外から見た指揮者と調律者
「ぶっ……BloomPotの、破片の可能性がある液体ケーブル……ッ! 片方は人間と区別が付かない残鳴機構……!?」
「ぶらっどぉ~、し~っ!」
「しかも、自我溶解からの救出がしたい……生還者は一人もいないのに取り戻したい……? ちょーっと待ちたまえ全方向規格外だ……ッ」
そして、ブラッドは驚愕した。ひそひそと店から出て打ち明けたあと、CSとC'はそれぞれオミミナイナイで買った戦利品を持ち、お近くのカフェに彼を引きずり込んだ。
彼がしてくれるように丁重におごり、彼の明確な動揺にビビり散らかしている。
「うーん……! きみたちは全方位からすっっごい狙われるみたいな気持ちはあるけど~、ぼくが言いたいのはそこじゃないんだよね……!」
ブラッドは腕を組んで悩んだ。彼はビートスコアを起動し、指先で先ほどの拍動ログの窓を動かした。
改めて二人を観測し、目を閉じ、顎に手をやり、おそらく頭の中にある様々な情報を照らし合わせ、それからやっと腕組みをほどいた。
「はぁ。やっぱり他人のそら似じゃない、よねえ?」
第一声はそれ。彼は言葉を選ぶように、頬に指を当てながら口を開く。彼は椅子の背もたれに身体を預けて、深く息を吐いた。
「ディーを探した以上、彼の相棒だったCには必ず行き着く。そして、性別不詳の麗人によく似た、これもまた性別不詳のきみたちと、ディーが一線から退いたログ、報告書、君たちの名前、その液体ケーブルの正体が分かれば……」
ブラッドは肩を落とした。でも、微笑んでいた。
「君たちが指揮者の隣にいた『調律者』と、他人である方がおかしいね」
「な、なんですぐ言わなかったのって、言わない?」
「これはなかなか言い出しにくい案件じゃないかい? 自分たちは溶かされた二期生から作られました、よろしく。うん、ぼくなら言わないね。鼻につくもの」
液体ケーブルを抱きしめてなでなでしてもらっているCSに向けて、彼は彼の理論をもって回答し、敢えて頬杖を突いて片方の唇を持ち上げた。
「これは図らずもぼくが得た、秘密の共有のチャンスってわけだ」
「どのみち、ディーの情報を交換するなら避けて通れない共有ではあったと思う。急に重い話にしてしまって、すまないな」
「別に? 重たいと判断して一旦ストップした君たちの判断、ぼくはいいと思ってる。そうでなきゃ、今日、こんな楽しい買い物はできなかったしね?」
ブラッドは自分の買い物袋を持ち上げた。拍動が漏れないビニール袋に、デフォルメでかっこいいグラサン掛けた坊主が書いてあるオミミナイナイの袋だ。それは、二人も持っている。おそろいだ。
「ありがとう……ブラッド。ごめんねぇ……きっと迷惑かけちゃったぁ」
「俺からも、すまない。ありがとう」
「ま、君たちの情報提供を楽しみにしてるのもあるけどね。君たちの言う、ディーはどんな人だい?」
計算高そうなことを言って、その実、善良なブラッドくんは頬杖を突くのをやめ、コーヒーカップに指をかけた。
CSは俯いていた顔を上げて、揺れる瞳を隠さず、勇気を出して液体ケーブルから手を離し、膝の上に置いた。液体ケーブルは伸びてきてくれたけれど、CSはしあわせに甘えるのに我慢する。
「あのね、ディーは、わたしたちをかくまってくれてたの。一週間。ニルヴェイズの全部から守ってくれてた。リハビリの間は、お弁当も作ってくれたし、この腕輪やヘッドセットまで。でも……」
「でも、指揮者と呼ばれる件について、一言も言わなかった。同時に、Cの話も情報共有で言ったきりだ。あくまでも、俺たちは俺たちとして、扱っている。自分の内側に触れさせないんだ、彼は」
