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新版 浦島さんの里帰り  作者: 磯悠


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3/7

第三話 ひとつの思い出、ふたりの一歩


翌朝。


「そういえば、浦島はこれからどうするの?」


「俺は……元の時代に帰らなければいけない。向こうには、母がいるんだ。それに……元の姿にも戻りたい」


「そうなんだね……」


「ああ。だが、その方法がわからない。どうすれば帰れるのか……」


「……」


「……」


「まあ、今すぐ答えを出さなくてもいいんじゃない?」


「……そうだな。焦っても、良い答えは出ないか。少しずつ考えていくとしよう」


「それに、今日は浦島にこの街を紹介するって言ったでしょ。だから、難しいことを考えるのはまた今度」


「そうだな……。ありがとう、結」


「あ、でも……」


「?」


「外に出るなら、やっぱり浦島の存在は、人には知られない方がいいよね」


「そうだな。俺が何者なのか知られたら、騒ぎになるかもしれない」


「うん。だから、できるだけ普通にしててね」


「分かっている。その辺は俺も気をつける」


「じゃあ、行こっか!」


「ああ」


* * *


結と浦島が最初に向かったのは、図書館だった。


「ここね、お父さんと一緒に来てた図書館なんだ……。よく読み聞かせとかしてもらったなぁ」


「……読み聞かせするか?」


「えっ? 浦島が僕に? ありがとう」


「ちょっと待っててくれ。本を持ってくる」


浦島が持ってきたのは、子ども向けの絵本だった。


「ちょっとぉ、もうそーゆーの読まないって」


「まあまあ、遠慮するなよ」


「もう……」


そう言いながらも、結は浦島の隣に座った。


そして二人は、ゆっくりと絵本を読み始めた。


読み終わったあとも、二人は並んで本を眺めながら話を続けていた。


「この本いいよ!」


「そうか? じゃあ、今度読んでみるか」


「うん!」


そのときだった。


「あっ」


結の視線の先で、一冊の本が棚から落ちた。


しかし、結が動くより先に、浦島がふわりと飛び上がる。


そして、落ちた本を何事もなかったかのように棚へ戻すと、何食わぬ顔で結のもとへ戻ってきた。


「……」


結は、そんな浦島の姿をじっと見つめていた。


* * *


次に二人が向かったのは、公園。


「この公園ね、昔お父さんとよく来てたんだ。本気でしっぽ取りしたり、キャッチボールしたり、たくさん遊んだなぁ……」


「一緒にやらないか?」


「え? でも、用具ないし……」


「ボールとタオルなら持ってるぞ」


「え!? 浦島すご!」


「ふふっ。どうだ?」


「じゃあ、やろう!」


二人はさっそく、しっぽ取りを始めた。


「さぁ、俺のしっぽをとれるかな?」


「臨むところ!」


「ほら、こっちだぞ!」


「ちょっと、飛ぶのはずるいって!」


「ははは!」


しばらく走り回ったあと、今度はキャッチボール。


「浦島、その体なのにコントロールすご! プロじゃん」


「まぁな」


「自分で言うんだ」


「ははは!」


思い切り遊んだ二人は、ベンチに座って休憩する。


そのときだった。


「あっ」


近くにいた小さな男の子が、手に持っていた風船をうっかり離してしまった。


風船は、そのまま空へ飛んでいく。


結が反応するよりも早く、浦島が飛び上がった。


そして、親子に気づかれないように風船を取り戻すと、近くのベンチにそっと紐を結びつけた。


しばらくして――


「あっ、僕のふうせん! どこ!? ……あった!」


「ねえお母さん、僕のふうせん飛んでいっちゃったのに戻ってきた!」


「あらそう。鳥さんが取ってくれたのかしら? よかったね」


「うん!」


結は、その光景から目を離せなかった。


* * *


最後に二人が向かったのは、近くの喫茶店だった。


この町で一番美味しいと言われている店で、人気メニューは亀の形をしたパンケーキ。


「最後はここ。ここのスイーツ、よくお父さんと食べにきてたんだ」


「……亀の形のパンケーキが有名なのか……」


「そうなの。せっかくなら食べて行こうよ。お金も持ってきたし、浦島の分も出すよ」


「いいのか……? ありがとう……」


「うん!」


二人は、亀の形をしたパンケーキを注文した。


「美味しいな、結」


「うん! すごく美味しい!」


「おっと、口にクリームついてるぞ」


「あっ。えへへ、ありがとっ」


浦島は、結の口元についたクリームをそっと拭った。


そのとき、結はふと窓の外に目を向けた。


そこには、父親と小さな男の子が歩いていた。


男の子は父親の手を握りながら、楽しそうに何かを話している。


父親も笑いながら、その話を聞いていた。


「……」


結はしばらくその親子を見つめていたが、やがて静かに目を伏せた。


「……そろそろ行こっか」


「……ああ」


* * *


――そして、二人は海へやって来た。


夕焼け色に染まる海を、二人で眺めている。


「ここね、僕とお父さんの思い出の場所なんだ……」


「……綺麗だな」


「……そう、だね」


「……なにかあったのか?」


「……」


「最近ね、どうしてか綺麗に見えないんだ。なんていうか……もやがかかってるみたいで」


「……父親のことか?」


「え……どうしてそれを……」


「居間に置いてある仏壇を見てしまったんだ。それに……今日、結と行った場所は、全部父親との思い出の場所だったんだろ?」


「……うん」


「……あのね、浦島」


「ん?」


「実はさ、今日、浦島がいろんな人に親切にしてるところ……ずっと見てたんだ」


「……」


結は、静かに海を見つめる。


「……なんだか、今日はすごく懐かしい気持ちになったんだ」


「……」


「僕のお父さんも、そういう人だったからさ」


「なんか……今日一日、お父さんと一緒にいるような気分になれたんだ」


「……久しぶりに、本気で笑えたなぁって」


「……そうだったのか」


「でも、それで結のことを少しでも支えられていたんなら……俺は嬉しいよ」


「……」


「ねえ、浦島」


「ん? どうした?」


「僕、浦島が元の時代に帰るのを手伝えないかな……?」


「……え? いいのか? でも……結に迷惑なんじゃ……」


「ううん。むしろ、手伝わせてほしい」


「今日の恩返しもしたいから」


「……そうか。ありがとう……」


「えへへ。じゃあ、改めて。これからよろしくね、浦島」


「ああ。よろしくな、結」


二人は、それ以上何も言わず、しばらく夕焼けの海を見つめていた。


波の音だけが、静かに響いている。


やがて、太陽が水平線の向こうへゆっくりと沈んでいく。


結は、隣にいる浦島をちらりと見た。


その横顔は、夕焼けに照らされていた。


ほんの少し前まで、父親との思い出に胸を締めつけられていたはずなのに。


今は、不思議と心が穏やかだった。


「……行こっか」


「ああ」


二人は、沈みゆく夕日に背を向けて歩き始める。


その背中を、波の音だけが静かに追いかけていた。


――今日、少しだけ取り戻せたものがある。


そして、これから取り戻していくものもある。


夕焼けの残る海辺を、二人は並んで歩いていった。


「浦島さんの里帰り 第三話」を読んでいただき、ありがとうございます!

次回も、このくらいのペースで投稿予定です。4話以降も読んでいただけると嬉しいです。今度ともよろしくお願いします。


それと…

もし少しでも「面白いな」と感じていただけたら、X(旧Twitter)等で感想を呟いたり、周りに拡散してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです。

皆さんの力を借りて、もっとたくさんの人にこの物語を届けていきたいと思っています。

応援よろしくおねがいします!

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