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新版 浦島さんの里帰り  作者: 磯悠


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6/7

第六話 黒幕

――朝。


「……ん……」


浦島は、ゆっくりと目を開けた。


ぼんやりとした視界に、見慣れた天井が映る。


「……ここは……」


まだ重たい身体を起こそうとした、その時。


「あっ!」


すぐそばから声がした。


「気づいた!?」


浦島が顔を向ける。


そこには、心配そうな表情で自分を見つめる結がいた。


「……結?」


「よかった……!」


結は、ほっとしたように胸を撫で下ろす。


「ずっと寝たままだったから、ちょっと心配したんだよ」


「そうか……」


浦島はゆっくりと身体を起こす。


「俺は……どれくらい寝てた?」


「昨日からずっと。今、朝だよ」


「……そうか」


浦島は、まだ少しぼんやりとした頭で昨日のことを思い返す。


結を守ろうとしたこと。


魚人と戦ったこと。


そして――自分の手から放たれた、あの力。


「…………」


浦島は、自分の手のひらを見つめる。


「……あれは、一体……」


その呟きに、結も表情を変えた。


「……やっぱり、覚えてる?」


「ああ」


二人の間に、少しだけ沈黙が流れる。


やがて、結が口を開いた。


「昨日の……あれ」


結も、浦島の手を見る。


「魔法……だよね?」


「魔法……」


浦島は、自分の手のひらを見つめた。


「僕、あんなの初めて見たよ。浦島って、前から魔法が使えたの?」


「いや」


浦島は首を横に振る。


「俺も、あんな力を使ったのは初めてだ」


「じゃあ、どうして……」


「分からない」


浦島は、自分の手を握りしめる。


「俺にも、何が起きたのかさっぱり分からないんだ」


「……浦島にも分からないんだ」


「ああ」


しばらく、二人の間に沈黙が流れた。


やがて、結が口を開く。


「じゃあ……あの魚人は?」


「魚人?」


「うん。昨日、僕を襲ってきたやつ」


結の表情が少し曇る。


「あいつも、普通じゃなかったよね」


「ああ。俺もそう思う」


浦島は頷いた。


「だが、あいつが何者なのかまでは分からない」


「浦島でも?」


「俺が知っている限り、あんな姿の魚人は見たことがない」


「そっか……」


結は少し考え込む。


「じゃあ、なんで僕を襲ったんだろう」


「それも分からない」


「……分からないことだらけだね」


「ああ」


浦島も困ったように笑った。


しかし、結はふと何かを思い出したように顔を上げる。


「……あ」


「どうした?」


「もう一つ、変なことがある」


「変なこと?」


「昨日の戦いのこと」


結は、昨日魚人と戦った場所を思い浮かべる。


「あれだけ派手に戦ったのに……」


「……」


「どうして、何の痕跡も残ってないの?」


浦島の表情が変わった。


「……そういえば」


「壁だって壊れてたし、あんなにめちゃくちゃになってたのに」


結は首を傾げる。


「今朝見たら、何もなかった」


「……俺も確認した」


「え?」


「目を覚ましてから、気になってな。部屋の外も見てきた」


浦島は腕を組む。


「確かに、昨日の戦いがあったとは思えないくらい何も残っていなかった」


「じゃあ……誰かが直したのかな?」


「それなら、誰が?」


「うーん……」


二人とも黙り込む。


「魚人が自分で消した……とか?」


「それも考えにくいな」


「じゃあ、魔法で?」


「……」


浦島が再び、自分の手を見る。


「可能性はある」


「でも、浦島の魔法じゃないよね?」


「ああ。少なくとも、俺にはそんなことをした覚えはない」


「……そっか」


結は小さく息を吐いた。


「なんか……昨日のこと、分からないことが多すぎるね」


「そうだな」


浦島は頷く。


「だが、一つだけ分かっていることもある」


「何?」


「昨日の魚人は、結を狙っていた」


「……うん」


「そして、俺は結を守ろうとした」


浦島は自分の手を見つめる。


「その時に、あの力が出た」


「……」


「だから、まずはこの力が何なのかを知る必要がある」


「うん」


結も頷いた。


「僕も、ちゃんと知りたい」


――それから二人は、昨日の出来事についてもう少し話し合った。


しかし、どれだけ考えても答えは出ない。


結局、その日の朝はそこで話を切り上げることになった。


「じゃあ、そろそろ学校行かないと」


「ああ。遅れるぞ」


「うん!」


結は支度を済ませ、浦島とともに家を出た。


今日は夏季補講があるため、いつもより少し早く家を出なければならない。


けれど――


二人の頭から、昨日の出来事が離れることはなかった。


* * *


――学校。


夏休みの校舎は普段より静かで、廊下を歩く生徒の姿も少なかった。


補講が行われる教室へ向かった結は、いつも通り自分の席へ向かった。


しかし、やはり頭の中には昨日のことが残っている。


魔法。


魚人。


そして、何一つ残っていなかった戦闘の痕跡。


「……うーん」


結が腕を組んで考え込んでいると、


「おはよう、結」


聞き慣れた声がした。


「おはよう、青凪」


青凪がやってくる。


「どうした? 朝から難しい顔してるな」


「えっと……」


結は少し迷った。


けれど、一人で考えていても答えは出ない。


「昨日のことなんだけど……」


「昨日?」


「実は――」


結は、昨日起きたことを順番に話し始めた。


魚人が現れたこと。


自分が襲われたこと。


そして、浦島が自分を守ろうとした時――突然、魔法のような力を使ったこと。


「……魔法?」


「うん。僕も最初は何が起きたのか分からなかったんだけど……浦島も、自分がどうしてあんな力を使えたのか分からないみたい」


「浦島にも分からないんだ」


「うん」


「そうなんだ……」


