↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新版 浦島さんの里帰り  作者: 磯悠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/7

第二話 昔話から来た君

「……え?」


結は、目の前のものを見つめていた。


玉手箱から出てきた、小さな何か。


最初は、ぬいぐるみだと思った。


手のひらに乗ってしまいそうなくらい小さくて、どこか人のような姿をしている。


けれど――


「……あったかい」


触れてみると、確かな温もりがあった。


ぬいぐるみなんかじゃない。


生きている。


「え、ちょっと待って……」


結は慌てて、その小さな体を持ち上げた。


けれど、反応はない。


「ねえ、大丈夫?」


返事はない。


「……どうしよ、どうしよ……」


結は部屋の中を見回した。


何をすればいいのか、全然分からない。


とりあえず――


「水……?」


結は急いで部屋を出た。


* * *


「お母さーん!」


結が母を呼ぶ。


「どうしたの? こんな時間に」


「ちょっと来て!」


「何?」


「なんか……なんか変なのがいる!」


「変なの?」


母が結の部屋を覗き込む。


そこには、玉手箱のそばに倒れている小さな存在がいた。


「……ぬいぐるみ?」


「違う! たぶん生きてる!」


「生きてる?」


「うん! 触ったらあったかかった!」


母は小さな存在を見つめたあと、結を見る。


「結、今日はもう遅いんだから。疲れてるんじゃない?」


「いや、ほんとだって!」


「はいはい。分かったから、もう寝なさい」


「……」


結は何も言えなくなった。


「僕、変なこと言ってると思われたかな……」


結は小さな存在を見る。


「……まあ、明日になったら分かるか」


結局、自分で水を持ってくるしかなかった。


小さな存在の口元に、少しずつ水を近づける。


すると――


ほんの少しだけ、体が動いた。


「……飲んでる?」


ゆっくりと水を飲んでいく。


さっきまで苦しそうだった表情も、少しずつ落ち着いていった。


「よかった……」


結は、ほっと息をついた。


それからしばらく、その小さな存在を見つめていた。


何者なのか。


どうして玉手箱から出てきたのか。


分からないことだらけだった。


でも――


「……まあ、明日になったら分かるかな」


そう呟いて、結は眠りについた。


* * *


「結、お腹が空いたんだが、何か食べるものないか……?」


「はいはい、ちょっと待ってね……」


結は、まだ眠かった。


目をこすりながら、布団の中でもぞもぞと動く。


「……ん?」


今、何か聞こえたような。


「結?」


「……ふぇ?」


結はゆっくりと目を開けた。


そして――


「ふぇぇえええええ!?」


一気に目が覚めた。


目の前にいたのは、昨日の小さな存在。


しかも――


「しゃ、喋った!?」


「驚かせてすまないな、結」


「えっ?」


結は固まった。


「……なんで僕の名前知ってるの?」


「……」


「ていうか、まず誰!?」


「……」


「何!? もしかして宇宙人!?」


「そんなに一気に聞かれても困るぞ」


「いやいやいや! 普通に考えて困るのは僕だから!」


そのときだった。


ぐぅぅぅぅ……。


部屋に、大きな音が響いた。


「…………」


「…………」


「すまないが、何か食べるものをくれないか……?」


「……ちょっと待って」


* * *


結が持ってきたのは、おにぎりだった。


母が作ってくれていたものだ。


「これでいい?」


「ああ、ありがとう」


ソレは、おにぎりを受け取る。


そして――


ぱくっ。


「……!」


ソレの動きが、ぴたりと止まった。


「どうしたの?」


結が不思議そうに見つめる。


ソレは何も言わず、もう一口、おにぎりを頬張った。


「……うまい」


その声は、どこか震えていた。


「……?」


結が首をかしげる。


すると――


ソレの頬を、一筋の涙が伝った。


「え……?」


結は驚いた。


「ちょ、どうしたの!?」


ソレは、自分でも驚いたように頬を触る。


「……あれ?」


指先に触れた涙を見て、ソレはしばらく黙っていた。


どうして涙が出たのか。


自分でも分からない。


ただ、この味が――


なぜか、とても懐かしかった。


「……」


ソレは、もう一度おにぎりを見る。


そして、静かに食べ続けた。


結はそんなソレを見ながら、


「……よっぽど美味しかったんだなぁ」


そんなことを考えていた。


もしかしたら、久しぶりのご飯だったからかもしれない。


