文化祭、始動
新学期が始まって一週間。
少しずつ学校のリズムを取り戻した頃、ホームルームで担任の先生が教室の黒板に書いたのは。
文化祭。
「今年の文化祭まで、あと一か月です。」
その一言で教室が一気にざわつく。
「もうそんな時期か!」
「今年こそ優勝したい!」
「何やるんだろう!」
あちこちから楽しそうな声が聞こえてきた。
先生は黒板に『文化祭実行委員』と書く。
「まずは実行委員を二人決めます。立候補でも推薦でも構いません。」
教室が静かになる。
「……誰かやる?」
誰も手を挙げない。
すると後ろの席から声が上がった。
「伊吹がいいと思います!」
「私も!」
「伊吹なら向いてる!」
次々と名前が挙がり、教室中の視線が私に集まる。
「えっ、私!?」
思わず立ち上がる。
「みんな待って!」
「いやいや、伊吹なら絶対できる!」
「体育祭の時もやってくれたし!」
「頼れるじゃん!」
断ろうとしたけれど、周りの勢いに押されてしまう。
先生も笑いながら頷いた。
「じゃあ、水原でいいかな?」
教室中から拍手が起こる。
「……はい。」
照れくさく頷くしかなかった。
「あと一人は?」
また教室が静かになる。
その時だった。
「俺、やります。」
聞き慣れた声に振り返る。
立ち上がっていたのは、千早だった。
「七瀬?」
先生が少し驚いた表情を見せる。
「まだ転入して間もないけど、大丈夫か?」
「はい。早くクラスのみんなと仲良くなりたいので。」
その言葉に、教室から「おぉー!」と拍手が起こる。
「じゃあ決まりだな。」
先生が名簿に二人の名前を書いた。
文化祭実行委員
・水原 伊吹
・七瀬 千早
「よろしくね、千早。」
私が小さく笑うと、千早も穏やかに笑い返した。
「こちらこそ。」
そのやり取りを、少し離れた席から湊は静かに見つめていた。
「放課後、実行委員は視聴覚室に集合してください。」
先生がそう告げると、チャイムが鳴る。
ホームルームが終わり、陸がすぐに私の席へやって来た。
「伊吹、頑張れよ!」
「ありがとう。でもちょっと緊張する……。」
「千早もいるし大丈夫じゃね?」
「うん。」
その言葉に頷いたものの、少しだけ不安もあった。
実行委員、体育祭の時は成功したけど、
ちゃんとできるかな。
「伊吹。」
名前を呼ばれ顔を上げると、湊が立っていた。
「無理すんなよ。」
短い一言。
それだけなのに、不思議と心が軽くなる。
「……うん。」
自然と笑顔になった。
その笑顔を見た湊も、小さく笑う。
だけど、その隣へ千早が歩いてきた。
「伊吹、放課後一緒に行こう。」
「うん!」
二人が並んで教室を出ていく。
その後ろ姿を見送りながら、湊は何も言わなかった。
胸の奥に、小さな引っかかりだけを残したまま。




