グッドフェロー・マーチ!/ジャンル:行進曲/BPM:130
ブラッドは移動装置をOFFにして、軽やかにつま先でリズムを取って、タクトを振りながらご機嫌なマーチングビートを鳴らしてくれる。
CSの表情もぱっと輝く。
元気よくタクトを動かしたり足を強めに鳴らすとトランペットやトロンボーンが存在を主張する。金管楽器はニルヴェイズではかろうじて現役の楽器だ。アーケードの片隅で吹いている人もいるし、踊ってくれる人もいる。
音の種類も多い。バトルをまとめる指揮者以外ならどこでも引っ張りだこ。指揮者が振るうとバチカスうるさくてクセ強になる。そんな拍動だ。
(楽しい、音だ。分かりやすい。『すき』かもしれない)
つい反響を起こして頭を軽く揺らしながら、C'はCの知識大辞典ではなく、自分で覚えた座学と端末から得た情報を探す。
「君の拍動は金管楽器とブラスバンドのドラムの音を感じる。拍が取りやすいな」
「かぁっこいい! 拍動装置はビートスコアっていうの?」
「この移動装置と一緒にCoLで調整してもらっていたものだよ。そこら辺の液体ケーブルや拍動機器を介して、重ねて拍動を発射したり、向きを調整したりするのさ。きみたちのにも名前、ついてないかい?」
「え? ……あ、あるぅ!」
よくよくそれぞれの装備を見てみれば、CSの腕輪には《拍動補助装置:BeatAimer》。ヘッドセットには《拍動共鳴装置:BeatOrder》って書いてあった。
ディーはワーカホリックで二人のいないところでメンタルをやっているが確かにしごできだ。ちゃんとCoLの普通の参加者として紛れて暮らせるように揃えてくれている。
二人は静かに保護者の輪郭を思い、感謝をした。そして今どこで何してんだろうなと思う以上に想った。
「騒々しいからぼくはぼくの拍をあまり好きではないけど、これをどうするかもCoLで決めようと思ってるよ。ご清聴どうも」
ブラッドがきゅっと片手を握ると、音はぴたっと止んだ。そして今度は、二人がタクトと楽譜台をしまった彼から眺められる番だった。彼は腕を組んで、まずはCSの方に視線を向けた。
「っと、そうだった。シーエス。きみって、ひょっとして『しあわせ拍』持ちかい? あんな自然に撃つ人は初めて見たよ」
「あっ! それ! 誰かに聞こうと思ってたんだった! 『しあわせ』のおさらいしたい!」
「まさか、しあわせ拍のおさらいをしないといけないのかい!? きみのために!? このぼくがァ!? いいよ」
「やったぁ」
なんかだんだん愉快になってきたので大人しいC'はおさらいを待つことにした。もちろん、次の瞬間にはブラッドくんは端末を介して、丁寧に教えてくれた。
「えー、しあわせ拍とは。承認。安心。和解。官能の四種類の拍動……『感情と感覚を発生させる振動』の特に危険なグループ、その総称だ」
承認。あなたをゆるしている。許すと許されるの関係を作って上下を決める。
安心。あなたはここにいていい。行動力と自我を停止させる。
和解。あなたのみかた。こわがらないで。抵抗を奪い、共鳴状態に開かせる。
官能。あなたをきもちよくしあわせにする。魂まで貫通する快楽によって溶かす。
「つまり、
『絶対の許しによる上下決定と支配』
『安心感による自我沈静・無力化』
『仲間意識による同化促進』
『官能的な快感による物理併用の侵食』
……どれも長時間食らったらキツい拍動汚染がつくやつばっかり。君が撃っているのは本質的には人間が避けられない幸福が詰まってる感情と感覚のデータの塊ってこと」
「相手と出力を選んでうたないと、絶対だめ。だよね?」
「偉いね。そうだよ。並みの人間は、ものの数発で君にノせられておかしくなってしまうだろう」
「わたしの拍動、すごいパワーなんだよね。しってる!」
CSもこのあたりはリハビリをして分別が付いたので、むやみにずんずんするのをやめている。そして、小動物が如ききらきらな知的好奇心も失われていない。
その好奇心が世界観のデリケートな部分をブッ叩く棍棒に変貌する。
「あれ? 官能の『か』は『せ』の音じゃないよね?」
「あ~……もっと即物的で露骨だったんだけど、被害を受けるのが精神や魂がメインってことでCoL立ち上げあたりで差し替え運動があったのさ。かといって生命だとちょっと、抽象的すぎてみたいな……」
ブラッドは頬を掻いてほのかに言葉を濁した。C'もCの記録経由で確認したが「あ……」とだけ声を漏らし、即座に視線をそらして沈黙を貫いた。そういう単語だった。
CSは二人を見比べた後で単語は思い当たらなくても「はっ」と何かを察した。そして「あっ……」と顔を赤らめて口元を手で覆い、しきりに頷いておおっぴらに聞かないと誓った。
ちなみに改訂前の頭には『性』がついてた。
パブリックな場所で口にすると、ひんしゅくを無料でアホほど買える漢字二文字の単語だ。秩序寄りの三人衆は一人も口にしなかった。
三人は分かり合い、許可のないそれは所詮、電気ショックだという話にした。
「でもって、シープライムは声が軸か。他人に影響するものより、自己暗示メインだね」
「そうだ。拍動の音に共鳴して、そちらに寄ってしまう。今も、ニルヴェイズの音はたくさん入ってきていて、耳を澄ますと……いつも、少し、持っていかれている。ヘッドセットで動きやすくなったが、積極的な行動には自己暗示が必要だ」
「ふむ。確かに君と食堂で握手した時、響き方に違和感があったんだよね。強めの共鳴体質か。ちょっとあとで解析ログを共有しておくよ」
C'は頷いた。そして無意識に胸元に手を当てた。幸い、今日はエコーコアの邪魔は入っていない。
「よし。どこを案内しようと思ってたけど。ならば、耳栓を買いに行こう。液体ケーブルはぼくも買い直す時期でね」
「やったぁ! ニルヴェイズの拍動ショップ、わたしも気になる! 液体ケーブルちゃん!」
そういうわけで、路地裏に誘い込む『全身ASMR多数取り揃え』『拍強めのセラピーあります』『拍、食べられます』という看板や、通路脇にまき散らされたビートダウンのスクラップ、初対面でわかり合って遊びに行く民間人などを眺め、ぐずぐずに溶けたニルヴェイズのアーケードを歩くことしばし。
なんだかんだいい感じの三人はアーケードの南側にある一番大きな拍動機器ショップ、拍動遮断性素材も多数取り扱う『オミミナイナイ』に向かうのだった。
《しあわせ拍動譜面記録005:グッドフェロー・マーチ!/ジャンル:行進曲/BPM:130》
【BeatAimer:CSの拍動補助装置。見た目は蕩ける金色の腕輪に空色の光るライン。CSのコアが発生する無尽蔵なしあわせを、手から射出させる。指向性を定めるってこと。狙いを定めるもの・愛するもので言葉遊びされてる】
【BeatOrder:C'の拍動共鳴装置。銀色ベースにCSと同じ空色のラインが光るヘッドセット。自己暗示の補助。仲間とリンクして拍動の管理を助けてもらうシステムもついてる。銃は別売りだけどほぼセットで扱われるものとする】
【BeatScore:ブラッドの拍動機動楽譜。見た目はタクトと浮遊する指揮台。一定領域の場を形成しながら全員の拍動ログを観測、液体ケーブルや機器を介して出力や照準を調整する。ちゃんと連携しておけば、参加者の拍動調整もできる。おまけで移動装置つき】




