Perfect Cornman!/ジャンル:一方通行ダンスミュージック/BPM:145
デンッデンッデンッデンッ!:今日のおすすめBPMは145。前のオミミナイナイ防衛戦よりはマシだけど気を抜くとrhymeが途切れる予感はひしひしする。周囲のコーン被された人間がだいぶ不安な感じで並んでいる。
「早めに終わらせよう。では、諸君! 行くよ! 1,2,3,4!」
ブラッドがタクトを振り上げ、今は轟音主義者に支配されきった環境に小さな場を広げる。彼の位置取りは後方。CSは前線で巻き込まれないよう間合いを取ってコアから拍動を鳴らして分かりやすく伝えてくれる。引率のディーは面白半分にやってきた野次馬を立ち入り禁止にしている最中だ。引率というより警備員めいている。
「ずんずんずんずん、|Dan-Dan-Da-Dda!」
「Step、Swift、Stay、『Fire』! Downer、Aim、『|Double-Freeze《二重凍結》』!」
C'は頭の中にrhymeを満たし、今日も自分をマニュアル移動するため口ずさみながら踏み出す。響きとしてどう考えても安心拍でないと判断したC'は、そのまま相手の行動不能を狙って『動くな』を連射した。イッテーが構えたメガホン型ビートダウンが、C'とCSにまずは向けられる。
「『Bacchi』『Bacchi』『|Ka-cchi、Ko-cchi《身動き取るな》』!! 『Take a corn and cap a corn(四の五の言わずコーン被れよ)』!」
「うわっ、何それrhymeみたい!?」
「俺はもっとシンプルだ」
C'の不本意そうな呟きはともかくCSは直線で飛んできた拍動の震えにとっさに横っ飛びをして手を向け、しあわせ拍で迎撃を始める。C'も相手が近づいて来たのをいいことに、体術でメガホンを蹴り飛ばそうと身を屈めるまではした。
「Keep、Standby……」
彼は四拍子のビートを正確に刻みながら、rhymeを唱えていたはずだった。だが、C'は急にその先がないことに気がついた。
(拍がない!!)
目の前には次の四拍。四つあるはずのビートが二個しかなかった。
身体が突然の事態に硬直する。ブラッドとCSもその違和感に気付いて、すぐに理論と感覚で調査を始める。
「あはァ~! 変拍子浴びたことないのかよ、四つ打ちちゃん! 変拍子はなぁ、関節も気分もキマるぜ!!」
《軽度拍動汚染:C' 乱拍/停止徴候》
攻撃を差し込む場所がない。相手の一拍目が割り込んできて、自分の拍が抜けた確信があった。足がぐらついて、ビートダウンの音の波の真ん中に傾きそうになる。
「オラ、『Ba-cchi』『Ko-cchi』、ヘイッ『Bye-bye(銃を棄てな売ッ飛ばしてやるよ)』!」
「ぅ、……、Slide、Back!」
手が痺れて銃を取り落としそうになる感覚があった。とっさに拍をずらして放った言葉で身体は後方に飛び退るものの、かすめた拍動が接続端子をひりつかせる。
その後ろで、CSはリズムを保ちながら、タクトで拍を切り分けるブラッドの位置まで下がって相手の拍動に耳を傾けている。
「いち、にー、さん、し……。ん? あ! いち、にー、いち、に、さん、し! みっけ、これだぁ!」
「解析、乱拍だ。しあわせ拍とは別枠の人の精神を乱すタイプだよ。しかも四拍子と見せかけて、ところどころ二拍子が挟まってるね。テクニカルだがこざかしい真似をするじゃないか」
「んふふ。いいね、おなかにいれちゃお……四つのリズムばっかりじゃないよね~、おぼえてきたよ~!」
CSが足も使ってリズムを取り始める。重低音が響き渡り、あたりを揺さぶり始める。ブラッドはタクトの振り方を決め、響く幅を調整してくれる。
前のように、CSの快楽は人を全て包み込んだりはしない。ただ、轟音主義者の拍動を侵し、自分の拍動として快楽に変換し始める。
ずんずんがいっぱい!:ハイテンポな四拍子に変拍子が混ざる。四拍子のつもりでrhymeをかますと足下をすくわれる。過去にすくわれた奴はみんな通行止めのオブジェにされてる。
(冷静に。拍動を確実に打ち出すことに集中しろ……!)
