黒一点
蝉が鳴き始める季節になった。暑い。いくら山中にある大学といっても暑い。すれ違う学生達の中には半袖の者もいる。額を汗が滴る。「暑くて嫌になるわ。」誰にも聞こえない声で呟く。これでは日々目標としている上を向いて歩こうは実行できそうにない。背中を丸め汗の落ちる先へ目を向け歩みを進めた。
喫煙所に到着する。今日は講演がないのにも関わらず大勢が煙突を立てていた。そんな中、こんなに暑いにも関わらず季節外れの厚手の服を纏った紅一点ならぬ黒一点が目に入った。見てるこっちまで暑くなる。全力でポリシーを主張するのは構わないが、その服装は勘弁願いたいものだ。目が合う。
何時もは玩具を見つけた子どもの様な笑顔を浮かべて話しかけてくる京子は何故か黙っている。
暑苦しい。もう我慢できない。
「センパイ、そん格好暑くないですか。」
じっと一点を見つめた先輩は真剣な面持ちで「滅却してるから邪魔すんな。」と言った。今度は何者なんだか。頭も時代もぶっ飛んどる。
「快川さんは引っ込めて下さい。」
突っ込むと「博識やなあ。」と軽く流し、続けざまに「君のような勘の良いガキは嫌いだよ。」と今度は金でも生成しそうなキャラで攻めてきた。
ここで突っ込みを入れると当初の質問に戻れない。そう確信した僕は再び「いや、そん格好暑くないですか」と聞いた。
先輩は良い方向に期待を裏切って真面目に「一番はこのスタイルが好きやからかなあ」と直球を投げ返してきた。
一拍置いて「まぁ、他にも理由はあるけど親しき仲にも秘密ありということにしとこうや」と謎格言でお茶を濁された。




