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夏休みまであと少し

七月。


教室の窓から吹き込む風は、もう完全に夏の匂いだった。


「暑い……。」


私は机に突っ伏した。


「それしか言えないのか。」


玲央が呆れたように言う。


「暑いんだから仕方ない。」


「確かに暑い。」


珍しく湊が同意した。


「ほら!」


「お前が正しいわけじゃない。」


「なんで!?」


教室に笑い声が広がる。


夏休み目前。


みんな浮かれていた。


授業中も。


休み時間も。


話題は夏休みの予定ばかり。


「海行きたい!」


「旅行行く!」


「バイト増やす!」


あちこちから声が聞こえる。


私も少しだけわくわくしていた。


今年の夏は。


なんだか特別な気がする。


理由は分からないけれど。


昼休み。


私は購買へ向かっていた。


すると。


廊下の向こうに湊が見えた。


女子たちに囲まれている。


人気者だから珍しくない。


いつものこと。


……いつものことなのに。


胸の奥が少しだけもやもやした。


「何見てんだ。」


後ろから陸の声。


「別に。」


慌てて前を向く。


陸はちらりと湊を見る。


そして小さくため息をついた。


「ふーん。」


それだけ言う。


最近の陸は少し変だ。


優しいのは昔からだけど。


なんというか。


距離が近い。


「伊吹。」


「ん?」


「帰りアイス買って帰るか。」


「行く!」


即答だった。


陸は少しだけ笑う。


「元気だな。」


「アイスは正義。」


「それは認める。」


そんな会話をしながら教室へ戻る。


その様子を。


玲央は静かに見ていた。


放課後。


ホームルーム。


先生が黒板の前で言う。


「終業式まであと一週間。」


教室がざわつく。


「夏休みだからって羽目外すなよー。」


「はーい。」


返事は適当だった。


先生も分かっているらしく苦笑している。


みんなもう夏休みのことで頭がいっぱいなのだ。


ホームルームが終わる。


鞄を持ち上げた時だった。


「そういえば。」


クラスメイトの一人が言った。


「夏祭り行かね?」


その一言で。


教室の空気が変わった。


「行く!」


「花火もあるよな!」


「浴衣着たい!」


次々に話が広がる。


私は思わず湊を見る。


湊もこちらを見ていた。


目が合う。


「行くか?」


そう聞かれて。


なぜか胸が少しだけ高鳴った。


「……うん。」


小さく頷く。


夏休みまであと少し。


そして。


私たちの夏が始まろうとしていた。

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