C'は拍に耳を傾けて、銃を構え直し、通信に耳を傾ける。ブラッドの声は鮮明に届く。CSの拍に合わせて聞こえてくるのは、ブラッドが持つ鮮烈なブラスバンドの金管やドラムの拍動だ。
「乗れない拍にはカウンターだ! わざとノってやる必要なんてないよ! 《拍動収束》!」
「……、ん」
慣れない拍動の揺れに息を詰まらせながら、C'は入りを待つ。轟音主義者はなお、メガホンを構えてC'に膝を突かせようとハウリングと一緒に叫んでいる。
「おらおら『Ka-cchi』ッ『Ka-cchi』ッ!『|Stop'n'Cone』!!」
「Keep……ッ、Standby、『Freeze(固まるのはお前だ)』!」「《Hit》!」
頭のおかしい命令を打ち消すために、C'はブラッドとタイミングを合わせた。が、引き金を引いて出した『うごくな』が軽々と身をかわしたイッテーの横を通っていった。C'は動きを見失いそうな身体に暗示を掛け続ける。ただでさえハイテンポで騒々しい拍動の中では、息を継ぐタイミングにも注意が要る。
今この時も、ビートの巻き添えになった一般市民が硬直し、うつろな目でしずしずとコーンを被ろうとしている。ディーがさりげなく『遮断』で共鳴を止めて、そっと送り返している。お祭り騒ぎで人が踊り始めると、被害者が増えて引率の負担は増す。
「ねえねえ、おじさん、コーンすき? ねえコーンすき? コーンすきでしょっ、ねえ!」
CSも腕輪をつけた手を向けてコアから響く拍動を横から叩きつけながら、イッテーの音を押し返し始めている。
しゃり、と音を立てて身体にくっつけた液体ケーブルちゃんに撫でてもらい、自分の快楽をガンガンに高めて癖のあるリズムを上書きし始める。
「おっ……!?」
横から乱暴に拍でしばかれたイッテーは、ぐらっと勢いに傾く。その手がかすかに、落ちているコーンを求めてさまようのを、CSは確かに見てうっとり笑みを見せた。
「ガキが……改造済みか? だっせえな!」
「そだよ? コーンかぶるのがおじさんのしあわせだよね? 自分からぁ、かぶりたいよねぇ……っ」
恍惚と青みがかってきた目を輝かせ、CSがしあわせ支配主義の快楽の化身としての一面を剥き出しにして恍惚とした顔で笑いかける。が、イッテーも汗を浮かべながらにやにや笑いを深くして、巨体で小刻みにステップを踏む。
「そーいや多対一で不利だなぁ。ハッ、『Acchi』『Kocchi』『Step'n'Cone』、フッ、『Skip'n'Cone』『Dancing Cone(踊れっつってんだろ)』!」
その時だった。固められていた人間たちが、コーンを被ったまま、ばらばらに、しかし拍動を直線で通さないように動き始めたのは。足を開き、腰を落とし、気が散るように腕をくねらせて、一つに拍動を繋げている。
「最悪! BROが固まるわけだ!」
震える拍動とは裏腹に、あまりに統制されたその動きにブラッドの顔が引きつる。引きつったところを助けられるはずの被害者が、彼を抑え込もうと手を伸ばしてくる。
ブラッドはもうその場に立っていられない。拍動装置を起動させて、遠ざかり、拍動を再開させる手番を探すしかない。
「うわぁっ、触るな触るなっ! くぅ……っ、待っていたまえ、C'! すぐ立て直す!」
「すまない、早めに、頼む……!」
C'はブラッドが回避したのに安堵した。が、次に群がられるのはC'だ。操られた人間に触られる。それだけで神経を信号が跳ね回る。焦り、不安、ちょっとした苛立ちがそれを押し上げる。感情が高ぶりすぎて、過負荷が起こる。
――たったったったっ。
そしてそういう時、エコーコアはC'を駆け足効果音で内側からせっつく。拍が余計に乱れ、rhymeは千切れ、繋がった五感が青ざめていく。自我ががんじがらめになって、身体が強ばる。
「こ、のっ、忙しい時にッ……!」
C'の顔も青ざめた。拍動維持にも手一杯になった。訓練をしたとはいえ、未だにエコーコアは厄介者だ。
ざりざりとノイズが入り始める意識に感じるのはろくでもない単語ばかりだ。ふらついた脚が勝手に動き、腕が銃を構えて邪魔な民間人を撃とうとする。今度は攻撃だけ踏みとどまるので手一杯になる。手は二本しかない。
こんなしょうもない煽りをかます轟音主義者に、一番嫌な角度からの妨害が入る。C'の額に冷や汗が浮かんでいた。