やがて、最後の一口を食べ終えると、


「ふぅ。ありがとう。腹が満たされたよ」


ソレは、涙を拭いながら笑った。


「それは良かった」


結も笑った。


そして、改めてソレを見る。


「それでさ」


「ん?」


「君は誰? 名前は?」


ソレは、少しだけ黙った。


「あぁ、俺は……」


何かを言いかけて、止まる。


そして――


「いや。俺は浦島太郎だ」


「…………」


結は、固まった。


「んんん???」


浦島は首をかしげる。


「どうした?」


「浦島太郎?」


「ああ」


「……あの昔話に出てくる?」


「知らんが、多分その浦島太郎だ」


「いやいやいやいや!」


結は思わず立ち上がった。


「なんで浦島太郎がこんなところに!?」


「……」


「ていうか、お爺さんの姿じゃないの!?」


「……」


「なんでぬいぐるみみたいな見た目してんの!?」


「……」


「なんで!? なんでなんでなんで――」


「そんなに一気に聞かれても困るぞ」


「……あ、ごめん」


結は一度、深呼吸した。


「じゃあ、まず……」


結は浦島を見つめた。


「なんでこんなところにいるの?」


「それは――」


浦島は、玉手箱を見た。


「多分、その箱の力だと思う」


「箱……って、この箱?」


「ああ」


「じゃあ、その箱にはどんな力があるの?」


浦島は少し考えた。


そして、


「……俺もよくわからないんだ」


「え?」


* * *


浦島は、自分がここに来るまでのことを話し始めた。


亀を助けたこと。


その亀に連れられて、竜宮城へ行ったこと。


そして、竜宮城から帰るときに、玉手箱をもらったこと。


「それで、箱を開けたら……」


「お爺さんになった?」


「……いや」


浦島は、自分の小さな体を見た。


「こうなった」


「なんで!?」


「俺に聞かれても分からん」


「そっか……」


結は頭を抱えた。


昔話と同じようで、全然違う。


浦島は老人にはならなかった。


そして、気づけば見知らぬ時代にいた。


「それから?」


「しばらく、この時代を歩き回っていた」


「一人で?」


「ああ」


「何か食べたりは?」


「……何も」


「え?」


「何も食べていない」


結は、昨日の浦島の様子を思い出した。


あれだけ弱っていた理由が、少し分かった気がした。


「それで……?」


「そのうち、力が入らなくなってな」


浦島は苦笑した。


「そのまま倒れた」


「……」


「そして、気がついたら――」


浦島は結の部屋を見回した。


「ここにいた」


「……玉手箱のところに?」


「ああ」


結は、目の前の玉手箱を見た。


昨日まで、ただの古い箱だと思っていた。


けれど、この箱から浦島太郎が現れた。


どうして。


なぜ。


まだ分からない。


「……変なの」


結は小さく呟いた。


* * *


「それで……」


結は、浦島がここへ来るまでの話を思い返していた。


現代に来てから、ずっと一人で彷徨っていた。


食べるものもなくて、最後には倒れてしまった。


「……一人でいたら、また同じことになるんじゃない?」


「……まあ、そうなるかもしれんな」


浦島は困ったように笑った。


結は少し考えた。


そして――


「じゃあさ」


「ん?」


「しばらく、うちにいれば?」


浦島が目を丸くする。


「いいのか?」


「だって、また一人でどっか行ったら大変でしょ」


「しかし……」


「それに、僕だって君を放り出したら、あとでどうなったか気になっちゃうし」


結は少しだけ面倒くさそうに言った。


「だから、ここにいればいいよ」


「……そうか」


浦島は、ほっとしたように笑った。


「ありがとう、結」


「うん」


結は頷いた。


……まあ、僕が何かするわけじゃないけど。


そう心の中で付け足す。


自分から動いて、何かを変えようとするのは――


今の結には、少し怖かった。


だから、とりあえず。


「うちにいればいい」


それくらいでいいと思った。


こうして、結と浦島太郎の、奇妙な共同生活が始まったのだった。

「浦島さんの里帰り 第2話」を読んでいただき、ありがとうございます!

今回のお話は、改稿前に考えていたネタをもとにしている部分も多かったため、比較的スムーズに執筆することができました。

そのおかげで、思っていたよりも早く投稿できてよかったです!

この調子で、第3話もできるだけ早くお届けできたらと思っています。

次回もぜひ、読んでいただけるとうれしいです!


追記:後書きで「!」を使うことを覚えました


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。