青凪は少し考えた。


「それで、他には?」


「もう一つ変なことがあって」


「どうした?」


「昨日の戦いの痕跡が、何も残ってなかったんだ」


「痕跡が?」


「うん。壁も壊れてたし、かなり派手に戦ったはずなのに、朝になったら全部元通りになってた」


「へえ……」


青凪は少し驚いたように目を開く。


「それは、不思議だな…」


「やっぱり変だよね?」


「うん。普通なら、何かしら残ってそうだけどな……」


「僕たちもそう考えた。でも、誰がやったのか分からないんだ」


「そっか……」


青凪は頷いた。


「じゃあ、その魚人については?」


「それも分からない」


「どんなやつだった?」


「魚みたいな姿をしてて……かなり大きかった。それに、僕を狙ってた」


「結を?」


「うん」


「……なんでだろうな」


青凪は首を傾げる。


「それが一番分からないんだよ」


結はため息をついた。


「どうして僕だったんだろう」


「何か理由があるのかもな……」


「やっぱり、そう思う?」


「うん。偶然って決めつけるには、ちょっと変な話だしな」


青凪はそう言って、少し考えた。


「でも、今の話だけじゃ何とも言えないな」


「だよね……」


「浦島も分からないんだよね?」


「うん」


「じゃあ、しばらくは様子を見るしかないかもな」


「……うん」


結は頷いた。


昨日の魚人。


突然現れた魔法。


そして、消えてしまった戦闘の痕跡。


どれも、まだ答えは出ていない。


「……なんか、変なことばっかり起きるね」


「そうだな」


青凪は笑った。


「でも、何か分かったら教えてくれよ」


「もちろん!」


結も笑い返した。


やがて、補講開始のチャイムが鳴った。


「じゃあ、またあとで」


「うん」


青凪は自分の席へ戻っていった。


その後、二人は補講を受け、休み時間には他愛のない話をした。


結にとってはいつもと変わらない一日が過ぎていった。


けれど結の胸には、昨日からずっと小さな引っかかりが残っていた。


* * *


――放課後。


「ただいまー」


結が家に帰る。


しかし、返事がない。


「あれ? 浦島?」


家の中を見回していると、庭のほうから物音が聞こえてきた。


「……?」


気になって庭へ向かう。


すると、そこには浦島がいた。


「……」


右手を前へ突き出し、じっと手のひらを見つめている。


「……浦島?」


「……結か」


「何してるの?」


「見れば分かるだろ」


「分からないから聞いてるんだけど」


浦島は小さくため息をついた。


「昨日の力を試してる」


「ああ……」


結は浦島の隣まで歩いていく。


「で、どう?」


「……何も起きない」


「やっぱり?」


「ああ」


浦島は一度手を下ろし、再び構える。


目を閉じ、じっと集中する。


「…………」


「…………」


数秒。


何も起こらない。


「……駄目だな」


「もう一回!」


「何回やっても同じだ」


「じゃあ、もう一回!」


「お前、面白がってないか?」


「ちょっとだけ」


「やっぱりな」


二人の間に、少しだけ笑いが起きる。


しかし、浦島は再び手のひらを見る。


「……でも、本当に何も起きないな」


「昨日はあんなにすごかったのにね」


「ああ」


浦島は少し考える。


「もしかすると、あの時だから使えたのかもしれない」


「あの時?」


「結を守らなきゃと思った、あの瞬間だ」


「……」


結は少し黙った。


「じゃあ……僕が危ない目に遭えば?」


「試すな」


「冗談だよ」


「分かってる」


浦島は苦笑する。


「だが、何か条件があるのかもしれないな」


「条件……」


「それが分からない以上、今の俺にはどうすることもできない」


「そっか」


結は浦島の手を見る。


「でも、また使えるようになるかもしれないよ」


「ああ」


浦島は頷く。


「その時までに、少しでも分かっていればいいんだがな」


「じゃあ、一緒に考えようよ」


「……ああ」


二人は並んで、夕暮れの空を見上げた。


昨日、浦島の中で目覚めた不思議な力。


その正体も、使い方も、まだ何一つ分からない。


それでも――


二人は、いつかその力について知ることができると信じていた。


――その頃。


二人から遠く離れた海の底では、静かに事態が動き始めていた。


* * *


海の深い場所にある、竜宮城。


静かな玉座の間に、二人の人影があった。


「……これはまずいことになってしまった……」


玉座に座る乙姫は、険しい表情を浮かべていた。


「申し訳ございません」


目の前に跪く者が、深く頭を下げる。


乙姫はしばらく黙り込んだ。


そして、ゆっくりと口を開く。


「しかし……例の陸上人と出会った上に、魔法まで使えるようになっていたとは……」


乙姫は静かに目を伏せる。


「まさに……言い伝えの通りではないか」


「そのようです」


跪く者が答える。


「今後、どういたしましょうか」


乙姫はしばらく考え込む。


やがて、その表情から迷いが消えた。


「魔法が使えるようになってしまったとなれば……やつを放っておくわけにはいかぬ」


乙姫は立ち上がる。


「例の陸上人を捕えるのも大事だが――」


そして、玉座の間に響くように言い放つ。


「今は、浦島をどうにかせねばならん」


「浦島を……?」


「そうだ」


乙姫の目が鋭くなる。


「やつを捕え、ここへ連れてくるのだ」


「……承知しました――」


跪く者が立ち上がる。


そして、深々と頭を下げた。


「――乙姫様」


* * *

「浦島さんの里帰り 第六話」を読んでいただき、ありがとうございます!


……。

後書きに書くネタがないです…

とりあえず、七話なるべく早くあげられるように頑張ります…


七話以降も読んでいただけると嬉しいです!

今後も「浦島さんの里帰り」をよろしくお願いします!!



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