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ショップ『オミミナイナイ』へようこそ

 オミミナイナイはニルヴェイズの中でも一、二を争う拍動装置取扱店だ。

 ショッピングモールにも店はあるが、ここは建物一つが丸ごと拍動装置や拍動遮断性素材(防拍素材)で埋め尽くされており、通な拍動愛好家にもたまらないショップとして長年愛されている。


 店に入れば今流行のアーティストの拍動つき音楽が『うきうきする』気分を引き出してくれる。

 あちこちで買い物客が一拍で聞き取れる視聴ボタンを押し、実際にじっくりかけて聞きたい・読みたい商品を探している。


 各種拍動装置、拍動遮断ヘッドフォン、打楽器をメインとした楽器類だってある。

 次点でかろうじて金管。出力の出ない楽器そのものの地位はだいぶ低め。声なんてマイクがなきゃド底辺だ。


「らっしゃい。学生さん? どうぞ」


 一階にはいかついサングラスを掛けた坊主の老店主、ホーイチさんもいて、様々な拍動装置のメンテナンスについてアドバイスをくれたり、修理をしたりしてくれる。

 耳は欠けていないが何回音割れで鼓膜と神経がちぎれ飛んだか分からない。液体ケーブルのおかげで神経医療は発達したので元気だ。

 

「液体ケーブルは三階か、丁度フェアをしているらしい。行こう。ん? あれ……あっ……」


 C'はいつもの口調だったが、その足取りはちょっとかろやかだ。

 が、本来の自分の歩調と合わないので違和感を覚えて、丁度いいところで立ち止まった。そのまま、彼はエスカレーターで二階へハケていった。


「あ~、足下うきうきだったねぇ……響いてるぅ、鳴いてるぅ……」


「あー、共鳴してる共鳴してる。なるほどねぇ、ヘッドセットありであれか。おーい、耳栓は一階だよー。まあいいか、上に行こう」


 二人もその後ろをついていって、まずは二階に向かう。CSはアーティストの新作に乗ったたくさんの情報を眺めていた。


 超重低音高BPMを打ち鳴らす爆音バンド『BLAST(ブラスト)』のぶち抜きライブのお知らせ。

 自然音を極限まで調整したリズミカルな加工インスト集。根強く人気の太鼓を使ったワ・ロック……。


 拍動メインのこの世界でも、たくさんの音楽は存在する。しかも解釈の間違いのない『感情』が、直で流れてくる。そのどれも聞いてみたくて、CSはそわそわと上の階と一階を見比べた。

 

「二階は拍動音楽~、ブラッドは最近のおすすめある?」


「ぼくは安眠用や昔の拍動なしオーケストラ集とかがほとんどだけど……刺激が強いのだと、BLASTとかどうだい? 轟音主義者だけど人気が高いバンドだよ。聞くなら気をつけてね?」


「轟音主義者のアーティスト? どんなだろう」


 CSはまんまとブラッドのおすすめに乗ってしまった。好奇心は止められなかった。

 繋がって良い液体ケーブルはそこにあり、お手軽に聞ける視聴用サンプルもある。

 ブチ抜き界に君臨する男・カカカ様のはじまりという絶対ヤバそうな文字列もある。


 もはや、繋ぐしかない。

 刹那聞こえるイントロなし、BPM180の爆音がCSの脳髄に直で突き刺さる。

 

 ――KrakKrakKraaaaaaaak(カ・カ・カァァァァ―――ッ)!!!


 Boooooom(ブゥゥゥゥムッ)!!!:英語的爆発音表現。でもこの場合は音圧マシマシ音割れギリギリシャウトの決め台詞で、急にこんなもん聞かせられたCSの頭もBoomした。


「う゛ぉぉぉぉぉほお゛ぉぉぉ」

 

 一度聞いたら忘れられない加速してゆく高速ドラム&シャウトが入ったBPMが上がっていくタイプのミュージックがCSのふわとろヘッドをしばき続けた。


 サンプル情報にはリーダーのカカカ様のサインもついた限定品は完売しましたとのこと。ロン毛にいかついメイクをした男が、舌を出しながら爪を立てるようなポーズを取っている幻覚がしばらくCSには見えていた。

 支配のための拍動ではない。それは間違いなく解放のビートだった。

 

「ほげぇ……しあわせだったぁ……でもちょっとつよいぃ……んひぃ……」


 キャワな生き物が出してはいけない鳴き声と共に、瞳を若干青ざめさせて目を回している。轟音主義者も千差万別かもしれないが、巨大な音を愛するという点では一切変わらないようだった。


「うわぁ、すごいことになっちゃったな……生きてる?」


「らいじょぶ。でも、しーぷらいむだったらないてた。んふ、んふふ……おっけー……きもちよくなってきた、もっとおねがいします……」


 ちなみにこの後、CSはBLASTのベストアルバムを買った。そして、この世で暴れ回る拍動音楽に、きっとこれからどはまりしていく。 


 側ではC'も静かなインストを探している。さすがに非拍動性の商品はほとんどないが、共鳴体質向けの優しいものもある。

 薄い黒手袋に包まれた指でリストを辿りながら調べていたC'は、CSが覗き込むのを見てから視聴したい曲を決めた。

 

「ふぅ、どう? いいのありそう?」

「……。これなら、聞けるかもしれない」


 自分の持っているCoL規格の液体ケーブル越しに音の少ない静かな曲を選ぶ。視聴はたった数秒の圧縮情報だ。ただ、頭にはいくらでも広げていられる。

 今じゃドマイナーなジャズピアノや、拍の数は質素ながら心地良いミニマルミュージック。

 歌詞も考えてしまうから、C'には必要はなかった。最後の拍まで終わって、残響が心地良く内側を震わせるのが、彼の心を安らがせていた。


《しあわせ拍動譜面記録006:初見殺し/ジャンル:GABBA/BPM:180~280》

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