『うけいれて』『ふかく』『ひびけ』
「ありがとう、これなら――Riser、Riser、『Rush、Fire』!」
「Tulutulu-Dada-Bang!」
即興でCSが銃を撃つポーズと一緒にしあわせ拍を打ち込んでくれる。伸ばされたケーブルや動力装置にぶつかった三人の拍動が、いよいよ相手に影響を及ぼし始める。
ザッザッザッザッ:動力装置が攻撃に押されてきたからか、巨大液体ケーブルはCSたちのテンポにノリ始めた。ハイなBPMに波打って、身体を強ばらせているように見える。
息も上がってきたブラッドがにやりと笑みをこぼしてタクトを振り上げ、つま先のリズムでトランペットを響かせる。
「いいともッ! やっと共鳴してきたっ! このまま押し切るよ!」
「一気におしきれるもの……ディー、何かある?」
「ない! 俺は阻止はできるけど攻撃は向いてねぇ! ぐ、ぎゅ……ッ! きもッ……」
おもむろに足下に伸びてきてぶるっと震えたケーブルに、ディーは喉をひきつらせたおつらそうな叫びを上げて身体を強ばらせた。
何もしていないように見えて、タイミング良くガジェット経由で安心拍の逆の波を打ち込んでブラッドが眠らないように支えてくれている。
(拍動は、ここにある。今日は楽だが、確かにかなり響いてきている……さっき、店の中でもうまくできた……)
ふと、C'は自分の中に響くたくさんの音が入っていると気がついた。自己暗示とブラッドの調整で楽になっているだけで、からっぽの器は、今はとても賑やかになっている。
強気に笑うなんて動作は学習していないC'は、やはり淡々と、だけど熱く燃えている感覚のまま、頭の上で常に火花を散らし始めた液体ケーブルを睨んだ。
なおもチルな怪物は前進しようとしてくる。前に、後ろに震えながら、オミミナイナイの看板をわずかに押す。
「出力のある拍動を鳴らせば、いいんだな?」
「あるといい。手があるのかい?」
ブラッドの返事は簡潔に「やってみる」とだけ。しかし、できるという自信はあった。びりびり震える液体ケーブルに銃を構えたまま、C'の魂はCSの側に一歩、歩み寄る。その一言さえ、ついつっかえる。
「CS! す、少し。その。まもって、ほしい。頼めるか?」
「……! いいよぉ~~~っ! Daddala-tatta! GO GO!」
長期戦の疲労に額に汗を浮かべながらも、ぱあっと笑顔を見せてCSは拍動を震わせてくれる。身体が響き返すままに、C'は小さく微笑んで、意識を限界まで集中した。ぱり、と彼の足下にノイズが散る。
(っ……、コントロールして……CSとブラッドの音を、今日積み上げたものを残鳴機構に、響かせる……!!)
《共鳴過多:C' 陶酔進度1 拍動耐性低下/EchoCore補正 身体能力向上》
《共鳴過多:C' 陶酔進度2 快楽負荷発生/EchoCore補正 共鳴範囲向上》
ログは並ぶ。自分に蓄積されてきた心地良い響きを、衝動のままに鳴らすことを願う。陶酔がぐっと進んで、瞳の空色がノイズがかり、水底に沈む青に引きずられる。意識がただ、入れ物だと自覚するように鈍る。けれど、溢れて弾けてしまうよりずっといい。片手で銃を構えたまま、胸に手を当ててコアの震えを意識する。
(今日は、楽しかったんだ。とても、とても……! あぁ――!)
外の拍動と響こうとして初めて感じる熱い感情に眉が寄る。瞳が潤む。二人をいっぱいに響かせたい。もっと、深く、『きもちいい』音を。Cの記録を受け入れた時のように、C'の身体全体にノイズが広がる。花びらが彼の視界の端に飛び始める。浅い。それでも今はこの快楽の圧が限界。
《共鳴過多:C' 陶酔進度3 思考出力低下/EchoCore補正 従属思考促進》
自然と、受け入れるためのコマンドは喉にせり上がってくる。でも、その声は共鳴の耳鳴り音と心地良い陶酔にかき消され、C'の口から出るのは今使う言語でも、rhymeでもない音だ。ディーが静かに、それを見据える。
「『うけいれて』『ふかく』『ひびけ』――!!」
《深層共鳴開始:BloomCore、BeatScore》
C'の周囲に振動の波が爆ぜた。CSの声に重なる音が広がって、一気に周囲の雰囲気はしあわせ優位に変わる。まるで何人ものCSが一斉に歌っているような、音を重ねた時にしか聞こえない天使の歌声の幻。賑やかに、CSの声がコーラスでもハミングでもはしゃいでいる。
「これは……音の種類が広がってる!?」
ブラッドのブラスバンドの音に呼応して出てきたのは、彼の楽団にいない艶やかなストリングスの音色だった。この大混乱に応じた弦楽器の幻聴が、右に左にきゅうきゅう揺れる。激しく細かく震えて、安心拍を押し返し始める。
あたりは張り巡らされたインフラ液体ケーブルを伝って、そこらじゅう紙吹雪ときらきらテープの幻覚に満ち満ちて、毎日どんちゃん騒ぎのニルヴェイズの活気を取り戻す。もう、誰も寝てなんていられない。
最高にグルーヴで、ノリノリだ。
「ごほっ。けほ。のどかれでる……ふぐっ、うぐぐ……」
最後の抵抗とばかりにそこらじゅうのケーブルから飛び散る安心拍の強烈な眠気に耐えながら、CSは踏みとどまっていた。喉も枯れてきた。猛烈な圧に、無敵に見えるしあわせ拍だって震えている。
「まけたく、ないぃ……!」
両膝が折れそうになる。コアが響きすぎて、心臓が破けてしまいそうになる。ずっと、どきどきしている。
「――えっ、しーぷらいむ?」
でも、そのどきどきの内容は一瞬だけ、C'の視界の端で変わった。C'の拍動が変わったからだ。彼の瞳は青く沈んでいるけれど、その器は楽しさで鳴り続けている。
自分から『すき』を、響かせて、伝えてくれている!
「わ、わたしたちを受け入れて、響いてくれてる……うれしい! がんば、るぅっ、ねぇぇぇ……ッ!!」
CSが、ほんのり目を潤ませる。喜びにCSから出た重低音が、押し負けかけていたのに、強烈に深くなる。C'を軸に、三人の拍動が重なる。限界を迎えた巨大液体ケーブルが、追撃にぶるんと震える。




