過去問ダッシュ
交際が始まり二週間が経った。先輩の教育実習はもう終わった頃であろう。
少し前に分かったことだが、先輩はあまり携帯を好まない節がある。メールの返信速度にはムラがあり、時に生存を心配する返信スピードを誇る。そもそも携帯を携帯していないこともままある。
以前に一度なぜ返信が遅いのかと尋ねた際には聞かないでくれと寂しい声で返された経験があり、それ以来は基本的には向こうからの連絡を待つというスタイルが確立された。
果たして本当に付き合ってるのか。お得意の嘘でかわされただけではないのか。少し不安になる。
だから今日も先輩が居ることを期待して喫煙所に来てしまった。結局、そこに先輩は居なかった。冷たい雨が肌に跳ねる。
誰一人いない喫煙所に雨音が響く。大きく吸い込んだ煙を上空に吐く。ぼんやりと思考が巡る。
そう言えば近々一般教養の前期試験がある。控えめに言って厳しい。だが僕には先輩、もとい京都が生んだ三世紀先の人型ロボット京衛門の力がある。頼めば過去問という秘密道具を出して貰えるだろう。それも先輩に会いたい理由の一つだったのだが、肝心の京衛門が今どこにいるのかが分からない。
やーばパパin theやば谷園。
やばばーばばーばば。
優雅に煙草を吸う時間すら惜しい。火を着けたばかりの二本目とお別れし足早に喫煙所を後にした。
思いたったら即実行できる性分は自画自賛に値するのだが突っ走り過ぎることは自制したい。過去問を得るためには京衛門を見つける必要がある。ということは向かうべきは3回生が受けるであろう授業だ。先輩は語学部の英語専攻だったはずだという朧気な記憶を頼りに僕は語学部の学舎の大講義室に入るという大博打に打って出た。この素晴らしい行動力が惨劇を招いてしまうことになるとは。
大講義室に入ると入口近くの席でぽつんと独り舟を漕ぐ先輩を見つけた。どうやら賭けには勝ったようだ。授業の邪魔にならぬようそっと隣の席につく。教壇では金髪碧眼の教授が何やら話している。
おいおい、リアルイングリッシュかよ。何言ってんのかわかんねぇ。日本語話せよ。心中で英語の講義中だということを無視した悪態をつく。目的のブツだけ貰って早く出よう。そう決意し絶賛睡眠中の先輩の肩をつつく。
「ソーリー。」目を開けるよりも先に英語で謝罪してくる。「京子さん、僕です。」小声で囁く。
目を開き僕に気づいた先輩は小さく「グッモーニン」と挨拶してきた。こちらも挨拶を返すと「何で居んの。」と渋面を向けてきた。
「いや、実はですね。」本題に入ろうとしたその刹那、前方より視線を感じた。金髪碧眼と目が合ってしまった。どうやら金髪碧眼は問題の回答者に僕をご指名らしい。勘弁して下さい。問題を聞いてないから分かる訳がない。というよりそもそも僕はこの講義を受講してすらいない。日本人お得意の苦笑いで誤魔化しにかかる。遅れてきたことを咎めているのだろうか、顔を紅潮させ「アンサープリーズ」と迫ってくる。怖えよ。
タスケテクダサイ神様。内心でキリストに祈る僕の祈りが届いたのか隣から紙がスライドされてきた。大きく“アイハブアペン”と書かれている。ありがとう京衛門。助かりました。今度何か奢ろう。そうしよう。
僕は力強く「あいはぶあぺん」と回答した。周囲のざわめき立つ。
あっ、これ知ってる。やっちゃったときの空気だ。このアマ。嵌めやがったな。視線のみ隣の極悪人に向けるとそこには下を向き震える先輩が居た。
どよめく講義室を切り裂くように金髪碧眼から「ゴーホーム。」という言葉短な帰宅指令と大きな溜め息を貰った。
翌日、テストを終えた僕が勝利の一本を吸っているとどこからともなく先輩が現れた。
「コージ君。私は甘いものが食べたいでござる。」半ば強制的に近くの喫茶店に入ることになった。
「ほんなら次はでかいやつ行こかな。」
おいおい、まだ食べるんですか。アンタはギャルじゃないのに曽根なんですか。そうですか。
「後で泣くことになっても知りませんよ。」僕は忠告という体をとりつつ高額メニューを頼むなというメッセージを込めた牽制球を投げるという高等戦術を取るも先輩は「人生はフィクションちゃうねん。やり直しでけへん。死んだときにあれ食べとけば良かったって後悔したないやろ。やから今の内に食べたいものを食べたいときに食べるだけや。」と深そうで浅い借り物であろう言葉で自身の行いを正当化した。
続けて「過去問出したのだーれだ。俺俺俺俺俺俺。」と何処乃風の詞をを変顔で歌う。
「もぉ、今日だけですよ。」
宴は夕方まで続いた。
ここから異世界に転生させて二人に無双させたらどうなるのでしょうか。
そんな無茶苦茶なことをやる可能性は否定できないのが私の性分なのでしょう。
なろうクオリティー急上昇させて行きたい所存なのですよ。




