スライム駆除 三日目
スライムの駆除の二日目が終了した。
「あいつらめんどくせぇ」
「おつかれ、銀城」
後衛組は慣れない剣でヘトヘトだよ。
「今日も最高にプリンッと斬ったぜ」
「ブロン、腕を上げたな。太刀筋が綺麗だったぞ」
「まだまだダニロには敵わねえけどな」
前衛は元気だね。
さっさと晩飯食べて体を休めよう。
「銀城、私は用があるから出かけるよ」
用ってハウザーさんがらみのアレですか、元気ありまくりじゃないですか。
それくらいじゃないと交遊範囲が広がらないんだね。
僕には無理だ。
なんか僕だけがくたびれてるな。
やはりここはスライム対策をしとかないと。
待ってろよ混ぜるな危険。
「マギ、銀城、ブロン、今夜は飲むぞ」
「マギはいねえじゃねえか。女だろ。仕方ねえ、銀城パーッとやるぞ」
脳筋と同じステージでやってられるか。
「すみません、僕も急用が出来ました」
現代日本人は知恵で勝負だ。
「お前の代わりに飲んどいてやるから後で割り勘な」
「自分で払え、アホブロン」
店が閉まる前にいかないと、ダッシュ。
「あいつ最近生意気になってねえか」
「ブロンと一緒にいりゃ少しは染まるだろ」
「俺のお陰でタフになったってことか」
「そんなとこだな」
ゲラゲラと笑いながら二人は酒場へと歩き出す。
「酸ときたらアルカリ、そして身近なアルカリといえばこれだ」
町の食堂や鍛冶屋からかき集めた山盛りの木灰と水を張った大きなタライ、袋に入った小麦粉で用意はできた。
服装は毎度お馴染みのお風呂掃除スタイル、アルカリは皮膚を溶かすって理科で習った気がするからゴム手袋は必須だね。
先ずは灰を少量の水でよく練ってテニスボール位の団子を15個作り、小麦粉で表面をしっかり覆えばスライム毒団子の出来上がりです。
スライムに灰をかけてもダメなのは細胞膜があるからだと思う。
だったら細胞膜をだまして体内に取り込ませれば中で化学反応を起こせるんじゃないかなと僕は考えた。
その為に好物の小麦でカモフラージュしてみました。
様子見に団子15個にしといた。
うまくいったら皆で大量生産しよう。
そして第二弾。
最初にバケツに木灰を溶いた水を入れておく。次に150センチほどの適当な棒の先に深めの蔓製のザルを付ける。このザルはラーメンの湯切りに使うような柄のついた物を買えたから固定が楽だ。
予備も含めて3本作った。
宿屋のご飯にパスタが出たからこのてのザルもあるかなって雑貨屋に行って見つけたんだけど、その雑貨屋でマギさんとハウザーさんが店番の女の子の気を引き合ってるのに居合わせたのは気まずかったよ。
僕が店を出るまでマギさんは目を反らしていた。
時間も無くて間に合わせの仕掛けだけどとにかく一応準備完了、明日の実戦で役に立つか自信はあまりないけどね。
つくづく理系の勉強をしとけばよかったと思うよ。
そして日は沈み、やがてまた昇る。
三日目の朝が来た。
今日は朝一で来ちゃいました。
ブロンはダニロさん達に任せて僕は場所取りと準備にかかる。
前線の中央付近は混み合うから西側の端を陣取り毒団子を積み上げる。
タライとバケツに木灰の溶き汁を注いでバケツには3本のザル付き棒を差しておいた。
ザルや棒にアルカリ水を染み込ませておけば酸の耐久性が上がるかなって無い知恵を絞った仕込みだ。
アルカリで腐食しないよね?
やがて人が集まりだしダニロさん達もやって来た。
マギさんの笑顔がお面のように無機質だったのに気づかないふりをするのが男の情だ。
ダニロさんも変に感じていただろうけど空気を読んでスルーしてくれた。
KYのブロンは二日酔いでそれどころじゃないし。
仕事に影響するほど飲むなよな。
「銀城、この棒はなんだ」
「さすがダニロさん、お目が高いですね。こいつは対スライムの秘密兵器です」
「そのタライの水一杯くれよ、頭いてえ」
「その水は飲めません」
「そこの団子はなんだ」
「これは一見ただの団子ですが」
「気持ち悪くて朝飯前喰えなかったんだよ。今になって腹減ったぜ、一個もらうぞ」
「説明中に手を出すなアホ。地面に転がってるのを食べるんじゃねえ」
「食い物を粗末にするな」
「お前はただの悪食だ」
「一個よこせ」
「バカバカ、毒団子だぞ」
そうしてぎゃーぎゃー騒ぎながら時間を潰した。
途中でハウザーさんを見かけて挨拶をしたがハウザーさんは絵に書いたような爽やかな笑顔で軽く手で挨拶をして立ち去った。
この人は平常運転ですか。
お兄ちゃんキャラのあの方と違って失うものが無いからか?
