化身の帰還/ジャンル:パレード&行進曲/BPM:120
「ほら、ね、聞いて……? 1,2,3,4!」
「……ッ」
「Ride、Ride、Run、Run、Dash?、Dash?、Go C-Prime!(おでかけしよ、シープライム!)」
「Upper、……、Keep(拍動を維持し)、Run and Dash(現場へ向かう)」
「らんあんどだっしゅ!」
正確な意味、より正しい単語のチョイスに意味はない。自分がその音をどう響かせて、どこに伝えたいのか。それが拍動の基礎だ。
身体は指示をすれば動く。
例え追っ手として認識した男が、その変のガラクタを投げつけてきたり、気に入らないからと飛びかかってきても。
詠唱めいた単語を口ずさみながら、身体をねじり、拍動銃を抜く。
四拍だけしか考えられなかったリズムが、驚くほどあっけなく拡張される。
「Stop、Swing、……ッ、『Freeze!』、Step、Step、Standby、Kick!」
初めてC'は銃を構え、声を張り上げた。実弾で戦う必要なんてほとんどない。拍動の入った弾を打ち込んで、1分程度無力化すればいい。
一人の暴漢にそのまま硬直《Freeze》を起こす拍動の一撃として弾が突き刺さり、向かってきた一人をしなやかに蹴り飛ばす。
その場でびっくりした姿勢のまま止まってしまった相手を見て、C'は頷いた。
「んっ……」
そして、小さく喉をつっかえさせて、反射的にCの声を出したと実感する。
似た風体があるがゆえに、男たちは指を差し、C'は人違いなので戸惑う。
「ぐえっ!」「げっ、あいつ見たことあるぞ!」
「いや、俺は」「集中集中! 声出して!」
鞄を抱えたままの暴漢たちは、反響する路地裏に逃げ込もうとしている。
路地裏は拍動汚染を受けたものには危険地帯だ。あっちこっちに反響する音は、C'たちにはまだ入れない。CSは力を広げるために、きもちいいを表す声を出した。
「Lala-tala-Luuttata! Lala-tala-Luuttata!」
らら、たら、るーたった!:気持ちよくなってきたCSの『しあわせ』に対するスキャットのような賛美のような何か。周囲に『しあわせ』が溢れ、場全体のとげとげした気持ちが減っていく。他にもバリエーションがあり、臨機応変。
ひったくりたちは足を止めた。否、身体がCSの拍動に反応したのだ。「こっちの方にいいしあわせがある」という意思の力を直に受け取って、止まりそうになっている。
「ふーっ……」
CSは心臓に手を当てて、小さく吐息を漏らす。コアが震えている。今、この大地をしあわせに満たしたくてたまらない。それはCSの空色の瞳を、陶酔の青に導く。CSは、悦びを得ることに何の躊躇もない。
人が多ければ多いほど、拍動が重なり合い、たくさんの音を立てる。場を制圧する音に、人は呑まれる。魂で理解し、屈服する。
この生き物は、しあわせになるため生まれてきて、すべてをしあわせにするため生きている。CSはちらっと追跡を続けるC'を見てから、観客に流し目を向けて微笑んだ。
「Lala-tala-Luuttata!――もっとしちゃうね……よく聞いて?」
ずんっ、ずんっ、ずんっ、ずんっ!:深く響き、下から上に突き上げる強烈な重低音。至近距離で聞けば魂まで、液体ケーブルを介さなくとも拍動が貫通する範囲強攻撃。
「んふふーっ! あはっ……しあわせになってきたぁっ!」
魂の底まで響くビリビリベースを、『おなかのおく』にたくわえて、CSが不慣れなステップに合わせて液体ケーブルを指で擦る。
液体ケーブルはCSに絡みついて撫で、その度にしゃらしゃらと音が鳴る。快楽を導く音が重なってCSを昂ぶらせる。
「ずんずんっ、だんだんっ! もっともっと、どんどんっ!」
CSが歓喜のままにコアから重低音を上げてそこらじゅうを侵し始める。朝っぱらのいざこざで拍動に負けて万歳三唱させられていたものや、音が何も残っていない浮浪者たちも、CSの方を見始める。
この世の快楽全てがやってきたような顔をして、徐々に青く染まりきった目を潤ませ、手拍子を始める。
CSは一身に注目を受けて、くるくる回って自分の足取りに酔う。それは、共鳴するC'にも影響を与える。
(――鳴らす。深く。1,2,3,4)
ふらりと増した陶酔に頭が振れ、コアが震える。C'の動きがより軽やかになる。四拍子に、多少の揺らぎを持てるようになる。その瞳はほんのり青さを増す。感情は遠のくのに判断と身体感覚が徐々に研ぎ澄まされる。
心地良い高揚が身体を支配し、人々が見守る中、明らかに身体能力の向上を得て、状況不利になったひったくりに迫る。
「Charge、Charge、Chase、Catch」「|Lala-tala-Luutata!」
「Step、Step、Certainly!」「|Lala-tata-Lattatta!」
あたりはもうシンバルやドラムの幻聴、きらきらした紙吹雪や金銀のテープの幻視、拍動に呑まれたトロンボーン吹きの協調やらで溢れて、すさまじい熱狂にアーケード全体が崩壊しそうなほど揺れている。
CSを中心に妖しい極上のリズムが響き渡って、もう全てが蕩けて気持ちよくなっていく。
CSは幸福を呼ぶためだけに拍動を刻み、アーケードを突き上げながら、ゆるやかな衣に包まれた身体をしならせ、指先まで酔って踊る。
後頭部の接続端子を液体ケーブルに撫でさせて、CSは外に響かせるための快感を導き出して蕩けて笑っていた。




