響くというきもちよさ
(音が身体の中で反響している……『すき』な音なら、響かせても……いい)
C'がからっぽの残鳴機構の内側を感じてみると、聞いた分だけ拍が入っていた。なんとなく、Cを再生した時のように内側で響かせてみる。
(ああ……思ったより、きもちいい、かもしれない。怖くはない……)
そうすると彼はリズムに反響して軽く頭を揺らし、表情を和らげた。丁度いい気持ちよさだった。
「これぐらいがいい」
「やった。C'が好きな曲、帰ったら聞かせて~!」
「君も選んだのか?」
「はげしいやつ買っちゃった」
「激しい……興味はあるが、まだ聞けなさそうだ」
ゆっくりでいい。そんなにこにこ顔を見て、C'はそっとジャズピアノの音楽集を買った。CSが快楽に躊躇がないのは知っているので、C'は適切な距離から少しずつ聞くことにした。ブラッドはここでは何も買わなかったが、それは彼の目的である三階が理由のようだった。
「三階三階~、しーぷらいむも早く!」
「ああ、すぐ行く」
今度は一緒にエスカレーターに乗って、ゆっくり三階へ上がっていく。C'もポスターを見る。
BROから出された『わかりすぎていませんか?』のスローガンポスターはきっと子どもに描かせたコンテストのイラスト。
『違法液体ケーブルに注意!』のクールなCoLの警告ポスターは安全な拍動ライフに一役買っている。オミミナイナイは音楽以外のものもいっぱいある。
ブラッドとCSは前を見ている。すでにちらっと見える華やかな飾りが、CSの興味を引いてその頭を揺らす。
「今、三階でフェアやってるんだよね。液体ケーブルフェア」
「えっ、えっ、液体ケーブルフェア!?」
CSが目を輝かせたところで三階の液体ケーブル売り場へと到達する。ここに、重要なときめきは間違いなく配置されていた。
『とろとろ拍動フェア~液体ケーブル大集合~』。三階はフェスまっただ中だ。丸くデザインされた愛らしいスライムのバルーンや、カラフルなガーランドで彩られている。
なんなら、音に合わせてぷよぷよ動くハッピーな宣伝用の踊る液体ケーブルもあるし、一緒に踊ってくれそうな小さくスライミーでダンシンなおもちゃもある。
「お、お、おあぁ。わぁぁ……!!」
三階には液体ケーブルがずらりと並んでいた。銀、オレンジ、青、赤、紫などなど――もちろん品番それぞれに各種カラーバリエーションもいろいろある。
演奏用のもっと大きな液体ケーブルもある。大きな拍動装置に繋げるための大容量もある。
そこは液体ケーブルの楽園だった。みんな丁寧にパック詰めされて、並べられて買われるのを待っている。CSは一つ残らず、繋がってみることにした。
「見て! 見て! こ、こんなのしあわせ、まちがいなくしあわせっ! あっ、この銀色の子は知ってる!」
銀色はCoL規格の高品質品。安定感と長持ちで新米から熟練まで愛される。
「うわっ、この子しゃりしゃりじゃない! ぷにぷにだ! あっ、でも! ふふっ、ぴりっとする! きもちいい!」
オレンジは朝起きる時にしゃっきりできる、爽やかな繋がり心地。
「おおっ、何かすごく集中してきたかも……頭がすーっとするぅ。こっちは、あっ! わっ、びりびりじゃりじゃりしてる! すき!」
青は集中、オフィスに引っ張りだこの頭の中もクールにできるタイプだ。
赤は拍動の増強。ライブでこれを繋げば、強いびりびりばりばりの快感を痛快な娯楽として楽しめる。ついでに赤は液体ケーブルもやや跳ねる傾向がある。びよびよする。
「あっ、この子好きかも……かわいい~。やわらかぁい……たぶんC'もすきぃ……」
紫はチルな気分にさせて、安眠にも一役買っているリラックスタイプ。CSは規格や使用を見比べて全てカゴにぽいぽい入れ始めた。
持ち主が激しい幸福を覚えている気配を察知したのか、にゅっと水筒から黄金の液体ケーブルが頭を出す。いつものようにすりすりしゃりしゃりと片手で撫でながら、CSは最高の楽園のために全ての財産をなげうつ覚悟に目を燃やしていた。
「やっぱりメジャーどころはユーフォライン・ファクトリーっていう老舗の液体ケーブルかなあ、他にもメーカーはあるよ。例えばこの青いのは、ぼくの好きなメーカーの……ん!?」
そして、その場にいて解説がてら、クールな青を買おうとしていたブラッドは二度見した。そう、彼はここで初めてCS規格の自律する液体ケーブルを目撃した。
自律する液体ケーブルは一般品ではない。むしろ真実を知れば、BloomPotにくっついてる最高にヤバい代物という認知の方がきっと先に来る。
一人で品質のいいハイでレゾな液体ケーブルを眺めていたC'は「あっ」と声をこぼしたが、もう遅い。これは偶然の事故だ。
良くも悪くも研究者気質のブラッドの目は、きらっと輝いていた。
「それ、何だい!? 見たことない規格だ。少し見せてくれないかな? いや、ぜひ解析させてほしい。どこのメーカーだい?」
「あっあっ。いつも通りに出しちゃった! あぁっ! えっとね、えっとね、話すと長くなっちゃうんだけど! あ~! 適切なごいがない! どうしよう、しーぷらいむ!」
C'はCSブラッドにすっと近づいた。それこそ、戦闘技術を学んだものがすっと間合いを詰める動きだ。
「ブラッド、取引をしたい……ケーブルのことは、調べて良い。買収を……君を買収する意図もある。……他言無用で、頼めないか」
「えっ? あっ? これ結構、真剣になる感じの案件かい?」
「そうだ。極めて、重大な案件だ」
「っ、こらこら近い近い。君がそんなに必死になるのは、どうも友達としては言いにくいみたいなニュアンスを感じるが……い、いいとも。男に二言はないよ?」
C'の口から言葉に出たのは結構、現状できる最善を使った、切実なお願いだった。自分たちの立ち位置について、誰彼構わず話すのがまずそう以外に情報がないからだ。
ブラッドはどっちかというと、自分の大人げない知的興奮と性別不詳のツラのいい二人と至近距離な状態を自覚して、顔が赤くなっていた。二人の運が良かったのは、ブラッドくんが底抜けにイイヤツということだったのだろう。
また、運が悪かったといえば、ここが店内の往来で、誰でも彼らを目視できるという状態だったのだろう。
店内のアルバイトの一人は、三人をずっと観察していた。まるで『しあわせ』であるかどうか、確かめているかのように。
《しあわせ拍動譜面記録007:オミミナイナイ店内BGB/ジャンル:ポップ/BPM:135》
【豆知識『液体ケーブル』:この世界に満ちる拍動を運んでくれる素敵な存在。基本的に自律しないが、音に応じて踊るおもちゃや振動するケーブルは存在する。やっぱスライム的な存在ってかわいいもんね。非合法の『溶かすスライム』もいるので注意!】