サマージさんの朝礼が始まり例の掛け声を叫ぶが三日目ともなると付き合う人の声も少ない。
あれは毎日やるものじゃないよ。使い方も間違ってるし。
「野郎共、スライムなんぞぶっ潰しちまえ」
「「「オォー」」」
「おぉー」
ここは僕もノリノリだよ。
さて、ショータイムだ。
日が昇って気温が上がり東の方ではすでにスライムとの交戦が始まっている。
戦闘の波が西端にいる僕達のほうに近づいてきた。
だけど僕の勝負はすでに始まっているのだよ。
間隔をあけてバラ撒いた毒団子の罠、戦う前にして勝つ。
我が策を破れるものか。
森の奥からワラビ餅のようなスライムが這い出てきたよ。
相変わらず旨そうなやつらだ。
先頭の一匹が毒団子地帯に入りました。
「いっちゃって下さい」
ズバッ
「よっしゃ、先ずは一匹だぜ」
おい
「ブロン、僕の縄張りに入ってくるな」
アホブロン
僕はロングソードを抜いて罠地帯の両端の地面にガリガリと線を引いた。
「こっからここまでは僕の陣地だからな、ブロンはそっちでスライム喰ってろ」
「ガキかお前は」
「スライムを食べたお前は餓鬼だよ」
「やんのか、コラァ」
バカ、スライムの体液が付いた剣をこっちに向けんな。
「えっと、何匹倒したかで勝負だ」
「その勝負受けたぜ」
「僕が勝ったら1ヶ月禁酒な」
「俺が勝ったら1ヶ月パシリだからな」
敗けられない勝負がここにある。
バチバチと火花を交わしていると。
「銀城、スライムが君の団子を食べたよ」
キター。
マギさんの見ている方に目を向けると一匹のスライムが半透明の体に毒団子を取り込んでいた。
団子を覆った小麦粉が少しずつ溶けていく。
「敗けられないだ、ユー逝っちゃいなよ」
団子の表面の小麦粉を溶かされ木灰の塊が剥き出しになる。木灰の周りからブクブクと泡が立ち白く濁りはじめた。
「見たか、ブロン。これが智謀というもんだ。脳味噌まで筋肉のお前には逆立ちしても思いつかないだろ」
ポロン。
スライムから黒い塊がこぼれ落ちた。
あら
更に白く濁ったゲル状のものを吐き出すと一回り小さくなったスライムは麦畑に向かって這い始めた。
そのスライムにブロンは歩み寄ると、ズバッ。
「銀城、俺は二匹でお前はゼロだな。明日から何させようか楽しみだぜ」
ヤバいヤバいヤバい。
こんなはずじゃない。
苦悩する僕の前に森から新たなスライムが現れる。
「こいつも俺がもらったぜ」
いかん。
「させてたまるか」
とっさに僕は足元に転がってる団子を拾い上げスライム目掛けて思い切り投げつけた。
ズボッと音をたてて団子はスライムにジャストミートした。
「ふん、またお手頃サイズのスライムができたらスパッと斬ってやるぜ」
まだこっちにだって奥の手があるんだ。
もはや毒団子は足止めにしかならない、スライムを睨みながら僕は手の中にバケツに差しておいた長柄ザルをアポーツした。
団子も試作の15個だけだしこいつの出番が早くなっただけと思えばいいさ。
ブロンに負けてたまるかよ。
「銀城、スライムの様子がおかしいよ」
ん?
大上段に振りかぶった長柄ザルを構える手を止めてスライムを見た。
僕が団子を投げつけたスライムが全身を白濁させブクブク泡立てながら身悶えてるようにみえる。
なんで?
