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近すぎる距離
席替えから三日。
私はある問題に悩まされていた。
「近い……。」
隣の席に座る東堂湊をちらりと見る。
近い。
とにかく近い。
授業中も。
休み時間も。
移動教室も。
気付けば隣にいる。
幼なじみなのに。
今さら何を気にしているんだろう。
そう思うのに、なぜか落ち着かない。
「伊吹。」
不意に名前を呼ばれた。
「ひゃっ!」
変な声が出た。
湊が目を丸くする。
「どうした?」
「な、なんでもない!」
恥ずかしい。
すごく恥ずかしい。
「これ。」
湊が私の机を指差した。
消しゴムが床に落ちていた。
「あ。」
「ほら。」
拾って渡してくれる。
指先が少し触れた。
たったそれだけ。
なのに。
心臓がうるさい。
「ありがと……。」
「?」
湊は不思議そうな顔をした。
もちろん気付いていない。
私が勝手にドキドキしていることなんて。
放課後。
「伊吹、帰るぞ。」
陸が声をかける。
「おう。」
湊も立ち上がる。
玲央はすでに鞄を持っていた。
いつもの四人。
いつもの帰り道。
なのに。
今日は少しだけ違った。
信号待ちで立ち止まった時。
ふと横を見る。
そこには湊がいた。
夕日に照らされた横顔。
昔から知っている顔。
だけど。
知らない表情も増えた気がする。
「どうした?」
視線に気付いた湊が笑う。
私は慌てて前を向いた。
「なんでもない!」
胸がまた高鳴る。
春の風が吹いた。
そして私はまだ知らない。
この気持ちの名前を。




