ貸して、私が使うから」
「わかったから怒るなよマギ」
そうだ。森に獣の気配がどうとかって調べてたんだ。
僕もスコープ付きのレバーアクションのウィンチェスタ-をアポーツして構えスコープを覗く。
「…それらしいのは見えないですね」
さっぱりわからない。
「いた」
ダニロさんが森を指差し声をあげた。
いや、この距離で指差されてもわかりませんから。
「見えた。樫の木の下にあるあの青い紫陽花の右側」
具体的すぎてもわかりません。どれが樫の木ですか?
紫陽花もあっちこっち咲いててどれのことを指しているのか見当もつきませんよ。
結局のところ情報を貰っても僕の知識じゃそれをいかせないんですね。
もう、どこどこどこなのさ。
二人がいると言ってるのだからとにかくあっちこっち見てみる。しばらく見回していたときだった。オレンジ色のユリが群生していた場所を僕の視線が横切ったさいに四つ足の動物らしき姿が見えた。
「あっ、なんかいましたよ。オレンジのユリの前です」
「狐や狸じゃないね」
「野犬か」
「俺にも見せろよ」
ブロンがダニロさんにすがりつく。
片手であしらわれてるけど。
僕はさらにその動物を観察する。
ダニロさんが言うみたいに犬っぽいが大型犬だな、暗い茶色の毛がボサボサだし荒んだ雰囲気を出してる。
でも普通の動物だ。魔獣化した生き物は基本的にバカみたいに大型化するけどあの犬っぽいのは大型犬の常識から離れていない。
もしかしたらマメシバの魔獣だったりするかもしれないが。
「山犬、いや狼だね」
「ああ、普通の狼だな」
狼だそうです。
「僕、狼を見るの初めてです」
あれが狼か、シャープな体型も大物のオーラも感じない。狼=シベリアンハスキーってイメージだったから残念というか貧相に見える。
「なんだよ狼かよ、相手すると面倒だし不味いからやりたくねえよ」
狼の肉…こいつはホントにチャレンジャーだな。
「確かに肉は売れないし皮も大した値はつかないだろうな」
「狼の皮は安いんですか」
見た目はボサボサだけどブラッシングしたらいい気がする。
「夏場だからね、人気はフサフサな冬毛の皮なんだよ」
「だが俺達を見ても逃げる様子はない。それどころかしっかり観察してやがる」
それがなにか?
「つまり狼達はヤル気だねってこと」
このカラスの山にロックオン?来るのが遅かったら食い荒らされてたな。
「数が少ないから偵察だろうな。来るとしたら今夜か明日か、このままカラスを村に運んだら村が襲われるな」
それって。
「まずいんじゃないですか、あの村周りに壁どころか柵もないんですよ」
あののどかな村が戦場になるのか!200人くらいの村だけど大半が女子供に年寄りだ。カラスなんて取られてもいいけどその他の家畜は大切な資産だし人にも被害が出るかもしれない。
どれくらいの群れかわからないが僕達4人じゃ守りきれないよ。
「ダニロさん、マギさん、どうしたらいいんですか」
「地の利があれば守る方が楽なんだけど」
「銀城、一罰百戒って知ってるか」
この世界にもそうゆう言葉があるんだ。
「はい、知ってます」
僕がうなずくとダニロさんはニヤリと凶悪な笑みを浮かべてこう言った。
「人里を襲うとこうなるって今から狼達に教えてやればいいんだよ。村への手土産に2,3匹しとめて帰るぞ」
「狼なんて猟師の仕事だろ」
「銀城が前に言ってたろ。アフターケアってやつだ」
「はいはいブロン、リーダーの決定だよ。たぶんダニロは剣の出番が少なくて溜まってるんだと思うよ」
「そういや俺もカラスの止めをさしただけだったな」
ブロンも目を輝かせて舌なめずりする。
危ない人達だよ。
「具体的にどうしますか。突っつくと直ぐ逃げちゃいそうなんですけど」
僕達を見ても逃げないけど遠巻きにして警戒してるようでもある。
「カラスを一羽バラして誘き寄せてみようか、そこを全滅しない程度に襲って生き残りに人の恐さを伝えさせよう」
「上手くいきますかね」
「ダメで元々、帰ったら村長には狼の事を言っておくよ。念のため狼の死体を持って行くし」
「ゴチャゴチャ言うな。銀城、カラスを一羽持って畑と森の中間で適当にバラせ」
えー、恐いんですけど。
「何かあったら私が弓で援護するから行っておいで、でも油断したらダメだよ」
イマイチ安心出来ないけど行ってきます。
遭遇戦の始まりです。