たしかに僕が想像した理想の効果予想だけど、さっきは失敗してたじゃん。
「銀城が思い切りぶつけたから、スライムの体内で団子が砕けたせいじゃないかな」
うが、そうゆうこともあったか。
シューシューと湯気を出しながらスライムの体は黒く変色した核を残して崩れ落ちた。
「残った核は俺が斬る」
「待て待て、ふざけるな。あの核はもう死んでるんだから僕の取り分だろ」
「ブロン、それは銀城のだよ」
「ブロン、横取りはいかんぞ」
「ちっ、わかったっよ」
ダニロさんマギさん助かったです。
「やったな銀城、スライム団子大成功だね」
「マギさん、スライム団子っていうか毒団子なんですけど」
「こいつは使えるぜ。スライム退治はみんな苦労してるからな、サマージさんに言って広めてもらおう」
話がでかくなってる。
「そこまで騒ぐほどのことじゃないですよ」
「これは対スライム革命だよ」
「毎年スライムで武器がダメになるから出費が減るのは大助かりだ」
「効果を確かめるためにもその団子でガンガン退治してくれよ」
「わかりました、がんばります」
ガンガンて言われても最初にスライムに吐き出された団子も含めて14個しかのこってないんだけど。
音もなく森から次のスライムが出てきた。
とにかくある分だけやってみるか。
そして。
「これが最後だ」
僕は15個目の団子をスライムに投げ込んだ。
ブクブクシューと煮立ちながらスライムが溶けていく。
15球で倒したスライムは12匹、3球は的をはずしてあえなく砕け散った。
剣や棒で散らすより飛沫が飛ばないから思いきって至近距離で団子を叩きつけた方がいいな。
サマージにスライム対策のマニュアルとして書き加えてもらおう。
「当たれば効果抜群だな」
ダニロさんに誉められた。
「こんなの邪道だぜ」
「どうしました、8匹しか倒していないブロン君」
「へっ、女子供がやるような小賢しいやりくちだ」
「男らしい12対8のブロンは負けそうになると文句ですかね」
はっはっはって、ブロンの顔がすごい真っ赤。血管までピクピクさせて、本気でキレなくてもええやん。
「調子に乗るのもここまではだぜ、まだ昼前なのにてめえには団子が残ってないだろ。ここからが本当の勝負だ」
たしかに日が落ちるまでまだ5時間はあるから普通にスライムと戦ってたら4匹のリードなんて巻き返される。
こんなときの為の奥の手だ。
「核玉キャッチャー」
チャラララーン!
「肥やし撒き用の柄杓か」
「ダニロ、先に付いてるのザルみたいだよ」
「こいつでこのまま逃げ切らせてもらうよ」
「そんなもんが役に立つかよ。俺は9匹目を斬ったぜ」
ブロンのやつ一太刀でスライムを両断してるじゃん。腕を上げやがったな。
しかしスライムはまだまだ森から湧いてくる。
僕は目の前に来たスライムにザルを突っ込んだ。
柄を持つ手にジュワーと酸とアルカリが反発するような手応えを感じつつ、そのままスライムの核をザルで掬い上げた。
「核だけ取ったどー」
核を抜かれたスライムはワラビ餅のような弾力を失いその場でデローンと潰れていった。
「名付けて、銀城式核玉一本掬い。これで13匹目だよ」
「何じゃそりゃ」
口をあんぐりと開けてブロンは呆然としてザルの中の核を見ているよ。
こいつはイケイケだ。
掬い上げたスライムの核を後ろに置いてあった灰汁のタライに放り込みザルはバケツの灰汁でザブザブ洗って次の獲物を探す。
「銀城、そのザルはまだ2本あるようだけど私にも貸してくれないか」
「もちろんいいですよ」
普段は弓使いのマギさんだからやっぱり剣で戦うのはやり辛いんだろう。次々とスライムの核をザルで掬い上げる僕を見て目を輝かせている。
「ブロン君、あと1本あるけど君はどうする?」
ニヤニヤ
「うるせえ、俺は斬るのが好きなんだ」
その発言は誤解を生むぞ。
「ダニロさんはどうしますか?」
「俺の場合は剣の修行のつもりだからな。遠慮しとく」
ダニロさんカッコいい、実際にスライムの酸でなまくらになってる剣なのに全てのスライムを一太刀でしとめてるよ。
やっぱり僕には前衛は無理だな。
「銀城、後衛組は素直にこの長柄ザルで楽させて貰おうよ」
「そうですね」
僕とマギさんは生け簀の魚を掬うように淡々とスライムから抜き取った核をタライに投げ込んでいった。
途中でタライが核で溢れそうになり後方で暇そうにしていた交代要員の人に町に新しい灰汁とタライを何個か取りに行ってもらった。
結果、この日は僕とマギさんで100匹以上の核を集めていた。
6つのタライに漬け込まれた大量の核を前に、
「この核はどうしましょうか」
「…」
「そんなもん、スライム駆除が全部終わってから考えりゃいい。とにかく今日は銀城の作戦成功を祝って飲むぞ、俺の奢りだ」
ダニロの兄貴、素敵すぎます。
「ちくしょう、俺はやけ酒だ」
「銀城、ブロンがなんか言ってるけどいいのかい」
「さすがに今のブロンに酒飲むなって言えないですよ。男の情です」
もちろん明日から一ヶ月は禁酒だけどな、今夜の酒を大切に飲めよ。