C'はブラッドを真っ直ぐ見つめた。その青緑の瞳は、今、芝居がかった雰囲気をやめてこちらを見定めている。下手くそな初動やたまに見せる大げさな演技は、この目を見せないためでもあるのだろう。
C'は彼に、今一度問うことにした。
「外から見た、ディーとは。どういう人なんだ。教えてくれないか。頼む、ブラッド」
一度だけ、ブラッドはまぶたを頷くかのようにゆっくり閉じて、開いた。
「マエストロ・ディー。そして調律者C。彼らはCoL二期生の最後の生存者にして、疑いようのない傑物だ」
【ディー(指揮者) :超距離広範囲の敵・味方すべての拍動観測及び平行指示・ノイズキャンセリングによる干渉、遮断体質は観測に悪影響を及ぼさないが肉体のダメージは通る】【CoL二期生】
【C(調律者) :他人の拍動を強く感じ取る共感能力と強靱な拍動耐性。ディーの観測に合わせて拍動調整と士気の維持を務める】【CoL二期生】
「どっちも花形のエースアタッカーじゃない。でも、この二人がいるだけでミッション参加者全員の拍動に対する耐久と生還率が跳ね上がる」
CSたちは端末から送られた情報を覗いた。自我が容易に圧殺されるこの世界で、被害と不意打ちを抑えるバリアサポーターと耐久力もあるバフつきヒーラーの存在の価値は、CSとC'にもよく分かった。
「二期生は、ブルームポットと戦った時点で、二人しかいないの?」
「『華拝み』……|FlowerTestamentというカルトを知っているかい? ほら、行政区からも見える尖塔があるところさ。あそこと郊外で大規模な衝突があって、まるごと『咲いた』ってログがある。ぼくも読んだだけ」
「咲いた? 今日、鎮圧した暴漢もそんなことを……」
C'はブラッド合流直後の暴漢を思い出し、口元に人差し指の第二関節を当てた。
花びらをまき散らしながら叫び、異様な拍動で震えていた。CSも、ブラッドも、それぞれ思い出したり、ログを見始めたりする。
「彼らは咲いたとかブルームドって言うけど、ぶっちゃけ自我溶解さ。拍動汚染末期の温床だよ」
「そんなことして大丈夫なの!?」
「大丈夫なわけないよ。CoL設立あたりから急に力を付けてきて、現状、解体できるものがいないのさ。警察でも攻めあぐねてる」
C'はもちろん、念のためCの記録とブラッドの説明を照合する。
――二期生は当時参加できなかった俺と彼しか残らなかった。ブラッドの提出したログも合っている。
(照合確認……結果は痛み分け。華拝みとCoLの確執もまた、今日に至る)
確かめているうちに、ブラッドの方からも情報が出る。
「一応、警察の方から華拝みの活動情報出てるね。さっきの暴漢、どっかで『しあわせ』を浴びて拍がおかしくなったタイプかも。少し気をつけた方がいいね」
ブラッドは端末を弄ってBROの最新情報だけ見て、再び頬杖を突いて窓の外を見た。
「C氏の喪失で、ディー氏は思ったより孤立している、かなあ。君たちの話を聞く限り、あんまり人に内面を覗かせたがってないっぽい。これぼくが来たタイミング最悪じゃない?」
ブラッドの鋭い指摘と気まずそうな呟きは二人も頷かせたが、残念ながら当人はどこにもいないのだった。なので、それはあくまでも独り言として処理され、CSの意識も、別のところに向く。
「ブルームポットと、ふらわー、えーと。一旦これでいいや、ふらわーは同じ陣営?」
「断言する。同陣営だったらニルヴェイズはもう滅んでるね。ブルームポットの活動圏は郊外、華拝みは都市内で、『しあわせ』による溶かしの二大巨頭だよ」
――半分はもう溶けてる。
何気なく言っただろう、ディーの言葉がC'の中に突き刺さる。それぞれログを見ながら、コーヒーやケーキを食べて情報を交換し続けている。
CSは液体ケーブルにこぼしてしまわないように、ここでやっと水筒にそれをしまった。




