席替え
朝の教室は、いつもより少しざわついていた。
「今日席替えだってさ」
その一言で、空気が一気に変わる。
「え、マジ?くじ?」
「運悪かったら最悪じゃん」
そんな声があちこちから聞こえる。
私はというと、正直あまり気にしていなかった。
(まぁ、誰とでもいいし)
そんな軽い気持ちだった。
⸻
「はい、席替えのくじ引き配るぞー」
先生の声で、教室がさらに騒がしくなる。
一人ずつくじを引いていく。
紙を開く瞬間、みんなの表情が変わる。
笑う人、固まる人、叫ぶ人。
「伊吹、何番?」
後ろから陸が覗き込んでくる。
「えっと……」
紙を開く。
「……前の方」
「いいじゃん、見やすいじゃん」
「そういう問題じゃない」
そんなやり取りをしていると、先生が黒板に新しい座席表を貼った。
一瞬、教室が静かになる。
次の瞬間。
「えっ」
思わず声が出た。
私の席の隣。
そこに書かれていた名前は。
「湊」
「……マジか」
陸の声が、少しだけ低くなる。
玲央は黒板を見て、小さく息を吐いた。
「終わったな」
「何が」
「いや、なんでも」
湊は特に表情を変えずに、席を見ていた。
でも、ほんの少しだけ動きが止まっていた気がした。
⸻
席移動の時間。
私は机を持って、指定された場所に向かう。
隣に座ると、湊が一瞬だけこちらを見た。
「よろしく」
それだけ。
いつもより短い。
でも、いつもより少しだけ近い距離。
「ねえ湊」
小声で呼ぶ。
「ん」
「なんかさ、隣って変な感じだね」
「……別に」
そう言いながらも、湊はほんの少しだけ椅子を動かした。
後ろの席から、陸がこっちを見ているのが分かる。
玲央は何も言わず、ペンを回していた。
でも空気だけは、少し違った。
⸻
休み時間。
「伊吹」
湊が呼ぶ。
「なに?」
「消しゴム」
「え、自分のは?」
「落とした」
「あー、はいはい」
渡すと、湊は受け取って一言。
「サンキュ」
それだけなのに。
なぜか少しだけ、前より距離が近い気がした。
その様子を見ていた陸が、机に突っ伏した。
「なんかさぁ……」
玲央が小さく笑う。
「席替えって、こういうことだよな」
「どういうこと?」
「知らなくていい」
⸻
その日の放課後。
なぜか3人はいつもより静かだった。
私は不思議に思ったけど声を出さなかった。
まだ私は、気づいていなかった。
この不思議な違和感の正体を。




